第8話

そして、初めて修道館へ空手道着を持って行き、いざ着てみはしたが、帯の締め方がわからない。原田に教えてもらうが、原田も

「ひとの締めるのって、以外と、難しいな」

と、何とか原田に手伝ってもらい、将平は帯を締めて、初めて鏡を見たが

(下東先生や原田さんに比べて、似合ってへんわ。俺はピタッとこんな。やっぱり似合うようになるまで、時間かかる)

しかし、新鮮な気持ちであることに、変わりはない。


将平は初めて、平安初段という形を教えてもらった。空手の移動基本では、前と後ろの移動ばかりだったのだが、形というのは、前後左右から来る、仮想の敵を相手にするので、左右=横への動きが加わる。将平は、横へ廻るのに、何度も反対に廻ってしまい

「背中から」

と、しつこく注意されるが、下東の意志通りには、将平は動けない。おまけに、前屈立ちの右足と左足との歩幅は、肩幅が基本であるのに、横への動きで一直線になってしまうし、そのことばかりに気を取られると、同じく基本のひとつである引き手も、できてない。散々である。しかし下東の

「最初からできてたら、先生はいらんで」

との言葉に、少しホッとした将平がいる。

「すごい汗やな。ものすごい練習をしたみたいや」

そう。将平は、汗びっしょりだ。せっかく新しく買ったばかりの空手道着を、カビだらけにしたくないので、将平は帰宅後に台所で水洗いをし

「これでよし」

(明日、コインランドリーで、パンツと一緒に洗おっと)


原田がある日

「秋山君、空手日誌を毎日書いたらええで」

「何ですか。その空手日誌って」

「毎日、下東先生に習ったことを、メモするんや」

「へぇ」

「俺も、空手習い始めて、ある程度経ってからメモしだしたんやけど。なかなか上達せんやろ」

「はい、同じことを何度も、注意されてます」

「そやろ。みんな一緒。同じことを何度も何度も、注意されてる自分がいるんや。子供の頃、親に毎日のように勉強せえと言われてたみたいに。それを確認させてくれるんが、空手日誌や。毎回、空手日誌にメモして、そうしてひとつひとつの動きに注意していく」

「はい」

「例えば、追突きで肩が流れるとか」

「はい、毎日言われてます」

「移動基本で、頭が上下に動くとか」

「全く、その通りです」

「そうやろ」

「わかりました。今日から実践します」

将平は、早速コンビニてノートを買って、下東から注意されたことを、書き留めるようになった。


下東から

「今日から、みんなと一緒に練習しよか」

「はい」

「長西先生、今日から秋山君も混ぜたって」

下東の言葉に、長西も

「押忍」

と。将平は

「みなさん、よろしくお願いします」

「押忍」

「押忍」

将平は、原田、藤田、曽らと一緒に、輪の中に入って。

ここでは、長西が中心となり、その場基本での突き、蹴りと、練習が進められていく。その中で下東も一緒に、練習をしている。将平は

(やっと、修道館のメンバーになれた感じや)

と思った。廻りを見ると、みんな真剣に空手に向き合って練習をされている。横の原田の突きの時の、空手道着をこする音が聞こえ、ひと突きひと突き、蹴りの一本一本の、空手に対する真摯な姿勢に、将平は

(半端な気持ちでは、絶対やれんぞ)

と、つくづく感じてしまった。

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