6話・部屋割り

 さて、料理を食べたのはいいですが、この後も問題が山積みですね、どうしましょうか……

 それにしても、体を動かす体力の一切が無くなって倒れたからと言って私を持ち上げるとは、都月さんは私の事を何だと思っているんでしょうか……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 全員が食べ終わり話し声も収まってきたその時まるでタイミングを見計らったかのように先ほどの二人のメイドが入ってきた。

 二人は「「今日より宿泊していただく場所へ案内させていただきます……」」と言うと絢達を城と通路でつながった別館へと案内してそのままどこかへと言ってしまった。

 別館の部屋数は人数分には足りないものの、扉を開けると外観から考えられる明らかに広く一部屋当たり4~5個のベットと一組の机と椅子が置かれていた。

 部屋は明るく温かみのある見た目だが、廊下は地下を思わせるかのように窓すら取り付けられていない仄暗く冷たい風景が広がる。

 そんな部屋を見て先生が修学旅行の感覚で部屋割り考え始める。


「部屋割りはどうしますか?」 


「とりあえず、今日は自由でいいんじゃないですか?」


 廊下の景色に何かを思ったのか、翔奈絵が絢の服の裾をぎゅっと掴み一言……「一緒の……部屋に……」と顔を青くして震えながら、今にも消えそうな声でそんなことを言いだす。

 絢が翔奈絵の要望を了承すると今度は先生が私に声をかけてくる。


「じゃあ、とりあえず翔奈絵と絢さんと私は同じ部屋でいいですよね」


「まあいいですけど、……なんでですか?」


「同じ部屋でいいですよね!!」


 否定もしていないのに何故か先生がもう一度強く言った、よく見ると、少し涙ぐんでいるようにも見える。

 そんな光景を見ていた唯も……


「私も絢様と一緒が良いです!!」


 そんな言葉は無視され、先生がボディーガードの人たちに話しかける。


「貴方達はどうするんですか?」


 その質問に今も絢の周囲で警戒を続けている都月が真っ先に答える。


「私は絢様のお傍に、私の主人は絢様ですので……」


 その回答はまるでアニメや漫画で見るような絶対の忠誠を誓った従者の様で何か不思議な雰囲気を醸し出していた。

 その他の人たちは、その親に魅せられたからその子供を守っている者とただ金に忠誠を誓っている者の二種類に分かれた、前者はそのまま護衛を続行しようとしていたが、後者は金の繋がりが途切れたことによってここからの仕事は拒否していた。


「えーと、じゃあ、どうします?」


 お金だけの繋がりとは言え愛着の欠片もなく、あっさりと契約の終了を告げる彼らに、先生は意外そうな顔をしたが、すぐに彼らにこれからの事を質問する。


「俺はあの爺共から色々と吸収したらそのまま出ていく……、たぶんだが、こいつ等も同じだと思うぜ」


 そう答えたのは先ほど契約終了を告げた若い男、そして彼の言葉に同じ意見の人たちが同調する。


「えっと……じゃあ、別の部屋にします?」


「ああ、金ももらえねえのにガキの世話なんてしたくねぇしな」


 そういう話し合いを重ねてそれぞれの部屋割りが決められていき、最終的に絢と同じ部屋で寝ることなったのは、廊下に恐怖を覚えていた先生と翔奈絵を含めた数名の女子、後は絢のメイド兼ボディーガードの都月になった、明らかに足りないベットは一つのベットで複数人で寝ることで解決することになった。

 ちなみに、男子の中でホラー耐性が無い者は学級委員長と寝ることになった。


(さて、おそらくこの辺りに地図あるはずなのですが……)


 絢が自分の部屋の机の中を探ると、机に取り付けられている引き出しの3段目に地図が入っていた。


「やっぱりありましたね……、先生、私は図書室に行ってきます、ここにある本を全て読み終えてきたら帰ってきますので、ちゃんと寝ててくださいね」


「え……、今日は……」


 そんなことを口に出した瞬間にはすでに部屋の扉が閉じられ、図書室へ行くと言った絢と一緒にいつの間にか都月の姿も消えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 一度地図を見てその全てを覚えた絢は図書室への道を歩いていく。


「読み終わるまでと言っていましたね」


 2歩ほど後方を歩く都月が絢にいつもの少し笑ったような表情で質問した、その質問に対する絢の回答は「はい」の一言、その返事に不安感を覚えた都月が次にする質問は。


「それなりの数あると予想できますが……一晩で読めますか?」


 こうなることは明らかだった。


「まあ、私の考えていることができればできます」


 それを聞いた都月の頭に浮かんだ「それはできないと言っているのと同じでは?」と言う言葉は、心の奥底へと封印した……


 そんなこんなで図書室について一目でわかる異常、右を見ても、左を見ても、背表紙から見てわかる、そのどれもが見たことのない文字、地球にある殆どの言語を解し話すことができる絢ですら見たことのない文字が視界の色々な場所に映る。

「これ……本当に読み終わりますか?」

 と都月が質問するのも当たり前の事だろう。

 

「だから、と言ったじゃないですか」


「それはできないと言っているのと同じでは?」


 その言葉は、先ほど心の奥底へと封印した言葉の封印を解くに十分だった。

 絢はそんな言葉を聞きながら一番近い本棚から童話のようなものと辞書のようなものを一冊ずつ取り出す。


「大丈夫ですよ、この世界の魔法が私の思っている通りならできます」


「ならいいのですが……」


 そんな心配を余所に絢は組み上げた魔法を発動させる、魔法を発動させると薄いレンズのようなものが現れ、それを通した文字が日本語に翻訳される。


「成功しましたね」


「少し驚きました、魔法ってこんな事も出来るんですね……」


 横から覗き込んだ都月がそんな感嘆の言葉をこぼす。

 そうして見える本の中身は、童話のような本の中には童話によくある勧善懲悪の物語、辞書の方は言語について書かれた辞書だった、絢は辞書の方をペラペラとめくりレンズを通して読んでいった。


「さて、後は読んでいくだけですね」


 そういった絢は先ほどの魔法を止め、今度は空中に全ての本が見えるように一棚ずつ浮かべ本それら全てを同時にパラパラとめくり読んでいく。


「毎回思うのですがそれちゃんと読めているんですか?」


「読んでますよ、例えばその本は勇者が古の魔神を倒すというありがちな童話です」


 絢がそう言って指をさした本の中身を、絢に魔法を借りて本を読むと確かに先ほど絢が言った内容と同じものが書かれていた。


「はぁ、楽しいですかお嬢様」


 ため息の後に言われたその言葉、たった一つのその言の葉で絢はその手を止め、都月にほんの少しだけ口角が上がった顔を向け。


「とても」


 っとその一言を伝え読書を続ける……

 読み終わった本を元の場所に片付け新しい本を出し、次々に読み終わっては新しい本を読んでいく、既に全体の3割ほど読み終わっていた。


「この調子で読んでいただければ朝には読み終わりそうですね……」


 そして4時間ほど空中に本を浮かべ端から端まで記憶していく絢とその姿を見てほほ笑む都月が図書室で見れたという……


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 4時間で本を読み終わり部屋に戻ると、そこには布団にくるまり何かにおびえる先生と翔奈絵の姿があった。

 部屋に取り付けられた蝋燭は消されておらず「遅いですよ~」と言う声が部屋に響いたという。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


カクヨムの公式ディスコードの方で「うれしや」と言う方にこの小説のことを相談させていただきまして、今回より整数話では前書きで絢ちゃんによる前話までの振り返りをしてもらうことにしました。

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