第13話

ある日、ショッピングセンターの7階の飲食店街を、いつものように将平が警備についていると

「たいへんです」

「どうしたんですか」

「とにかく、こっちへ」

と、酔客が女性従業員にからんでいるとの情報を受け、現場に将平が駆けつけてみると、50歳代の小太りの男性が大声で、飲み屋の従業員に金額のことで、どなりちらしていた。

そこで将平が

「どうしたんですか」

と、声を掛けるとその酔客は、将平に振り向くと突然、頭突きをしてきたので、将平はとっさに屈んで、相手の頭突きをかわし廻り込み、酔客の背後から羽交い締めにして、従業員に

「すぐに警察に連絡してください」

「はい」

と。羽交い締めにされている酔客は

「何さらしてるんや、離せ」

と言うが、将平は

「しばらく我慢してください」

酔客は、さからってはいたが、すぐに力ついてぐったりとした。

駆け付けた警察官に、将平は酔客を保護してもらい、女性従業員と将平は、警察官に事情を話し、改めて通常業務に戻ったのだった。

将平は

(いやぁ、空手を習ってたお陰や、絶対)

後に、事情を聞いた福島隊長は

「さすが、空手のお陰やな」

「そうなんです。空手に感謝、感謝ですわ」

「良かった、良かった」


それからというもの、将平がショッピングセンター7階を巡回していると、飲み屋の女性従業員が、笑顔で挨拶をしてくれるようになった。その女性従業員の後ろで、店長が

「秋山さん、仕事中になんですが、一度呑みに来てください。おごりますよ」

「ありがとうございます」

将平は、福島隊長のいつもの言葉やないけど

(良かった、良かった)

と。


将平の酔客との一件を、福島隊長は

(この機会をのがしては)

と、上司に相談した。

「課長、今回の件は秋山隊員が日頃、空手を習っているお陰で、怪我をせずに済みましたが、いつまた同様のことが起こらないとも限りません」

「そやな」

「そこです」

「うむ」

「そこで隊員に、護身術を教える講習会を、行いたいと思うのですが」

課長は

「そやな。みんな警備員講習の最初に習うだけやし。女性だけ行っている、セーフティデイフェンスを、男の隊員にもと言うことやな。ええやろう」

「ついては、ショッピングセンターの従業員の方々を、誘ってみてはどうかなと思いまして」

「ほう。福島君、ええこと考えたな。クライアントとの交流も広まるいい機会や。全て君に任せる」

福島隊長はニッコリして

「わかりました」

と。

翌日、福島隊長は朝礼で

「先日、酔客が飲食店で女性従業員にからんでいるところを、秋山隊員が直ちに現場に直行し、その酔客から突然頭突きをされたんだが、秋山君は空手を習っているお陰で、難なくそれをかわして、逆に酔客を取り押さえて、従業員の身を守ったという事案がありました」

各隊員は、一斉に将平の方を見たが、将平はバツ悪そうに下を向いた。福島隊長は力を込めて

「そこでだ。今後、各隊員にも同じようなことが、おきないとも限らない。で、毎月、護身術の講習会をしようと思っている。そしてショッピングセンターの各クライアントの方々にも、参加してもらえるよう声掛けをしようと思っている。講師としては、私と原田、秋山隊員を考えているので、非番でしんどいとは思うが、みんな参加してや。以上」

福島隊長の朝礼が終わった後、各隊員は将平に

「すごいな秋山、やっぱり空手のお陰か」

「そうなんです。もうごく自然に、相手の頭突きを避けることができたんです」

「空手、どれくらい習ってる?」

「まだ一年ちょいですが」

「俺も空手習おかな」

同僚から言われて、将平は悪い気がしなかった。そして福島隊長から

「秋山」

「はい」

「クライアントに提出する護身術のパンフレット、考えといてや」

「わかりました」

「一回、原田と三人で護身術の件、話し合おう」

「はい、俺なんか、先日のことは偶然だったんで、俺こそ隊長と原田さんから教えてもらわないと」

「よし、乗り掛かった船や。俺と原田で教えたる」

「よろしくお願いします」



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