第9話 学校祭当日

 学校祭当日。準備期間で満足していたが、本番はここからだ。

 霧江きりえの告白を何とか阻止する。


 事前に直接霧江から相談を受けた私は、霧江が告白する場所と時間を知っている。霧江に協力するフリをしながら、何とか邪魔をする。


 告白のタイミングは、三日間あるうちの二日目。学校祭の盛り上がりがピークになる日。時間と場所は、部活の展示や有志の発表を自由に見れる時間に人の少ない教室で。


 私は、誰かが教室に入らないか見張りを頼まれた。

 二日目の自由時間、二人を会わせないようにするのが最善だ。


 ステージで開会式のセレモニーが行われている中、手汗の滲んだ拳を強く握りしめていた。


 一日目のスケジュールは、開会式とクラスのステージ発表。

 各クラス、五分間持ち時間があり、ダンスや劇を披露するのだ。


 霧江や私はステージに出ないので、当日の準備で忙しくなることはない。

 朝日あさひはというと、部活仲間に誘われて一曲だけ踊るそうだ(霧江が笑顔で教えてくれた)。


「楽しみだね」


 霧江の隣に行って声をかける。

 体育館でクラスごとに出席番号で整列しているが、皆セレモニーが始まってから、友達の近くに移動していた。


「そうだね、特に三年生のステージはどれも完成度高いから」

「去年のとか凄かったよね」

「本当に!もう一回見たいくらいだよ」


 私はすでに三回も見ているから、正直もう飽きている。


望月もちづきさんも出るから、応援しないと」

「そうだね__」


 霧江は集中して他のクラスのステージを見ていた。発表中は私語は一切しないが合いの手は入れる。発表が終わるたび私に感想を楽しそうに話すのだ。

 こういう、真面目なところが霧江の良いところだと思っている。


 そのうち、私たちのクラスの出番が近づき、着替えなどの準備がある人たちは一度体育館を出ていった。


「次はうちのクラスだね」

「望月さんどこで出るんだろ?」

「……」

「……」


 少しの間無言になる。告白のことを考えているのだろう。


「うまくいくかな?」

「大丈夫だよ、フラれたら私が慰めてあげるから」

「それは頼もしいなぁ」


 霧江は苦笑する。よく見ると手が震えている。

 そこまで真剣な霧江を見るのは初めてで、私は朝日に嫉妬する。


「告白は明日なんだから、今は学校祭楽しもう?」

「そうだね」

『次は二年一組の発表です』


 マイクで司会が話し始めると、霧江は前を向いた。


 ◇


 学校祭二日目。今日は保護者が来校してのステージ発表、その後に自由時間だ。

 流石に、もう一度クラスステージを見る気になれなくて、教室で作戦の最終確認をしていた。


「教室に誰もいない時を見計らって、望月さんを呼び出す。そして、あおいは教室の外で誰も入らないように見ておく」

「他に私が手伝えることはある?」

「大丈夫だよ、望月さんを探すのを手伝ってもらうくらいかな」

「そう__」


 私が先に朝日を見つけて、霧江に見つからずに朝日が帰ってくれるのを待つ。

 そんなことを考えながら、午後までの時間を過ごした。


 自由時間。手筈どおりに霧江と別れて朝日を探している。

 霧江は校舎全体と駐輪場。私は有志の発表が行われている体育館。

 霧江の方が量が多くて大変だと思うが、実際ほとんどスカスカの校舎で人探しをするのは難しいことじゃない。それよりも、人の多い体育館の方が大変だ。


 体育館に入ると入り口付近から全体を見渡した。生徒の大半はクラスTシャツを着ているため、どこのクラスか分かりやすい。

 見渡していると、私と同じクラスTシャツを着ている三人組を見つけた。朝日の髪は運動のしやすそうなポニーテールなので、後ろ姿でもわかる。


 そして、その三人組の中に後ろに髪を結えた朝日の姿があった。

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