第7話 逃げ場のなくしたウサギ
後になって知ったが、
自己紹介で霧江が「アニメを見ることが趣味」だと言ったことに、朝日が反応したらしい。
ここからは予想だが、自己紹介の後に朝日は霧江に話しかけようとしたが、私が邪魔で話しかけれなかった。それで、霧江が一人になるタイミングを伺っていたのだろう。
何なら、一回目や二回目では自己紹介をしたその日のうちに朝日は霧江に接触し、徐々に仲良くなっていったのだろう。
二人の邪魔をすれば、霧江に嫌われかねない。嫌われることに目を瞑ったとしても、私は邪魔する勇気なんてない。
何かしたいのに、何もできないそんな葛藤の中、月日は流れていった。
◇
六月、だんだんと気温が高くなっていき、冬服から夏服に変わった頃。私たちの学校では文化祭の準備が始まっていた。
霧江と朝日の仲は、認めたくないけど良好なようで、霧江は楽しそうに朝日のことを話すようになった。二人は家の方向が逆なため、一緒に登下校はできないのが幸いだ。たまに二人で買い物に行っているようだが、その限りだ。
なぜ、その事を知っているかと言うと霧江から聞いたわけではなく、こっそりと尾行していたからだ。別に何か起こそうって訳でなく、ただ何もできないまま終わるのが嫌で、何かをしようとした結果の行動だ。
結局は、警察に不審者と思われて声をかけられてしまった。親にも連絡は行かず、大ごとにならずに済んだが。
前回の学校祭準備期間ではただ逃げる事しかできなかったが、今回は同じクラスのため逃げる事はできないし、逃げるつもりもない。必死に足掻いてみようと思う。
まだ、体育祭までは時間があるから。それに__。
「ねぇ、
「ごめん、何だって?」
「もう、ちゃんと聞いててよ」
ある日の放課後。その日も、私は霧江と下校をしていた。
学校祭の役割決めがあった日の帰りだった。
「学校祭の日、…朝日に告白しようと思ってるんだけど__」
「え!?告白!?」
「うん、告白するならやっぱりこういう学校行事にしたほうが良いかなって」
奥手な霧江が告白をするなんて信じられない。それよりも、霧江が告白するなんて一回目でも二回目でも無かった。どうして心変わりしたのか。
思い当たる事で言えば、私が居ることだ。元々、朝日に好意を持っていた霧江が学校祭の日に告白をしようとするなんて至って普通のことだ。だけども、私と同じように勇気が出せず告白は未遂で終わったのかもしれない。
確かにあり得る話だが、逆に言うと霧江と朝日が同じクラスになった時点でほぼ詰んでいるとも捉えられる。
「えーと、うん。わかった。とりあえず落ち着こう」
「蒼の方が落ち着いてよ。それで、どう思う?」
どう思う、なんて霧江は残酷な事を聞く。もしも、ここで「嫌だ」と言える勇気があったら未来は変わるだろうか。ここで私が霧江に告白したら、霧江はどう返事するだろうか。
所詮私は人間で、タイムリープしたからって性格は変わる訳もなく、詰まるところは私にはそんな勇気は無いということ。三回も学校生活を繰り返して嫌というほど実感した自分の情け無さに嫌気がさす。
「いいと思うよ」
「本当に!?」
どうしてこの口は強がりを吐いてしまうのか。それもこれも、全てが私の弱さで変えなければならない悪習慣だ。
霧江は無邪気な笑顔を私に向ける。その笑顔を向けられる私の気持ちなど知らずに。
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