第15話

(ウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウー…)


時は、夕方5時過ぎであった。


またところ変わって、西宮市東浜町にある鋼板工場こうはんこうじょうにて…


工場の構内に交代の従業員さんたちが入ることを知らせるサイレンが鳴り響いた。


菜摘なつみのオイゴ・度会弘樹わたらいひろき(28歳)は、大学を卒業したあと京田の家の人のコネでここに就職した。


7ヶ月前に、弘樹はうんと年上のお嫁さんをもらった…


6ヶ月前に、一女のパパになった…


しかし、弘樹ひろきは心のどこかで物足りなさを感じていた。


毎日、家庭と工場の間だけを往復する日々がしあわせな暮らしだとは思えない…


そう思った弘樹ひろきは、職場内でもめ事を繰り返すようになった。


ところ変わって、工場内にあるロッカールームにて…


弘樹ひろきは、着替えをしている男性従業員さんに対してものすごくつらい声で言うた。


「あの〜」

「なんや!!」

「あの〜…きょう…遊びに行っていいですか?」

「なに!!遊びに行っていいですかだと!?」

「遊びに行っていいですか?」

「オドレはふざけとんか!?」

「なんでそんなに大声で怒るのですか?」

「オドレは、女房こどもが家にいるじゃないか!?」

「いますけど…」

「いますけどなんや!?愛してないのか!?」

「愛してますよぅ〜」

「ほんならよりみちせずにまっすぐに帰れ!!」

「帰りますよ〜」


男性従業員さんに怒鳴られた弘樹ひろきは、煮えきらない表情を浮かべながら男性従業員さんに対してなおも頼んだ。


「あの〜」

「なんや!!」

「やっぱり…遊びに行きたいです〜」

「オドレしつこいぞ!!」

「なんでそんなに怒るのですか…ぼくは、(従業員)さんの家にあるプレステで遊びたいのです…」

「おい度会クソガキ!!オドレはなんで女房になった女性にプロポーズしたのだ!?」

「あれは…かわい…」

「はっきり物を言え!!ようは、カノジョの胎内にいる赤ちゃんを父親のいない子にしたくないから安易にプロポーズしたのか!?」

「あの時はシンケンに考えていたのだよ…好きと結婚は違うことぐらいわかってるよ…」

「ふざけるな!!オドレの悪い性格は死んだとうちゃんにそっくりだな!!」

「はっ?」

「はっ?じゃねえだろこの野郎!!オドレはどこのどこまで世の中をなめとんか!?」

「ぼくがそんなふうに見えますか?」

「ああ見えるとも!!…オドレはどこの大学卒だ!?」

「はっ?」

「聞いたところによると、オドレはなんの苦労もしてないようだな!!」

「それはどう言うことですか?」

「オドレは、親類よその家のお子さまの学資保険をドロボーした分でエエ大学に行ったのだろ…その上に、ゴーコンでスギヤマ(女子大)のオンナとチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラ…としていたのだろう…オドレのツラはチャラチャラしているみたいだな…せやけんいらつくのだよ!!」


(ドカッ!!)


思い切りブチ切れた男性従業員さんは、弘樹ひろきを両手でついて倒したあと『チャラチャラするんじゃねえよボケ!!』と言いながら右足で弘樹ひろきをけとばした。


男性従業員さんにけられた弘樹ひろきは、男性従業員さんの行く手をはばんだあと土下座をしてお願いした。


「お願いです…遊びに行きたいです!!」

「断わる!!」

「(従業員)さんの家でプレステがしたいです!!」

「どけオラ!!」


(ガーン!!)


思い切りブチ切れた男性従業員さんは、持っていた靴で弘樹ひろきのひたいを激しく殴りつけた。


その後、弘樹ひろきは男性従業員さんからボコボコにどつきまわされた。


時は、夜7時過ぎであった。


またところ変わって、西宮市東町しないひがしまちにある県営住宅だんちの4LDKの部屋にて…


この部屋は、弘樹ひろきの家族3人が暮らしていた。


部屋には、妻で信包のぶかねの幼なじみの女の子・里英りえ(41歳)と長女・菜水なみ(生後6ヶ月)がいた。


ダイニングテーブルに座っている里英りえは、弘樹ひろきの帰りを待っていた。


テーブルの上には、里英りえが作った晩ごはんがならんでいた。


里英りえは、例の事件を起こしたことが原因で名古屋に居づらくなった…


名古屋を出たあと、友人の紹介で岐阜にあるデリヘル店に再就職した。


この時、里英りえは客としてきた男性おとこと知り合った。


里英りえは、男とドウセイしていたがチジョウのもつれが原因で別れた。


この時、里英りえは胎内に菜水なみを宿していた。


弘樹ひろきは、街角でロトウに迷っていた里英りえを助けたあと結婚した。


そして、菜水なみが生まれた。


……………


最初の1〜2ヶ月の間、弘樹ひろきはしあわせな気持ちでいっぱいだった。


しかし、3ヶ月目に入ったあたりから工場と家庭を往復するだけの暮らしに激しいジレンマを感じた。


ぼくは…


他にも違う生き方があったのに…


なんで…


家庭を持ったのか…


………


話は戻って…


弘樹ひろきの帰りを待っている里英りえは、ひどくイライラとしながら柱時計を見つめた。


この時であった。


スマホのライン通話の着信音が鳴った。


着信音は、りりあの歌で『貴方の側に』に設定されていた。


里英りえは、ライン通話アプリをひらいたあと電話に出た。


「もしもし…里英りえです。」


電話は、菜摘なつみからであった。


ところ変わって、悠伍ゆうごの家族たちが暮らしている家にて…


家の食卓に亜弥子あやこ晃代てるよが座っていた。


亜弥子あやこ晃代てるよは、晩ごはんを食べていた。


菜摘なつみは、うぐいす色のプッシュホンで電話をかけていた。


菜摘なつみは、受話器ごしにいる里英りえに言うた。


「もしもし里英りえさん…武庫之荘むこのそうの京田でございます…あの…弘樹ひろきはまだ帰宅してないの?…だから、弘樹ひろきはまだ帰ってないのと聞いてるのよ!!…またよその家に遊びに行ったみたいね…そうでしょ…ほんとうに困った子ね…話を変えるけど、今度の土曜日はどうするの!?…いつになったらうちにお礼を言いに来るのよ…大学を卒業してから何年になると思うのよ!?…あなたにガーガーガーガー怒りたくないけど、あなたもこの最近気持ちがたるんでいるわよ!!…まじめに育児に取り組んでいるの!?…あの子もあの子で気持ちがたるんでいるわよ!!…最初の1〜2ヶ月は夢中になっていたのに、3ヶ月目からおかしくなった…これどう言うこと!?…もういいわよ!!…弘樹ひろきが帰宅したら伝えなさい!!…おばさん方に電話するようにと言いなさい!!」


(ガチャーン!!)


思い切りブチ切れた菜摘なつみは、電話をガチャーンと切ったあと両手で髪の毛をグシャグシャとかきむしった。


そこへ、あらたが帰宅した。


「ただいま。」


晃代てるよあらたに声をかけた。


「おかえりなさい。」

「ああ…にいさんは?」

「上司のおともでミナミへ行ったわよ…亜香里あかりは今夜もヨアソビに行ったわよ…」

「そう…」

「あんたも早く食べなさい!!」

「ああ…」


あらたは、席についたあとお茶わんを手に取った。


その後、スクウェアタイプの日立のふっくら御膳(炊飯器ジャー)のフタをあけてシャモジを使ってごはんをついだ。


炊飯器ジャーのフタを閉じたあらたは、ごはんの上にカブラ漬けをのせた。


その後、白だしを注いだ。


晃代てるよは、テーブルの真ん中に置かれている大皿に盛られているたくあんをはしでつまんだあと直接口に入れてもぐもぐと食べた。




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