第15話

将平が、いつものように非番で帰宅すると、郵便受けに珍しくハガキが。それは中学の同窓会への誘いだった。

「もう何十年も行ってないな。たまにはええか」

定職に就かなかった負い目か、同窓会に見向きもしなかった将平だが、警備員という仕事に就けたのと、空手を習うようになって、自分というものに自信を持ったからなのか、同窓会に行く気にさせたのは、この二つだった。


そして同窓会の当日

「あっ、黒崎」

そう、空手を習う気にさせた黒崎が、同窓会に出席していた。早速、将平は黒崎に会いに行き、開口一番

「黒崎、あの時はすまんかった」

と、頭を下げた。久しぶりに会った黒崎は、頭がほぼ白髪で、身長は将平が見上げるほどに伸びていた。黒崎は

「久しぶりやな、元気か」

と。将平は目頭が熱くなって

「俺、ずっと気になってたんや。何であの時、素直におまえに従って空手を習わんかったんかと。今でも、ものすごく気になって仕方なかったんや」

黒崎は、しばらく考えた後

「あー、中学の時、一緒に空手習おと言ったのに、俺が先に習ったことに、おまえが怒ったんやったな。懐かしいな。時間が解決してくれたわ。それより、会えて嬉しいぞ。俺、同窓会に毎年来て、おまえと会えるのを楽しみにしてたんや」

「えっ、そうなんか。ほんとうにすまんかった」

「で、空手は」

「おう、42歳になって空手を習い始めた」

「すごいやん、その年で空手を習い出すとは。俺はボクシングや」

将平は

「ボクシングって。俺と同じように、空手とちゃうかったんか」

「それが、中学の時、引っ越したやろ。それで空手辞めてから何もせんかったんや。けど子供も大きなったし、何かしよと思ってたら、駅前で『中高年のボクサー募集』って貼り紙してたんで、入会したんや。空手もやけど、ボクシングもやりたかったし」

「すごいな」

「おまえもな」

「いや、おまえの方がすごいで。中学の時、やりたかったことをずっと思い続けて。そして、それを実現するって。それに子供って」

「小学校六年生と四年生。男と女」

「へー、俺まだ結婚もしてへんのに」

「独身貴族やろ」

「そんなエエもんちゃうで」

「それより空手おもろいか」

「やっと組手を教えてもらって、面白なってきたわ。それまで基本基本の繰り返しで。けどな、仕事で嫌なことあった時なんか、空手のお陰で忘れられたし。ボクシングはどうや」

「やっぱりサンドバッグもやけど、トレーナー相手のミット打ちがええな。ええ音するんや、腰が入って決まった時なんか。空手の基本と同じように、最初は体力付けるために、縄跳びとシャドーばかりで嫌やったけど、やっとトレーナーが相手してくれた時なんかもう。ストレス発散するで。あっ、空手やってたら、わかるやろ。組手やって、相手に拳入れたら最高やろ」

「今は、ほとんど自分が拳もらうばかりやけど。ボクシングも引き手使うやろ。先生が言ってたけど」

「そうや、引き手使わな、強いパンチは打てへんから」

「それはそうと、今日飯田と話ししたか」

「ちょっとだけ」

「中学の時の、吉岡との話しはしたんか」

「する訳ないやろ、負けたんやから」

「そうか、俺もあの時は何も思わんかったけど、今思い返してみると、ひとりの女を二人の男が争ったって、格好ええ話しやな。まるでテレビドラマの世界や」

「そうやな」

二人で思いっきり笑った後、将平が

「今日、吉岡は来てないけど、俺が今、空手習ってて、初めて思うんや。中学の時、吉岡は空手習って、そんなに月日経ってなかったんと違うかって」

「俺もそう思うわ。あいつ、決闘の時、空手の技を全然使ってなかったもんな」

「空手習ってるって知った時、そのことだけで二人共負けたんや」

「ほんまやな」

「決闘の後、悔しくて二人で空手の本、買いに行ったな」

「そんなことあったな」



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