第13話 嫉妬の夏祭り

 お祭りの会場は池のある大きな公園で、池の周りを囲うように屋台が並んでいる。とは言っても完全に池の周りを這うように並んでいるのではなく、回っている途中に小さな橋があったり、開けた場所もある。


 霧江きりえたちはまず、一周回って目星を付けてから、屋台を回るようだ。


「尾行って暇だね」

「そうだな」


 二人が楽しそうに回るのを後ろからついて行く、すごく惨めに思えてきて今すぐにでも帰りたい。

 少し早い時間なので人はそこまで多くなく、後ろ姿はバッチリ見える。


「__ごめん、池の方に行ってくる」

「どうして」

「池の底に用事があるから」

「それ、池の中に入るってこと?」

「大丈夫、すぐ戻るから」


ーー入学式の日に。


 これ以上二人の様子を見ているとおかしくなる。溺死は嫌だけど、これ以上見たくない。


「やめろ。死ぬぞ!」

「__本望だよ」

「死ななくたって良いだろ、これから二人の邪魔すればチャンスあるって」

「そうかな?」

「そうだって。ほら、二人が行っちゃうから追うぞ」

「……」


 一人だったら、多分死んでた。いや、ここよりも前に、学校祭の時には死んでいたと思う。なんだかんだで、共哉きょうやに生かされている気がする。


「なんか、食べたいものあるか?」


 共哉が私を気遣って、声を掛ける。意外と面倒見が良いのかもしれない。


「ベビーカステラ__」

「OK。俺、買ってくるからその間二人を見ててよ」


 私が頷くと、共哉は駆け足で屋台へ向かった。

 口数も少なく、歩き方もフラフラで廃人のような私に付き合ってくれる。まるで、共哉がいないと何もできないみたいで気に食わない。


「二人は?」

「あそこにいる」


 少しして共哉が戻ってきた。

 人形焼きが二、三十個入った紙袋を渡してくる。私はそれを受け取り、一つ取って口に入れる。一口サイズの丸いフォルムで、暖かくてふわふわした生地にほんのり甘味を感じる。


「二人の距離近くね?」


 私が小さな幸せを噛み締めていると、共哉が口を開いた。

 二人は既に一周を終え、2周目に入っていて、今は射的屋で商品を狙っていた。


「どうする共哉?死んどく?」

「死なない!邪魔するの!」

「どうやって?」

「偶然を装って話しかける」


 そう言うと、共哉は二人のもとに近づいていった。

 私も霧江たちにバレないように会話が聞こえるところまで近寄った。


「よう、朝日あさひ!」

村雲むらくもくん!お祭り来てたんだ」

「うん、友達と一緒に。そっちは?」


 共哉が霧江を見る。


「クラスメイトの霧江くん、一緒に来たの」

「初めまして、霧江 優斗ゆうとです__。最近のあおいの様子どうですか?」


 共哉と話しているのを見られていたのか。そりゃ、放課後に一緒に帰っていたらわかるか。


「霧江くんは、蒼さんと同じ学校だったんだよね。元気にしてるよ、多分」

「そうですか」

「俺たち夜までいる予定だからまた会うかもな。それじゃあ」


 霧江たちにそう言い残して共哉はその場を離れた。

 私もまた、霧江たちに気づかれないように共哉を追った。


「こんな感じに二人の邪魔をして、二人で来ていることを意識させないようにしよう」

「私、無理だよ」

「なんで?」

「まだ、喧嘩中?見たいなものだから」

「時間あったのに、まだギスギスしてんの!?」

「__仕方ないじゃん」

「それなら__。」


 そう言い残した共哉は、屋台の方に向かっていった。

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