第3話 悪夢が再び
一年生(二回目)は進展がないまま進んでいった。
学校祭、夏休み、体育祭、前期期末テスト、一週間の秋休みを挟み後期、二年の系列・授業選択、進路活動、冬休み__そして現在に至る。
一回目よりも
後期にあった系列・授業選択は「進学系列」「情報系列」「福祉系列」の三つと、それぞれで必要な授業が選べるというものだ。私は何となく一回目と同じものを選択した。
後になって気がついたが、一回目では私と霧江の系列は別々でそのせいでクラスが分かれたのではないか、と。
今はもう仕方ないと開き直っている。
「もうすぐ一年が終わる_」
そうなれば霧江とは別のクラスになる。しかも、霧江のクラスには一回目の彼女である
朝日は高校で同じになった。私からすれば後から来て私のものを盗っていった泥棒猫だ。陸上部に入っていて、それこそ
二年になれば話す機会が少なくなる。これは一回目で経験したから分かる。だからこそ、ずっと一年生でいたい。
そんな私の願いなんて聞いてくれる筈もなく、残酷なまでに月日が流れていった_。
◇
二年生、始業式。やはりというか、予想通りというか私と霧江のクラスは別だった。
クラス名簿を確認すると霧江と朝日は同じクラスのようだ。この事実だけで学校に行くのが憂鬱になる。
クラスが別になってからは話す機会が減った。廊下ですれ違うと手を振るだけの関係が続いている。体育祭までにどうにかしないといけないのだが、霧江のクラスにいく勇気が無い。
そんな感じでどんどんと否応なく時間が過ぎていく。
夏休み前の学校行事、学校祭。その準備期間に私は霧江の様子が気になり休憩中に霧江のクラスを覗いた。
そこには、仲良さそうに朝日と作業している霧江の姿があった。
霧江には幸せになって欲しい。霧江を幸せにできる人と付き合って欲しい。朝日はその条件に満たすはずだが、欲を言えば霧江の隣は私が良い。
そんな矛盾に胸が締め付けられる感覚を覚えた。
私は逃げるように自分の教室に戻った。
◇
夏休みも終わり、体育祭当日。ついにこの日がやって来てしまった。
私は張り裂けそうな胸を抑えて、霧江の様子を伺っている。
今は朝日が競技に出ているようで、それの応援をしているみたいだ。
霧江が楽しそうに微笑む。
ーーその笑顔が自分に向けられていたらと、何度思っただろうか。
霧江が朝日に手を振る。
ーー見たくない。もう、これ以上は__。
嫉妬で頭の中がぐちゃぐちゃだ。
そんな状態だから体育祭に集中なんて出来るはずがなかった。
終始心ここに在らずの体育祭は終わりを迎え、放課の時間となった。
霧江は朝日に呼び出されて、空き教室に入っていった。
『ごめんね、呼び出して_。二人きりが良かったから_』
私は閉められたドア越しに二人の会話を聞いた。
最初の方は少し雑談をしていた。そのまま何もなく終わってくれと願った。
『それで、本題なんだけど__』
ついに朝日が切り出してしまった。
『霧江くんのことが好きです。付き合ってください』
何ともテンプレートな告白。それでも霧江は嬉しかったのだろう。その場で了承し、晴れて二人は付き合うことになった。
私は泣き出しそうなのを堪え、二人にバレないよう音を立てずにこの場から立ち去った。
とうとう二人は付き合ってしまった。
私は一人寂しく帰路に着いた。足取りは重く、顔は下を向いている。
空は曇っていて、そのうち雨が降ってきた。
「あ、雨__」
鞄の中に折りたたみの傘があるのだが、出す気にならない。
雨で体が冷えてきた。ワイシャツが体に張り付き、気持ち悪い。髪は濡れ前髪がおでこに付き、靴下は濡れて歩く度にぐちょぐちょとした感覚がする。
ーーもう一度死ねば、戻れるだろうか。
そんな考えが頭をよぎった。
その時、ちょうど橋に差し掛かった。川は流れが速く、茶色く濁っている。
ここから飛び降りたら死ねるかも。
私は橋の欄干に登った。視線が高くなり、恐怖が増す。
飛び込むことを覚悟したその瞬間、雨で濡れた欄干に足を滑らした。
ーーカッコつかないなぁ、私。
浮遊感に包まれ橋から落ちていく。水面が近づき思わず目を瞑る。
「__うっ」
叩きつけたような痛みがやってくる。勢いよく川の中に入ったため、高く水飛沫が上がる。
川の中は冷たく、流れる水の音がうるさい。咄嗟に息をしようと口を開けると口の中に水が入ってくる。土の味がして舌に砂のようなザラザラした感触がする。水面に上がろうとしても、うまく泳げなくて上がれない。
そのうち、息が続かなくなる。気道に水が入り苦しい。そんな状態が何分か続き、とうとう意識が途切れた。
◇
勢いよくベッドから体を起こす。上がった息を落ち着かせる。全身汗だらけで、今すぐにでもお風呂に入りたい気分だ。
スマホで日にちを確認する。四月十日。戻って来れた。
それよりも今は、溺死する苦しみから解放された事の方が嬉しかった。
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