#魔法少女ユリレー 第14話 『咎人たちの罪滅ぼし』

星月小夜歌

1.

「なにはともあれ、みんなおつかれさん、と。」

「荒神先生、元魔法少女だったんですか。」

「そりゃこの海百合学園自体が、魔法少女のバックアップ組織たる『魔女の宿り木』のカモフラージュ組織だかんね。そこの教職員にだって魔法少女の関係者が紛れてても何もおかしくないだろ? 魔法少女を監視・監督・支援するのにこんなに都合のいいポジション。他にあるか?」

「言われてみればごもっとも……。」

「んで、いよいよあんたまで魔法少女になったわけだね、クラス委員長さんよ。」

「ええ、はい。」


 ここは「魔女の宿り木」という場所らしい。

 海百合学園旧校舎の地下にある学園内の魔法少女の支援機関らしい。

 代表は八雲のお姉さん、白百合美玖さんらしい。

 そして私、委員長に話しかけているのは私のクラス担任、荒神あらがみ波濤はとう先生だ。

 ちなみに担当教科は世界史である。

 ……荒神先生が元とはいえ魔法少女だったなんて。

 そしてこの海百合学園そのものが魔法少女のバックアップ組織だったなんて。

 びっくりしすぎて事実の認識が追いついていない。

 

 私は新入りの魔法少女として、白百合……ここで白百合呼びは美玖さんもいるししたほうがいいよね……でもむず痒い……ああ、もういい! どうせこれは私のモノローグで白百合八雲には聞こえてないんだから、八雲でいいわ! ごほん。

 私は新入りの魔法少女として八雲たちにこの『魔女の宿り木』に連れてこられている。

 そこで出くわしたのが、まさかのクラス担任である荒神波濤先生というわけだ。

 

「んで、一宮さんに黒川さん。委員長。」

 シロさんとクロさんには『さん』付けなんだ。この学園の生徒はほぼ呼び捨てにする荒神先生だけど、シロさんとクロさんがこの学園の生徒じゃないからだろうな。

「もう倒されているとはいえ。保険医の湊ユズ先生が人型の魔竜で、それも頭脳派と肉体派を一体でこなす格と実力で、さらに委員長お前を一度は殺し、果てには病魔法少女となった月影と契約してそれを飼っていた、と。そして委員長。お前は一宮さんと黒川さんに蘇生され魔法少女となった。これは全部事実か?」

「「間違いありません。」」

「はい、すべて実際に見ました。」

 シロさんとクロさんに続いて私も答える。

 荒神先生は頭を抱えている。

「まず、まずだ。さっきも言ったがこの海月学園がそもそも魔法少女のバックアップ組織、支援機関だ。そんなところに教職員として魔竜が紛れ込み生徒を食らっていた。これは大問題だ。」

 美玖さんがうなだれている。

「うなだれるな美玖……さん。おま……貴女独りの責任ではない。」

 うなだれる美玖さんに気まずくなったのか荒神先生がフォローを入れている。

 荒神先生は美玖さんに、まるで生徒に話しかけるみたいな口調で話しかけては訂正している。

 もしかして美玖さんも海百合学園の卒業生で荒神先生の教え子だったのかな?

「教職員サイドは私が調べよう。他にも怪しい奴が紛れ込んでいてもおかしくない。いくらこの学園の出資元たる白百合家の御令嬢にして『魔女の宿り木』代表の美玖さんでも、教職員の調査は限界があるだろう。美玖さんは引き続きこいつらのサポートを頼む。」

 こいつら、と言いながら荒神先生は私達の方を向いている。

 口調こそ荒っぽいけれど、荒神先生は面倒見のいい先生だ、と私個人は思っている。

 荒神先生は、どんな魔法少女だったのかな。

「ああ、美玖さん。貴女にはもう一つ頼みたいことがある。」

「なんでしょうか、荒神先生。」

「こいつらの調査だ。」

 美玖さんが私達を? 調査?

「あの。でも。荒神先生。この子たちは信用できる子たちですよ?」

 美玖さんが困惑している。

「そうですよ荒神先生。ここまで必死に戦ってきている私達を疑うなんてひどくないですか?」

 武藤さんたちもざわついて抗議を始めた。

 が、荒神先生は全く気にも留めない様子で武藤さんたちをどうどうとなだめている。

「落ち付け。お前たちを怪しい奴だとか魔竜だとかと疑っているわけではない。それは保証しよう。だが、腑に落ちない点もあるんだ。」

「腑に落ちない?」

 白峰さんがオウム返しで返事をする。

「お前たちの経歴は、大雑把にだが美玖さんから聞いている。」

 そして荒神先生は私たちのうちの、何人かの手を引いて、私達を4つのグループに分けた。

 1群、武藤向日葵さん、八雲、私(委員長)

 2群、白峰朔夜さん、シロさん、クロさん

 3群、標まばゆさん

 4群、真影ニケさん

「武藤がいる群を仮に1群、白峰がいる群を仮に2群とする。ここにいない杜坂と月影は標の群だ。そして武藤。お前は便宜上1群だが、2群でもある。真影は特殊過ぎるので一人だけの群だ。だが今回問題なのは真影ではない。」

 そう言うと荒神先生は、白峰さんやシロさんクロさんの群を見つめて続ける。

「……白峰、一宮さんに黒川さん。そして武藤。……やはり、偶然にしては数が多すぎる。」

 荒神先生は、まるで難解な試験問題を配られた生徒のような顔で2群の魔法少女たちを見つめている。

「本来、魔法係数の高い魔法少女……この場合は、魔法少女を生み出すくらいの魔力を持つ魔法少女を指している。そんな魔法少女の発生は、現状では偶然に頼るしかない。そのくらいのレアケースだ。……本来はな。」

 荒神先生はその辺りを見渡すと、紙を何枚かとペンを持ってきた。

「借りるぞ、美玖さん。」

 そう言って紙に何かを書くと、その書いた紙を私達に持たせてきた。

『1群:誰かに魔法少女にされた』 武藤向日葵さん、八雲、私(委員長)

『2群:誰かを魔法少女にした』 白峰朔夜さん、シロさん、クロさん

『3群:不明(+杜坂、月影)』 標まばゆさん

『4群:影からの変性』 真影ニケさん

 そういうグループ分けか。

「標、杜坂、月影がどうやって魔法少女になったかは、ここでは考察しない。問題は2群だ。……さっきも言ったが、他人を魔法少女に出来る魔法少女なんて、本来は偶然頼みのレアケースだ。なんでそんなレアもんが武藤も含めて4人も発生しているのか。私はそれも気になるのだ。」

 さらなる未知の情報に、私は今日何度驚けばいいのかわからない。

「そんなようなことは、前に金場という先生が言っていた。……もっとも、金場というのも先生というのも認識阻害での偽装らしくて、本当は私らと同い年らしいですけど。」

 白峰さんが冷静に続けている。

 やっぱり、白峰さんは他のみんなに比べて一つ上というか、実力があるように見えるなあ。

「国語教師の金場もか。こりゃあなおさら、教職員連中をしっかりガサ入れしなければ。」

 荒神先生は、はぁとため息をつきながら、今度は白峰さんと武藤さんの前に立ち2人を見つめる。

「それと。特に興味深いのが白峰に武藤。お前たち二人だ。……武藤。」

「ひゃ、ひゃいっ。」

 いきなり名指しをされて武藤さんはビクッとしている。

「お前は、白峰に魔法少女にされていながら、八雲を魔法少女にした。魔法少女にした・されたを両立しているのは、現時点ではお前ひとりだ。」

 荒神先生は、今度は白峰さんをじっと見つめる。

「そしてその武藤を魔法少女にしたのがお前、白峰と。武藤がここまで規格外の有様になっている以上、その大本となったお前もまた規格外と言えるだろう。」

 魔法少女たちはさらにざわつく。

「誰かを魔法少女にするのって、全員が出来るわけじゃないの?」

「え、レアケースが4人ってそんな大事おおごとになってたの?」

「はい静かに。」

 めいめいにざわつく魔法少女たちをまたも荒神先生がなだめて落ち着かせるとまた話し始める。

「ともかく。湊ユズの件も、白峰に武藤の件も。金場の言っていた件も。現時点ではわからないことだらけだ。だからこそ落ち着いて一件一件対処せねばならん。……はぁ。やることは山積みだ。」

 またもため息をつく荒神先生。

「そういえば。」

「なんだ。」

 武藤さんが割って入る。

「荒神先生は、『黄金の夜明けゴールデンドーン』を知ってますか?」

「そういえば。さっきの金場って偽先生も、その黄金の夜明けゴールデンドーンの魔法少女達は自分が魔法少女にしたとか言ってたな。」

 白峰さんが割って入る。

「なんだそりゃ。まだわけのわからん勢力がいるわけか。しかも、そっちにも『他人を魔法少女に出来る魔法少女』がいると。……いよいよ頭が痛くなってきた。」

 荒神先生の声のトーンが明らかに落ちている。

「お前たちはその黄金の夜明けゴールデンドーンとやらについて何を知っている。」

「私達もさっぱりです。」

 八雲が答える。

「……」

 白峰さんだけ考え込んでるみたい。何か知ってるのかな。

「私は、魔法少女になる前の記憶がありません。……でも。金場は記憶を失う前の私を知ってるようで。……金場が言うには、私は、その子の記憶を材料に魔法少女を生み出す実験をしていて、自分でその被験者になって記憶を失ったらしい。金場は私を連れ戻したがっているみたい。そして私を連れ戻すのをその黄金の夜明けゴールデンドーンに命じていた……らしい。」

 白峰さんの話を聞いて荒神先生はまたも考え込んでいる。

「白峰、そして金場とやらの話を全て正しいとするなら、とりあえず少なくとも金場は白峰には手を出さんだろう。」

黄金の夜明けゴールデンドーンは荒っぽいようですけどね。金場は穏便にとか言ってたけど黄金の夜明けゴールデンドーンは全然そんなこと無くて普通に襲ってきた。」

「まあ、一枚岩とも言い難いんだろう。まとまってないならそれはそれでこっちにはある意味好都合だ。上手いことやればこっちに引き込めるかもしれん。」

「そんな上手く行きますかね……。」

 珍しく八雲が冷静に突っ込んでいる。

「ともかく。魔竜と違って黄金の夜明けゴールデンドーンは魔法少女の集団だ。であれば魔竜よりは対処しやすいだろう。味方は多いほうがいい。あまりにも信用出来ないなら別だが、だからといってそこまで敵視することは今はしなくて良いと私は考える。魔竜の勢力が増している今は、敵を増やすことはしたくない。……どうしてもと言うなら、魔竜を片付けてから黄金の夜明けゴールデンドーンと対立する方が効率は良いと思うが。」

 荒神先生の言うことは一理あるのか、魔法少女たちは顔を見合わせて神妙に聞いている。

「とまあ。ここまで高説を垂れたわけだが。実際に現場で戦うのはお前たちだ。何も私の言うことに全部従えと言っているわけではない。私の話は参考程度に留めるがいい。最も、教職員連中へのガサ入れはしっかりやるがな。」

「湊先生や金場の件があった以上、先生達も味方とは言い切れなくなってきましたからね……。荒神先生、よろしくお願いします。」

 そうして私達は、その日は『魔女の宿り木』ラボを後にした。


―翌日―


「ちょっとあんた何考えてんの!?」

「おい! 正気かお前は!」

「委員長さん、本気なの?!」

 『魔女の宿り木』ラボ内では、魔法少女達と彼女らを支える大人2人の絶叫がこだましていた。

「本気です。月影先輩を救うにはそれしか無いと思っています。」


―少し前―


 私、委員長は、どうしたら月影スバル先輩を救えるか考えていた。

 私の相方、杜坂が脅迫して病魔法少女として悪事へ巻き込んでしまった彼女。

 シロさんとクロさんは、杜坂の壊れも復帰も私がキーだと言っていた。

 月影先輩の方は、元想い人をどうやって乗り越えるか……何せもうその想い人はいないのだ。

 ……しかし。そう簡単に良い人に巡り合い良い形になるだろうか。

 あの彼女の視線の強さは忘れられない。それが思いの強さに間違いないのだから。

 ……そして。私はとんでもないことを思いついてしまったのだ。

 ……でも。私のこの思い付きを、杜坂は許してくれるだろうか。

 “彼女”は、杜坂が壊れる原因の一つを作った張本人なのだから。


―現在―


「月影先輩を救うには、湊先生を蘇らせるしかないと思っています。」

 そう。誰かの代わりなんてそうそう務まるものではない。

 私にとっての杜坂がそうであるように。 

 ……きっと。杜坂にとっての私もそうなのだろう。

 ……だからこそ。

「確かに今の月影にとって最もキーになるのは湊先生だろう。それ自体は間違いなかろう。……でも。でもだぞ。」

 荒神先生は眉間にしわを寄せ、腕を硬く組んで私を見据える。

 そりゃそうだ。そんなの分かってる。

 魔法少女たちは私を心配そうな目で見る者も、信じられないものを見ているような目で見る者もいる。

 美玖さんは離れたところから全体を見ているみたい。

「はい。湊先生は紛れも無い魔竜です。私たちの敵です。実際、私を殺しました。月影先輩を病魔法少女にして契約までしてました。そんな危険な相手を蘇らせるなんて。……私も、思いついたときはどうかしてると思いました。……でも。」

 私は言葉を懸命に紡ぎ出す。

 これは、杜坂が巻き込んでしまった、月影先輩へのお詫びなのだから。

「私は、杜坂が望んでくれたからこうして蘇ることができました。ならば、湊先生も同じはずだと思います。もちろん、これには課題が山積みです。湊先生は危険な魔竜であり、蘇って私達に害をなさないという保証なんてない。……でも。でもですよ?」

 ここからが正念場だ。

「いっそのこと、湊先生を味方にしてしまえたら。私はそう考えています。」

 遂に言ってしまった。

「……そう来たか。」

 荒神先生はいよいよため息をついて、その場にあった椅子に座り込んでしまった。

 魔法少女たちは、もはや言葉も出ないようだ。

 しばらくして、武藤さんが切り出す。

「それは……そこまで言うってことは、何か方法の考えがあるの? 委員長さん。」

「ごめんなさい。具体的な方法は全然わからない。」

「だよね……。」

 私は、シロさんとクロさんに意見を求める。

「仮に、湊先生を蘇らせることって出来るんですか?」

「出来なくはない。だがそのためには魔力が相当必要だしそのまま蘇らせては敵を増やすだけだぞ?」

「うーん……。」

「それに蘇らせたところで湊先生のやってきたこともアウトでしかないから、少なくともどこかに封印とか、いっそ力をすべて奪ったうえでの拘束とか。ノーペナルティというわけにはいかないよ。」

 それだ。

「それですクロさん!」

「……はあ?」

 突破口が見えた。

「湊先生を、『ただの人間』として蘇らせるんです! 魔法少女でも魔竜でもなく! そうしたら、危険性はなくなりますよね!?」

「……マジかよ。」

 横で聞いている荒神先生が吐き捨てるようにぼやいた。

「一宮さんに黒川さん。……そんなことは出来るのか?」

「出来なくはないと思いますよ。魔法っていろんな理を無視できるものなので。やりたいようにやれるもんですよ。」

 案外あっさりと答えるシロさん。

 似たようなことをこの前聞いたばかりだ。

「え、そうなの?」

 武藤さんや標さんがびっくりしている。

 え、魔法少女としては先輩だよね?

「やってやれないことはないだろうし、何なら私のお菓子生産魔法も保険として掛けとこうか。」

 シロさん、それはえげつないですよ。

「ただ。今の話は全部。魔力が潤沢にある前提の話だ。準備は相当いる。それに。」

 クロさんが重々しく続ける。

「ここにいる全員の理解を得るべきだと、私は思う。何度も言うが相手は魔竜だ。……委員長。全員の説得ができる?」

 そうだ。これは私が言い出したことで、そのためにみんなの力を借りるのだ。

「……これは、杜坂に代わっての、罪滅ぼしです。月影先輩は杜坂に巻き込まれてああなってしまった。湊先生にも罪を償ってもらうべきだと思っています。……それに。」

 月影先輩。何もかもとばっちりだもんね。

「月影先輩だけ、好きな人と離れ離れのままは酷いと思うんですよ。」

 魔法少女たちは一斉に、めいめいの思い人に目を向ける。

 八雲は武藤さんに。

 シロさんとクロさんはお互いに。

 私は杜坂を想う。

 やっぱり、みんな思うことはいっしょだよね。

「ねえ、みんな。……私に力を貸してくれる?」

 言いながらむず痒くなってくる。

 こんな新入り風情が。

「……私。委員長さんに賛成。」

「私も。」

「言われてみればね。」

「一人は寂しいもんな。」

 武藤さんも八雲も。標さんも真影さんも。シロさんもクロさんも。

 みんなが笑顔で私を見てくれる。

「……たまげたもんだ。」

 荒神先生がゆっくりと拍手をしながら私を見つめる。

 クロさんが切り出す。

「もう。委員長に異論はないな

?」

「うん!!」

 魔法少女たちの『総意』がそこにはあった。

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