第11話 後の祭り

 何も言えずにいた私に、霧江きりえは「しばらく、一人にさせて」と、そう言い放ち立ち去ってしまった。

 その言葉は、言うまでもなく私にとって大ダメージであった。


 私はもうダメだと思い、閉鎖されている屋上に向かった。

 4階から上に続く階段には鉄格子がとりつけられていて普通は入ることができない。しかし、絶対に入れないということではない。

 階段の構造上、人一人ギリギリ入れる隙間がある。


 私は周りに誰もいないことを確認してからその隙間を通った。


 階段の先には扉があり、ここを開ければ屋上だ。

 ドアノブに手をかけ回す。しかし、ドアノブは回りきる前に止まった。やはり、鍵が掛かっているようだ。


 少し埃の積もった階段の踊り場に座り込んだ。

 どうしようもない無力感で何もする気が起きなかった。


 少しして、コツコツと階段を登る音が聞こえてきた。

 その足音は、4階に登っているには近すぎる。


 そして、足音の主が姿を見せる。

 ショートカットをした男子生徒。着ているクラスTシャツから、同じ学年の他クラスということはわかる。


「お前__、君は霧江 優斗ゆうとの彼氏じゃないのか?」


 男子生徒は私の顔を確認してから口を開いた。


「は!?私が霧江の彼氏!?」

「__違うのか、いつも一緒にいるからてっきり付き合っているものだと」


 私が一人で驚いていると、男子生徒は白けた声でそう言った。


「違くない、私と霧江は付き合うの。絶対!」

「あー、お前あれだろ__。ストーカー」

「ち、違うけど!」


 ストーカーなんて心外だ。全て、霧江を思っての行動だ。

 でも少し、ほんの少しだけ思うことがないことはない。


「というか、なんで此処に私がいるってわかったの?そっちこそストーカーじゃない?」

「俺、好きな人いるから、お前に興味ないし」


 告っても無いのに振られた気分だ。


「ていうか、ここでお前何してるの?」


 ここに来た理由は、屋上から飛び降りて死ぬため。それも叶わない今、私は何をしているのだろうか。


「__そういう、アンタこそ何しに来たの?」

「アンタって呼ぶな、舐められてる気がするから」


 アンタが先に「お前」って呼んだだろ。


「俺の名前は、村雲むらくも共哉きょうや

「私は、蒼深雪」

「単刀直入に言う__、俺は朝日のことが好きだ。だから、協力して欲しい」


ーー何だこいつ、めっちゃ上から目線だな。


「何で私が協力しないといけないの?」

「別に協力しなくても良い。だが今、お前が霧江のことを好きで、霧江は朝日のことが好きで二人の関係が良好である。それは蒼にとって良いことではないはず。だから協力して二人を離そうと言ってるんだ」


 こいつ__、改め共哉が言っていることは確かに筋が通っている。だが、実際私にとってはこの現状を無かったことにすることは可能だ。だから、あまりその提案には魅力を感じない。

 しかし、共哉を利用すれば霧江と付き合う確率が上がるし、無駄に死ななくて済むのは利点だろう。


「良いわよ。私も貴方を利用させてもらうわ」


 こうして、少し変わった協力関係が始まった。


「私のことは深雪で良い。私も貴方のことを共哉って呼ぶから」

「お、おう」


 共哉が照れたように返事をする。


ーー何だこいつ、気持ち悪いな。


 もう既にこの協力関係を無かったことにしたいと思っている私がいた。

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