4話・実力とは見ればすぐにわかるものです
直ぐに出ていくつもりですが、無駄に賢い人間は時々思いもよらないことをしだすんですよね、常にあれに意識を裂き続けないといけないというのはそれなりに苦痛なのですが……どうしましょうか。
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「さて、頭を使う話もつかれたじゃろ、気持ちよく体を動かすことにしようかのぅ」
そういったのは、先ほど都月の行動に反応して武器を抜きかけていた老人だった。
彼はそう言うと、どこからか太い枝のようなものを取り出し、それを地面に強く叩きつけると、絢達を囲むように何かの文様が浮かび上がる。
(何でしょうかコレ……、魔方陣みたいなものですかね?)
今起きている事を冷静に観察し考察する絢とは裏腹に、その視界を潰すように魔方陣から発される光が強くなっていく……1日に3度もこのような出来事に遭うのはなかなかないだろう。
何度もやれば体も慣れてくる、先ほどよりも早く視界を取り戻すとその視界に映るのはどこかの闘技場のような光景だった、その場に飛ばされたのは絢たちを除けば、先程転移の魔法を使った老人と周囲よりも豪華な鎧を付けた兵士の二人だけだ。
(なるほど、この二人が私たちの実力を測るんですね)
魔法についてこそわからないものの、絢がそれ以外の部分で二人を見定めていることに気づいたのか、老齢の方が言葉を綴る。
「ふむ……まずは自己紹介からしたほうが良いかのぉ」
老人はそういうと誰もしようとしない光景を見て「ふむ、じゃあ儂からするかの」と言って自己紹介を始める。
「儂はこのタルルク王国の魔法軍総括長のジムラドと言う、それでこっちが……」
ジムラドと名乗った老人がそのまま騎士の紹介もしようとすると、その本人から静止が入る。
「おいおい、人の挨拶を奪わないでくれよ……、俺はこの国の騎士団総活長のマッドってんだ、よろしくな!!」
快活な声音でマッドと名乗ったその人が「今度はお前たちの番だ!!」と言うが、殆どの人はいまだに状況が理解できないようで、おそらく目の前で名乗られた二人の名前すらも頭の中には入っていない様子だった。
「他の人はまだ混乱しているようなので、先ほどの場でもさせていただきましたが、改めて私からさせていただきます。
名前は姫宮 絢です、よろしくお願いします」
「お主の動きを見るとそれなりの身分のように思えるが……良いのか?」
「この状況で私の身分などあってないようなものでしょう……」
絢がそう言うとジムラドは大きな声で笑い絢の背中をポンポンと叩く、絢に触れた瞬間からその光景をとても鋭い眼光でにらんでいる2人の人間がいることは誰も気づいていなかった……。
絢が終わると、その流れを汲み唯が名乗る、それにつられるように次々と二人に自らの名を告げていき……、最後に先生と都月さん含めたボディーガードの人たちが名乗り、漸く全員が名乗り終えた。
「ふむ、全員名乗り終わったようじゃの……、それじゃ今から本題じゃ」
唐突にそんなことを言いながらジムラドが手を差し出す。
「今からするのは単純な魔力検査じゃ、今からお主等の魔力量と操作力を観る、まぁ、手を握れば簡単にできるもんじゃい」
そのジムラド言葉は非常に軽く当たり前のように言うが、知らない人間に触れること自体がある意味警戒を誘う。
「私からやってもいいですか?」
そう言ってサラッとジムラドと手をつなぐ絢だったが、それを促した当の本人であるジムラドは少し困惑する。
「お主は少々注意と言うべきか……、警戒心と言う物が無いのかのぅ」
「私、警戒をしてできないくらいなら、飛び込んでやったほうが良くないですか?」
表情を全く変えずにそんなことを言い出す絢を見て、耳を済ませれば後ろからため息が聞こえるが、ざわつきながら絢とジムラドに意識が集中している今はその声を聴く人間はいない。
「はっはっはっ、そうじゃの、そうじゃの、確かに、我慢するよりもやりたいことはやったほうが良いわい!!」
笑いながらそんなことを言い出すジムラドにマッドもやれやれとお手上げ状態だった。
「今からするのは簡単な魔力トレーニングじゃ、最近の若者は基礎をせんからのぉ、基礎さえすれば、儂など簡単に超えられる才能などいくらでもあるというのに……」
「爺さん悪い癖出てるぜ、時間も押してんださっさと本題を始めてやれ」
「仕方ないのぉ」
どこかつまらなさそうにそんなことを言ったジムラドはニヤッと笑って突然明らかに授業外のことをしだす。
「主なら簡単にできるじゃろ、わしのに合わせてみぃ」
外から見る分にはとても静かでやっているのは簡単なこと、互いにつないだ手から魔力を送り合い、相手が送ってきた魔力と全く同じ量を流すという遊びである。
魔法を始めたばかりの人間がやるのなら遊びや練習などになるが、それなりに熟達した人間がするそれは社交儀礼や格付けを意味する。
絢も初めてのことで最初は押され気味だったが徐々に魔力の操作に慣れてきたのか、ジムラドと張り合い絢の方からも攻撃をし始めていた。
見た目にはわからない部分で徐々に過激になっていく。最初は一つだった魔力も、10個100個と増えて行く……
ガツガツと音がしだし、バチバチと火花が散りだしたころ、絢とジムラド本人ではなく、その周囲から不思議なオーラを感じられるようになる。
その不思議なオーラのようなものがはじけるように消えると、「ガコンッッ!!」と言う音と共に爆風が吹き荒れる……
「お主もやるのぉ、久しぶりにこれで楽しめたぞぃ」
正直派手さも無ければ何をしているのかもよくわからないが、絢とジムラドは互いに認めあい、何かが終わったようだ。
全く何をしたのかは分からないが、何かが無事終わったようで、全てに「何か」が付く状況に他の人はざわざわとその状況を考察することしかできない。
「それにしても……」
先ほどまでの軽さが無くなり、どこか重い雰囲気でジムラドが呟く。
「お主、見とるじゃろ」
「何のことでしょうか?」
にっこりとした笑顔の絢に対して笑顔で隠しきれない睨みを浮かべるジムラド、この場にいた人々は、後に「今までで一番居心地が悪かった」と言ったのだそう……
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「お主隠し事向いとらんぞ」
「そうですか?
これでも感情が読めないと評判だったのですが……」
「年寄りから見ればまるわかりじゃ」
「凄いですね年寄り」
「イヤミにしか聞こえんぞ……」
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