2.
決起から数日後。
『魔女の宿り木』ラボの一室にて。
「……ということで。私とシロっちで異界に牢獄を作ってきた。看守は荒神先生と美玖さんにお願いした。」
……クロさん。あっさり言ってるけどやっぱり言ってることおかしいよ。
「魔竜の力を使ったり、脱獄しようとしたりすると私のお菓子生産魔法が発動して辺り一面お菓子だらけになるようにもしておいたよ。……でもやっぱり相手が相手だから怖いなあ。」
シロさんは珍しく不安そう。……そりゃ相手が超強い人型魔竜だしなあ。
「仮に湊先生が脱獄して危害を出した場合。私たち魔法少女が全員で湊先生を倒し、今度こそ滅ぼす。……良いね。」
「はい。」
「そうなった時。月影さんは好きな人を二度失うことになる。……その意味は、分かってるね。」
「……はい。」
シロさんとクロさんが念を押してくる。
そうなったら。月影先輩の二度目の絶望は私のせいだ。
だからこそ。私は月影先輩に寄り添って、湊先生が改心してくれるように力を尽くす。
どうすればいいかまだ分からないけれど。
杜坂。あんたにも手伝ってもらうよ。
これは私が始めたことで。
杜坂。あんたは私の相棒なんだから。
さて。
作戦開始秒読み段階。
シロさんが一同の前に立ち、作戦内容を告げる。
「今からみんなを、死後の世界……的なところに転送する。私はみんなをこの世に繋ぎ止めるのでいっぱいいっぱい。それ以外のことはもう出来ない。……クロっち。現地ではお願いね。」
「任された。」
「みんなは現地で、湊先生にこの拘束具を嵌めて。私と美玖さんと荒神先生が作った魔力抑制装置よ。魔力を使おうとするとお菓子生産魔法が発動する。嵌めてしまえばこっちのものだけれど、嵌めるまでが勝負だよね。基本的にはクロっちも現地でのみんなの維持でいっぱいいっぱいだから、戦闘は全部みんな任せね。……お願いね。」
シロさんが私を見据える。
これは私の始めた話だ。みんながそれに付き合ってくれてるんだ。
……私が、頑張らなくちゃ。
「はい。」
「湊先生が無力化出来たら、私が異界の牢獄へ突き落とす。そしたらあとは君たちを現世に戻して、これでミッションクリア、のはずだ。」
クロさんが力強く言う。
「……ってことは。私たち一回死ぬんだ。」
八雲が呟く。
「考えようによってはそうだし、私とシロっちがトチったら本当に全員お陀仏になりかねないね。だからこそ戦闘は任せたよ。」
クロさんは念を押すように重々しく話す。
「はい。」
「了解だよ!」
魔法少女たちはそれぞれ返事をする。
「他になにか言っておくことはある?」
シロさんが促してくれる。
今から始まるのは、みんなが私のために一緒に付き合ってくれる計画。
先に言っておかなきゃね。
「……みんな、ありがとう。」
私は本心からそう思っている。
「委員長も、杜坂さんも月影先輩も、魔法少女って仲間だもんね。友達を助けるのは当然でしょ?」
……武藤さん。
「私だって、ひまちゃんがいないのは嫌だもん。月影先輩だってそうだよ。」
……八雲。
「向日葵が行くなら私も行く。私は向日葵の彼女なので。」
……白峰さん。
ところで武藤さんってモテるんですね……?
「みんなで協力して対処すれば怖いものなしだよ!」
「みんななら勝てるさ。今度も勝てるよ。」
……標先輩。真影さん。
「すっかり。打ち解けられたみたいだね。」
「もう。委員長は心配いらないね。」
……シロさん、クロさん。
みんな、私に笑いかけてくれている。
杜坂。あんたのおかげだよ。
あんたが願ってくれたから、私は生き返って、こんな素敵な友達に出会えた。
ここに、あんたもいてくれたらなあ。
「一宮さんとパスを繋いで、お前たちの様子は私と美玖さんでモニターしている。直接手は出せないが、助言くらいはできるはずだ。……見守っている。行って来い。」
「無事に帰って来てね。八雲。みんな。私と荒神先生は見守るしか出来ないけれど、みんなの無事を祈ってるから!」
はい。荒神先生。美玖さん。
……行ってきます。
「みんなのためにごちそうを用意して待ってるからね。将来の義妹のためにも、頑張るのだ!」
「だから私は向日葵の彼女です! 八雲の彼女じゃないからあなたの義妹になる予定はありません!」
一同がどっとずっこける。
死ぬかもしれない作戦前だというのに、なんて和やかな。
「まあ、緊張感ありすぎるのも苦しいしちょうどよかったんじゃない? そろそろ気持ちを締めて始めようか。」
クロさんが流れを変える。
「もう、大丈夫かな。……じゃあ、始めるよ。」
シロさんの一声が場を和やかムードから作戦前の緊張ムードに戻す。
シロさんが呪文を唱え始めると、私たちの立っている床に光り輝く文様が浮かび上がる。
魔法陣ってやつなんだろうな。
文様が完成すると、その光は一層強く輝く。
「始めます!……3、2、1、転送おおおおおおお!」
シロさんが叫ぶ。
「来るよ! もう構えといて!」
クロさんが叫ぶ。
一帯が眩すぎるほどの光に覆われたかと思うと、私達は『魔女の宿り木』ラボではないところに転移していた。
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