5話・反省はしっかりとしてもらいます
「勇者かもしれない人」と言うのが何をさしているのかは知りませんが、勇者と言うのが「勇気を持つもの」と言う意味ならば、それは学級委員長ですよ。
あの人は努力だけで私に追いつこうとしているんですから……。
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ジムラドの魔力測定が終わると、次にしたのはマッドさん主導の運動技能検査、単純な走り込みや瞬発力などと言った普通の体力テストの様相を呈していた、そして絢は短時間の運動では好成績を残す癖に長時間の運動では倒れて動けなくなるというただの運動不足を披露していた。
「貴方達の体力はどうなってるんですか……」
そう俯きの状態で顔だけを横にしながら、男子生徒すら息を切らし他の女子生徒はその激しさに膝をついている者すらいる中で、息一つ切らさずそれどころかどこか物足りなさそうな表情をしている唯と、涼しい顔をして直ぐに絢を拾いに行く都月に向けて放たれた。
「お嬢様が運動をし無さ過ぎなんですよ……」
若干呆れ気味にそう答えた都月は、ヒョイっと絢を持ち上げる。
先ほどまで魔石に触りたがっていた時ですら触りがたい厳格な雰囲気を放っていた絢が、目の前で年相応……それよりも幼く見える絢を見て、ジムラドとマッドが微笑ましそうに眺める。
「今日の結果を儂らで話し合って明日からの訓練メニューを組み立てるからの、今日はしっかりと休んどれ、明日からは今日の比ではないほど疲れるぞ」
楽しそうにそういうジムラドを余所に、先ほどまで息も絶え絶えになっていた少女たちが絢のお世話をしようと絢の方へ集まっていた、……その後方で、合法的に絢に近づける少女たちに血の涙を出す勢いで羨ましがる少年たちに触れる者は誰もいなかった……。
そんなことをしていると、闘技場へ都月と同じような服装をした2人の女性が入ってくる。
「お待たせしました、本日の夕食の準備が完成いたしましたので、食堂へお集まりください」
そういわれて絢が考えると現在は午後6時ほど、夕食に丁度いい時間だろう、昼食も食べていない彼らにとってはむしろ遅いくらいかもしれない。
彼女たちは「それでは、私たちの後ろへ……」と言うと、そのままもと来た道をたどるように歩いて行った……、ジムラドたちがその後をついていき、更にその後を絢達が追って行く……、こんな状況でも何時もと同じ様に対象を護衛できるボディーガード達は流石プロと言ったところだろうか……。
二人のメイドによって連れられた先は大きな食堂、席は人数分用意され、地球の三ツ星相当だろう料理がそれと同じ数並べられていた。
「「各々ご自由なお席にお座りください……」」
まるで一人で言ったかのように同期された音声をいった二人は一度お辞儀をした後ジムラドとマッドに向けて一言……
「「お二人も退出を……」」
ジムラドは「わしらはお邪魔なようじゃのぉ」と言いながらも居座ろうとするがマッドが「おい爺さん、とっとと出ていくぞ」と言い部屋の外にまで引き摺っていき、二人のメイドもその後につくようにして出ていった。
「とりあえず……」
そんな4人の姿を見送った都月は近くの椅子に絢を座らせその右隣の席の料理をフォークで一刺しし口に含む。
「毒などと言ったものは含まれていないようですね」
「毒見は大丈夫だと言っているでしょう、それなりの毒なら効きませんし……それよりも、貴女が毒に当たってしまえばどうするんですか……」
絢がそう言うと、ほんのりと笑みを浮かべた都月がそれに答える。
「お嬢様がその毒に当たられることに比べれば……」
その言葉に絢は「仕方ないですね……」と言い、唯は都月にその行動を先んじられたことによりほほを膨らませていた。
「まあいいです、夕食にしましょう……そもそも、料理に毒など入れているなら席の無指定なんてしませんよ、こんな短時間で、誰がどこの席に座るかなんてわかりませんし」
それを聞いて他の人たちも各々自由な席に座り料理を食べ始める……、都月は絢の右隣に、その反対側に唯が座る。
次第にあたりから話し合う声が響き、だんだんと話し声が大きくなっていく……、都月が絢の料理を食べさせそれを羨ましそうに見ている唯を、副委員長がじっと見つめている。
「なんであの時私の口を塞いだんですか?」
ずっと唯を見ていた生徒会長が不服そうに言葉をこぼす。
(あの時は確認してなかったですが、あれ副委員長だったんですね……)
「私じゃなくて絢様に聞いてください」
唯が絢にに責任を押し付けた瞬間に「なんでですか……」と副委員長のジトーっとした問が繰り出される。
「なんでって言われましても……あそこで何言おうとしてたんですか?」
その絢の質問に彼女は困惑しながらある意味当たり前なこと言う。
「それは……元の世界に戻してもらおうと……」
「だからですよ『元の世界に返せ』なんて、そんな弱みを相手に伝える意味なんてないんですよ」
若干かぶせ気味に問題点を指摘する。
「何がダメなんですか……」
今にも泣きそうな可哀そうな表情をされて、これ以上の指摘を止めてしまいそうな絢だったが、それでも指摘を続ける。
「早く家に帰りたいのはわかりますが、自力で帰れないなんて弱みを見せてしまえば永遠にいいように使われるだけです……、それに帰れないわけじゃないんです」
その言葉に周囲から声が消える……
「……それは本当なんですか?」
「本当です……が、時間がかかりますよ、材料も工具も足りないですし……」
そう聞いて絢以外の全員は若干顔に陰りが見えたが、それでもその心には、僅かに希望が宿っていた。
「とは言え、準備が整うまではこの世界で生き延びなければいけません、皆さんもちゃんと訓練を受けるんですよ」
絢の忠告にそれぞれが各々の返事を返す。
そして、僅かな希望を帯びたことにより、場の音がさらに大きくなる。
「あ……そうそう、忘れていました、副委員長、今日は
絢のその言葉により、絢のお勉強をを受けたことのある者たちが少し全身を一瞬強く揺らし、顔を青く染める。
「……そ、それよりも、なんで副委員長予備なんですか!!
私の名前ちゃんと覚えてますか?」
「覚えていますよ」
その言葉を聞いた副委員長はジトーっとした疑惑の視線を浮かべ「ほんとうですかぁ?」と聞くと……
「え~っと」
「絶対覚えてないじゃないですか!!」
若干不憫だが、それでも場が明るくなるのはいいことだろう……
「すみません
「覚えてるなら初めから答えてくださいよ……」
そうして初日最後の大きな出来事となる夕食が終わったのだった……
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絢ちゃんの教育……、考えるだけで身震いがしそうです……。
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