第8話 勇気と逃げ道
二回目で二人が仲良さそうに作業しているところが、脳裏に過る。
私にとって、思い出したくない未来。その上、告白までしたなら本当に詰みだ。
そうなったら、また一年生からやり直しだ。正直、かなりめんどくさい。
ゲームみたいにセーブできたら良いのに。具体的には二年生の始まりくらいに戻れれば__。
そんな事を考えても現状が変わるわけではない。この世界を諦めるのは、まだ早い。逆転があるかもしれない。
でも、表向きは霧江と
邪魔するように動けば霧江に嫌われ、協力するように動けば二人は付き合ってしまう。どちらかなんて選べるわけない。
でも、最悪の場合は霧江に嫌われても邪魔をしなければならない。私のとっておきの最終手段だ。
「それでさ、告白のタイミングはいつが良いと思う?」
「あー、うん。まぁ二人きりになれるときじゃない」
すっごく曖昧に答える。
霧江が朝日のことを話す時の私はいつもこんな感じだ。
「呼び出すのが一番だけど、どこが良いかな?」
「人がいないところじゃない」
一回目の返事とほとんど内容は変わってないが、霧江は「なるほど」と呟く。
「
「えっ、あー大丈夫。心配しすぎだって」
「本当に?何かあったら言ってよ」
霧江に心配をかけてしまった。うまく隠せていたと思ったのだけれど、やはり昨
日のことがかなり心に来ていたのだろう。
「わかってるよ」
適当に返事をする。霧江に話してどうにかなることじゃ無いから。
もしも仮に、私が自分の想いを言い出せる勇気があれば、なんて考えるのは何回目だろうか。
◇
翌日。この日は学校祭の準備を放課後に残ってやる事になっている。
そして、二回目で霧江と朝日が仲良く作業をしていた日でもある。
仮病を使って休もうと考えたが、状況が悪くなるだけなので、ちゃんと登校してきた。
霧江が朝日と話している時の顔はとても幸せそうだった。霧江から幸せを奪うのは気が引ける。
放課後の準備時間。いつもより霧江にくっつき、朝日を警戒する。
「どうしたの?そんなにくっついて?」
「なんでもないよ」
霧江は納得のいかない、という顔でこちらを見ている。
「私は、何すれば良いかな?」
話を逸らすために係のリーダーに仕事を聞く。
学校祭では、クラス内アート、ステージ、クラスTシャツ、動画作成の四つを行う。他の学校ではクラスで出店みたいな事をするようだが、この学校ではしないみたいだ。私と霧江は同じアート作成の係についていた。
「そうだな、ここにある折り紙を適当なサイズに千切ってくれる?」
めんどくさい上に時間がかかりそうな仕事だ。
そういえば、一回目や二回目でこのクラスは切り絵を作っていた。「霧江のクラスが切り絵」なんて、一回目でくだらない事を考えているうちに朝日に盗られるなんて我ながら間抜けなものだ。
美術部に下書きを描いてもらい、他の人は折り紙を千切り、下書きが終わったらノリで千切った折り紙を貼り付けていく。
地道で大変な作業で、作業中は暇だから会話が多くなる。霧江が朝日の好感度を稼ぐ絶好のチャンスで、私にとって最悪の時間だ。
「霧江__」
「蒼。一緒にやろう」
ちょうど霧江に「具合が悪いから帰る」と言おうとしていたところ、霧江から私を誘って来た。
「どうして?朝…
「女子と二人きりだと緊張しちゃって、あんまり上手く喋れないから__。」
「それって、私を女子だと思って無いってこと?」
少し、ムッとした顔で霧江にツッコむ。けれど、嬉しい。
「それじゃ、パパッと終わらせて帰るか」
「そうだね」
私という存在は、霧江に勇気を与えてしまったが、同時に逃げ道にもなっていたようだ。いくら仲良くなっても朝日に近づくのが恥ずかしい霧江にとって、私と一緒にいるということは言わば、朝日と付き合いたい霧江の甘えともとれる。
ーーこのままずっと、私に依存していて欲しいな。
好感度どうこうよりも恥ずかしさが勝ってしまう霧江を可愛いと思う中、さっきまでとは打って変わっていつまでもこの時間が続いて欲しいなんて考えていた。
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