第4話 タイムリープ実験
二回目の高校生活を送っている時に考えたことがあった。もしかしたら、もう一度タイムリープができるのではないか。タイムリープの条件は私が死ぬことで合っているのだろうか。
でも、私は試さなかった。もう一度与えられたチャンスを無駄にしたくなかったら。折角、
一回目での私は三年で再会して以降、霧江に彼女が居ると知ってからまともに話すことはなかった。それどころか、二年生でクラスが離れてから会話という会話をしていなかった。だからこそ、もう一度やり直せて霧江と学校生活を送ったことは奇跡だと思っていたのだ。
結局私は橋から飛び降りて、二回目のタイムリープを成功させたのだ。私が死ねばタイムリープが起こることはほぼ確実と言ってもいいだろう。
だけど、過信は出来ない。何らかの代償や回数制限があるかもしれない。もし、この先もタイムリープに頼ることになるなら__。
ーー実験が必要だ。
三回目の高校入学式の日。いつもよりも早くに家を出た私は、母が職場に行くのを近くで見届けてから家に戻った。両親は共働で父は私が起きるよりも早くに、母は私が登校した後に通勤している。
いつもなら、学校に丁度着くくらいの時間に家にいるのは何だかズル休みをしている気分になる。というか、約一ヶ月不登校だった私がズル休みを今更気にするのはおかしい気もするが。
私は台所まで足を運び、あるものを取り出す。あるものとは、どこの家庭にもある包丁だ。
今から私は、これで自分を刺す。
「すぅー、はぁーー」
大きく深呼吸をして刃の先を自分に向ける。刃を向けた瞬間、恐怖が一気に込み上げてきた。
どこを刺せば良いだろうか。首?腹?心臓?
特に、人体に詳しくないからわからないけど、刺したけど死ななかったというのは嫌だから確実に死ねるのが良い。
となれば__、心臓。
刃を向けた包丁の先を胸の辺りまで持っていく。
ーー__さん、にぃ、いち!
『グサッ』
内臓のブニブニとした感触が妙にリアルで、気持ち悪い。それよりも、何よりも、苦しい。溺死と比にならないほどの苦しさに襲われる。
そのうち、床に倒れ伏した。自分の流血が生暖かく、気味の悪い感じだ。意識が朦朧としている中、流血が視界を赤く染めていった。
【可哀想に…。いつもでも見守っているから、思う存分好きにしたら良い】
意識が遠のく中、そんな声が聞こえた気がした。
声の主も、姿もわからない。もしかしたら、幻覚を見ているのかもしれない。
何もわからないまま意識が途切れてしまった。
◇
目を覚ますと自室のベッドに横たわっていた。日付は四月の十日、時刻はさっきの四、五十分前。戻ってきた。
さっきの声は何だったのだろうか、家には誰もいなかった筈だし、鍵もかかっていたから誰も入ってこれるはずがない。というか、その声は直接脳内に送られてくるような感じがした。
「……」
どれだけ考えても、答えは出てこない。とりあえずは、実験を続けよう。
そう考えて、私はベッドから降りた。
◇
これまでは、事故死、溺死、失血死?をしてきた。だからあまり被らない方法を試すとしよう。
落下。屋上が開放されているビルの柵を越えて、落ちる。意識はすぐに無くなったが、地面に叩きつける衝撃はかなり痛かった。
毒。調達するまでに結構時間がかかった。毒死は比較的に苦しくなかった。自分が選んだ毒が良かったのかもしれない。
首吊り。睡眠薬を飲んで、首を縄に引っ掛ける。睡眠薬が効いた時点で意識がなかったため、苦しさはあまり感じなかった。一番コストのかからなくて、言い方が悪いが、お手軽だと思った。
実験の試行回数は、失血、落下、毒、首つりの四回。実験に対して試行回数が少ない理由は、毎回死ぬような思いをするため、精神的にかなりキツイのだ。
一応、結論は、代償も回数制限も無い。強いて言えば、毎回死ぬような苦しみを味あうのは代償かもしれないし、自分の精神力が持つまでが回数制限なのだろうか。
タイムリープから目覚める日付は四月十日で固定で、時間も午前七時前後。体に外傷はなく、私の他にタイムリープしている記憶があるものはいない。
以上が実験で分かったことだ。結局、失血の時の声は謎のままだし、あれ以来聞こえることはなかった。
七回目の高校入学式の日が始まるとともに、霧江と付き合うため再び動き出すのだった。
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