第14話 お化け屋敷

「これ、つけたら?」


 共哉きょうやが屋台の方から戻ってきたと思ったら、手に持っていたお面を渡してきた。

 黒い狐の面の目元には赤く縁取られていて、面の下半分が無く口元以外は隠れるようになっている。


「なんでお面?」

「これで、霧江きりえにはバレないだろ」

「はぁ…」


 呆れて、ため息をつく。


「顔がわからないのに、どうやって話しかけるの?」

「それは___、道を聞くとか?」

「何度も同じお面の人から道聞かれるの怖いと思うけど。不審者だよ。不審者」

「尾行してる時点で不審者だけどな」

「それに声でバレるかもよ」

「あっ」


 ◇


 尾行は順調?に進んでいき、人の数も増えてきた頃。


「次、お化け屋敷行くみたい、どうする?」

「中に入るの?」

「入んないと二人の様子見れないけど」

「どうする?」

「友達としてお化け屋敷に同行するのがいいと思う」

「……」


 正直あまり気が進まない。私と霧江が対面したら気まずくなるし、空気も冷めてしまう。


「俺が行こうか?」


 このまま、共哉に任せるのはダメだと思う。だから__、


「私も行く」


 頭につけていたお面を一旦外し、髪を結ぶ。ロングだった髪型は数十秒ほどでハーフアップになる。仕上げにお面をかぶれば、もう誰も私があおい深雪みゆきとは分からないだろう。


「どうこれ?」

「良いんじゃない」


 お面をしていると、不思議と落ち着く。自分のことを分かる人がいないみたいで、気持ちが軽くなるような。蒼深雪という存在が一時的に消えたような。


「行くか…」


 霧江たちがいるお化け屋敷の前へと歩き出す。


 ◇


 霧江たちの近くまで来て共哉が話しかける。


「また会ったな。お化け屋敷入るの?」

「うん。でも少し怖くて」

「俺たちもさ、入ろうと思ってたところだから、一緒に行こうぜ」

「一緒に来てる友達って後ろの子?」

「……」

「ごめん、こいつ人見知りでさ」


 声を出すとバレるかもと思っていたところ、共哉がフォローを入れてくれた。これで、喋らなくても怪しまれない。


「私は望月もちづき朝日あさひ、よろしくね。あなたの名前は?」

「えっと…それは__」


 聞かれたわけじゃない共哉がものすごく焦っている。


あかねよ」

「茜さんって言うんだ。よろしく」


 少し低い声で名前を答える。名前を聞かれるかもと、事前に考えていたのだ。

 視界の橋にいる共哉が少し、プルプル震えている。何がそんなに面白いのか。


「それじゃあ、四人で入るか」

「人数多い方が怖くないもんね、霧江くんも良い?」

「大丈夫だよ。すっごい心強い」


 霧江にも気づくれていないようだし、順調にいってる。


「よろしくね、茜さん!」


 霧江が笑顔で挨拶をする。私はただ頷くだけで声を出さない。

 霧江の目に今の私はどう映っているだろうか。そんなことを考えながらお化け屋敷の中に入っていく。


 ◇


 お化け屋敷の中は暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。

 実のところ、私はそこまでホラーに耐性がある訳ではなく、不安である。


 しかし、共哉たちはどんどん進んでいく。

 急に音が鳴る仕掛けや、呻き声や悲鳴などで咄嗟に耳を塞いでしまう。お面をしているため視界は悪いのだが、それでも目を瞑ってしまう。

 それでも、悲鳴をあげずについていってるのは自分でも凄いと思う。


「大丈夫?」

「!」


 怖がっている私に霧江が声を掛けてきた。その声に今までの恐怖が全て吹き飛んだ。


「怖かったら手繋ぐ?」


 その問いかけに、ぶんぶんと首を横に振る。

 手は繋ぎたいけど、子供みたいで恥ずかしい。


 私の反応に霧江は苦笑しながら、「怖かったら言ってね」そう言って前に向き直る。

 霧江が前を向いた瞬間、再び恐怖が込み上げてきた。


 震える手で、何かを掴んだ。それは霧江のジャケットの裾だった。

 霧江はそれに気付いたようだったが、何も言わずに掴ませてくれた。


 私の顔は恥ずかしさで真っ赤だ。口元の隠れていないこのお面では、紅潮した頬が丸見えだ。私は俯きながらジャケットの袖を掴み、進んでいった。


 今だけは、この下半分のこの狐のお面を選んだ共哉のセンスに悪態をつきたかった。

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