3話・馬鹿ですか?
あの人何故神と神様、自分を分けたんでしょうか……。
それにしても凄くちょろそうですね、次に会ったときに何かしてみましょう。
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空白の視界が三度周囲の輪郭と色を取り戻し始める。
絢が辺りを見回すと周囲には先ほどまで教室で見れる顔が、そのさらに先には顔は見えないが鉄の鎧を着こんだ兵士が等間隔で立ち、前方にはさらに密集した兵士達と、驚くほど悪趣味でいかにもな玉座に冠のようなものを付けた人間が座り、宰相だろうか……兵士の後ろには服装からして地位の高いだろう人物が立っていた。
国王、宰相、兵士、なにか今驚くべき事象が起きたかのような顔をしていた。
その表情に対してある程度事情を知っている絢は
(いや、何を驚いてるんですか、貴方達が呼び出したんでしょうに)
と思っていた。
ただ、驚きながらも兵士達は警戒をしているのか利き手はその腰の剣に当てられ絢たち側のボディーガードもいつでも武器に手がかかる体勢をとっていた。
そんな緊迫した状況の中、絢の元に大人が近づいてきて小声で絢に話しかける。
「絢さん、さっきまでどこに居たんですか……」
(さっきと言うのは、キリィーが言っていたキリィーの後輩とやらのところにいた時の事でしょう)
「まあ少し……」
絢に話しかけたのは絢達のクラスの担任である、そしてこの場で真っ先に絢に声をかけたのは、この場において、最も外交や交渉の経験があり実力があるのが絢だからだが、絢はこの行動に……
(生徒全員を守るためにどんな事でもするのがこの人の行動理念と言うのはわかりますが……、それにしても真っ先に生徒に頼りに来るってどうなんですかね……)
といつものように思っていた。
「わかっていますよ絵里先生、とりあえず何とか人並みの生活ができるくらいには交渉してみます」
いつもの事のように(いつものことだが)先生の思っていることを先読みして了承し、開始しようとしたその時……
「おねが……」
「急に呼び出して何をさせるつもり~~」
クラスメイトのうちの一人が急に声を上げ始めた、それは非常に面倒なことを言い出しそうな勢いを含み、その口を塞がせる為に唯の名を呼び、その意図をくみ取った唯が人の間を上手いことすり抜けその生徒の口を塞ぐ。
「んっ、ん!!」
一瞬と言うべき速度で口を塞いだ唯はそのまま絢の道を開けるように引きずりながら道を開ける。
その行動によって、唯の事を知っているクラスメイト達が絢の前に道を開け、主人がそうしたためにボディーガード達も道を開ける、あけられた道を絢が通り、その護衛として都月が付き従う。
絢は集団の数歩前に立ち、歩くときに足を前に出すような自然さでカーテシーを行い、その更に前に在る玉座に座る悪趣味な王に挨拶をする。
「先ほどのこちらの物のご無礼謝罪いたします……。
それで早速なのですが、我々に何をさせるおつもりなのでしょうか?」
その姿は、キリィ―に興味を持った時に見せた笑みとは違う純度100%の営業スマイルを作っているが、先ほどのクラスメイトに対するほんのりとした怒りがと目の前の存在に対する嫌悪感にじみ出ているようにも見える。
この唐突な状況でも行われる堂々とした振る舞いと、作り物の容姿と裏腹にその言葉と立ち姿の節々から感じられる威圧感はその場の全員に緊張感を持たせるに十分だった。
「それを知って貴様に何か利があるのか?」
その王の言葉に都月がスカートに隠したナイフに手を伸ばし、それを感じ取ったかのように周囲の兵士よりも高価そうな鎧を着た兵士と、熟老のいかにも魔術師と言った見た目の老人が自らの武器を半分抜く。
それを見た絢は、少し力尽くな交渉になることも覚悟して次の言葉を放つ。
「聞いているのは私ですよ、もう一度言います、我々に何をしてほしいんですか?
答えられないのなら……、そうですね、私たちは力尽くでこの場から出て行ってもいいのですが……」
ニコニコとした笑顔で発された絢の言葉を疑うことは誰もしなかった、勿論普通に考えればそんなことはできるわけがない、だが、その言葉から発される気迫はそれが可能だということを物語り、それは一切武をしたことがないような眼前の国王にですらそれを察させる。
「わかった……、貴様らにはとある団体を潰してもらいたい、あ奴らは過去の悪神を復活させ、この世の安寧を破壊しようとしている、それを阻止してもらう」
目的通り、明確な相手の目的を引き出した絢は、次は自分達の身の安全を確保しに行く。
「わかりました、やりましょう……それで、そちらからはどれほどのアシストを頂けるのでしょうか?」
「あ奴らの事はその目的以外何も正確には把握できておらん、我も今の貴様らがあ奴らを止められるとは思っておらんのでな、この国で行えるあらゆる手を尽くして貴様らの後押しをすることを約束しよう」
「ありがとうございます」
それらを約束された絢は笑顔で頭を下げる、……ただ一つ、絢も知ったうえで穴を残した、そのことは誰も気づかない、その場で実際に言の刃を交わした二人を除いて……。
話が終わったことによりその場に満ちていた殺気のような張り詰めた空気が引いていき、その緊張状態によって武器を引き抜こうとしていた兵士たちと、胸に隠した銃を引き抜こうとしていたボディーガード達がその武器から手を離した。
「さて、今の貴様らの実力を知らねば、我の臣下でも鍛えることなどできないそうだ、今から貴様らの力を測らせてもらう」
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「尊大なのはいいですが多少はお願いの形をとるべきでしょう……」
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