第10話 裏切りと安堵
思ったよりも、早く
朝日の様子を見る限り、このまま友達と一緒に最後まで見るつもりだろうか。
私はもしかしたら朝日が体育館から出てくるかもしれないので、体育館入り口で霧江を待った。
数分後、霧江が体育館の前まで来た。
「
「ううん、見当たらなかったよ」
「ほんとに?ステージ見ててあんまり探してないんじゃない?」
揶揄う口調で霧江が言ってくる。
「俺も探すよ」
「大丈夫!ちゃんと見てきたから!」
「でも、体育館の中暗いし見落としあるかも」
「大丈夫だって!」
そんな攻防をしている間に朝日が出てくるかもしれない。私としては、早くここから離れたいのだが__。
そんなことをしているうちに発表が終わったのか体育館の方から拍手が湧き起こる。そして、数名の生徒が私たちの横を通り過ぎていく。
「__あっ」
霧江が何かに気づいたようで声を漏らす。
私も咄嗟に霧江の視線の先を見ると、体育館から出てきた朝日の姿があった。
「あの、えっと少し時間ある?」
私のことを置き去りにして霧江は朝日に話しかける。
「大丈夫だけど__蒼さんはいいの?」
「すぐに終わるし、大丈夫だよ」
「うん__私も大丈夫だから」
私も霧江に同調して言った。
そうして、二人が教室に行くのを見届けた。
途中振り返った霧江の表情から「嘘つき」と言われているような気がした。
◇
霧江に言われた通り、一応教室の前で他の人が来ないか見ていた。
教室の声はもちろん聞こえている。
霧江は少し恥ずかしいのか、告白の前に雑談を挟んでいた。
二回目で見た朝日の告白と重なる。
ーーもう嫌だ。
そう思った時、階段から足音と話声が聞こえた。
階段を登ってこちらに向かっていたのは同じクラスの男子たち。流れ的にこのまま教室に入っていきそうだ。
「__あの!」
これ以上霧江の期待を裏切りたくなかった私は、男子たちに声をかけた。
「何?」
「えっと」
このまま、足止めをすれば霧江の中の私の株は元に戻る。
しかし、霧江と朝日が付き合ってしまう。
「__?」
「何でもないです__」
男子たちの視線が気になって、咄嗟にそう答えた。
男子たちは止めていた足を再び動かし教室に向かう。
ーーまだ間に合う。今止めれば__。
『ガラガラガラ__』
教室の扉が開き中にいた霧江、朝日と男子たちの目が合う。
「あっごめん邪魔した?」
男子たちのリーダー格の一人が申し訳なさそうにいうとドアを閉めた。
リーダー格の人がまだ同じ場所で立ち尽くしていた私に気づくと、私がさっき言おうとしたことを察したように「そういうのはちゃんと言えよな」と言うと階段を降りていった
結局、霧江の告白は横槍が入って不発に終わった。
やってしまったと思う反面、心の奥底では良かったと安堵していた。
教室から出てきた霧江は泣きながら私のところに来た。
朝日が帰るまで泣くのを我慢していたようだ。
「どうして?」
霧江は小さく呟く。その声は震えていた。
怒りや悲しみの含んだ声に私は声を出せなかった。
「協力するって、良いと思うって言ってたのに」
霧江を傷つけてしまった罪悪感で胸がいっぱいだ。さっきまでの安堵とは異なり、焦る気持ちが強くなっていく。
「蒼は僕のこと、嫌いなの?」
「__っ違う!」
予想外の言葉に咄嗟に否定する。
「なら、なんで邪魔をするの!」
「それは__」
『好きだから』なんて、口が裂けても言えない。
もういっそう全て話せたらどれだけ楽だろうか。
「__しばらく、一人にさせて」
霧江は私にそう言い放ち、私の横を通り過ぎていった。
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