第12話 学校祭アフター

 霧江きりえとの関係が悪くなった後の学校祭は、とてもつまらなかった。

 だが、つまらなかっただけで、別の騒がしいヤツと絡むようになり暇になることは無かった。


 ◇


 霧江との関係は相変わらず悪いままで、修復しようと思いつつも、いつもタイミングを逃してしまう。

 霧江の方は、私に罪悪感があるのか度々視線を送ってくる。でも、目が合うとすぐに逸らし、話しかけようとしても避けられてしまう。


 もうすぐ夏休みだ。それが終われば体育祭。


 夏休みなんて特にすることはなく、今のように関係が悪くなっても霧江を見ていられる学校の方が私にとって良かったりする。


「おい、聞いてんのか?」


 共哉とは霧江と入れ違いで放課後に話すような仲になっていた。放課後、共哉の部活がない時に、情報交換をするということで一緒に下校するようになったのだ。共哉の部活は陸上部で朝日と同じだ。

 通学路は途中まで同じ方向だから、分かれ道まで一緒に話している感じだ。


ーーはぁ、霧江と一緒に帰りたいな。


「別に、今日も特に変わったことは無かったよ」

「そうか」


 情報交換と言っても、私と霧江、朝日あさひは同じクラスだからクラスでの方は私が情報を提供している。逆に共哉の方からは部活での朝日のことを教えてもらっている。


「そういえば、夏休みに二人で出かけるって」

「それを先に言えよ!もし夏休み中に付き合ったらどうすんの!」

「だから、前も言ったけど二人が付き合うのは体育祭なの!だから、まだ大丈夫」

「それが本当だとしても『大丈夫』なんて言ってる余裕なんてないからな」

「__うっ」


 確かに、共哉の言っていることは正しい。夏休みの期間と合わせても、体育祭まで一ヶ月ちょっとしかない。


「尾行するぞ」

「えー。夏休みになってまで霧江と朝日が一緒にいるとこ見たくないよ」

「わがまま言うな。体育祭に付き合うなんて確証ないんだから」

「本当だってば」


 こうして、白紙だった夏休みの予定にやることが一つ追加された。


 ◇


 夏休みに入り一週間が経った。八月も中旬で日差しが眩しく、部屋のカーテンを閉め切っている。

 この一週間、何もせずに部屋でゴロゴロとスマホを眺めて、眠くなったら寝るという、怠惰な生活を送っていた。


 しかし、今日は外に出なければならない。部屋着から着替え、鏡で自分の姿を見てみる。

 可愛げのないズボンに、黒いパーカー。スカートなんておしゃれなものは私には似合わないためタンスの奥に眠っている。パーカーは私が愛用しているもので一人で買い物に行く時などに使っている。ちなみに年中使用している。


 財布しか入っていないカバンを肩から下げ、家を出る。

 外の気温は暑く、蝉の鳴き声が響いている。


 重い足取りでバス停まで向かった。


 ◇


 目的地に着くとそこには共哉待っていた。服は、涼しそうな半袖に下はジャージ(学校指定のでは無い)。

 共哉は私の姿を見つけると、駆け足で寄ってきた。


「お待たせ」

「やっと来たか…」

「別に時間通りでしょ。霧江きりえたち来た?」

「流石に来てないよ。待ち伏せのために三十分早めに集合したんだから」


 現在の時刻は午後四時過ぎ。霧江と朝日あさひが来るのは四時半頃だ。

 霧江たちの目的は昨日から行われている夏祭りだ。

 毎年この時期に三日間開催していて、この街のイベント事の一つだ。


「共哉は、昨日お祭り行ったの?」

「あぁ、部活の友達とな。そういう、深雪みゆきは?」

「行くわけないでしょ。私、人混み好きじゃ無いから」

「そっか…」


ーーこれから、こいつと一日居るのは気が滅入るな。


「お前、暑くないのか?」

「このパーカー?暑いよ。でも日焼けするし__、あまり肌を露出させるとビッチみたいじゃない?」

「お前、それでも女子かよ」


 ◇


 二十分過ぎた。交代で休みながら、待っていた頃。


「あれ、霧江くんじゃないか?」

「どこどこ?」

「あの、灰色の半袖ジャケットを着てるの」

「__あっ…」


 外行きの格好の霧江を見るのは初めてかもしれない。あの格好の霧江をかっこいいと思う反面、朝日のために着て来ている事実に嫉妬してしまう。

 待ち合わせの時間よりも早く来ているところも嫉妬ポイントだ。


「ちゃんと、おしゃれしてくるんだ__。」

「……」


 そこから、少し沈黙の時間が続いた。霧江はソワソワとした様子で時計を確認している。

 それから、少し経って朝日が来た。気合の入った浴衣に霧江も少し驚いていた。こちらも、待ち合わせの時間よりも少し早く着いている。


「…深雪、追いかけるよ」


 共哉が声を掛けるが、私は気持ち沈んでいて立ち上がる気力も起きない。


 結局、共哉に手を引かれて二人を追いかけるのだった。

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