2話・全知全能の神はどこへ行ったのでしょうか……

「いくら何でも空中にあんなに目立つ罅があるのにあれほど気づかない事なんてことありえないでしょうに……

 まあいいです、取りあえずは現状調査ですね」


――――――――――――――――――――


 教室を包み込んだ眩しい光は、その場にいた全員の視界を焼き付け、一瞬にして白一色に染め上げる。その光から身近な二人を守ろうとした絢も、その影響で視界が奪われた。

 やわらかな感触が自分の体を支えていることに気づいた絢は、周囲を手探りで確認する。どうやら何か布の上に座らされているようだ。


 やがて、時間が経つにつれ、周囲の輪郭がぼんやりと形を取り戻し、色彩が視界に戻り始めた。ある程度視力が戻った絢が周囲を見渡すと、生活感あふれる部屋の景色が目に飛び込んできた。しかし、クラスメイトの姿はどこにも見当たらない。

 先ほど体で覆ったはずの唯と都月も姿を消していた。

 そして、もちろんのごとく部屋の主もいない、部屋には絢一人だけが取り残されていた。


「ヤッホー、そろそろ聞こえるよね」


その声の方向を見ると、自分の隣に先ほどまで教室にもこの部屋にもいなかったはずの少年が座っていた。

 その少年の無邪気な笑顔は、絢の経験のせいもあるのかどこか邪気を含んだもののように感じられる。


(さて、ここはどこでしょうか、どこをどう見ても先ほどの教室とは思えませんし、眠らされた感覚もありませんし……)


「ねぇ、聞いてるー?」


 聞いているか若干の不安を持つ少年は絢の視界の大半を占有するように身を乗り出すが、それにすら絢は反応しない。

 隣に座っている人間に全く認識されていなかった少年は次第に絢の視界の占有率を上げ、今は絢の目の前……しかも空中で体育座りをするところまで来ていた。


(――だんだんととうざくなってきましたね、そろそろ反応してあげましょうか……)


「うざいとか酷いよ!!」


 まるで自分の考えていることに対して返事をするかのように言葉を出す少年に、絢ははわざと訝し気な顔を作りの口調で少年に質問をする。


「変態……?」


 それに「違うよ!!」と勢いよく否定をした後、少年は呆れたように絢に言葉を発する。


「それにしても、キミ驚かないんだねぇ」


「驚くって言ってもいったい何を、あ……心を読めるんですか!!」


「最初の方で台無しだよ!!

 ……考えないと出てこないなら言わなくていいよ、もう、こっちが恥ずかしくなってくる」


 そう不貞腐れるように言う少年だったが、それを叱責と受け取った絢はその少年に対し謝罪する。


「もういいよ、それで、何か質問とかないかな?」


 少年は再び表情を戻し絢に話しかける、その顔は新しく知った自分の知識を明かしたいだけの子供のようにも見える。

 自分で


「質問……そうですね、とりあえず、他の人は何処にいるんですか?」


「んー、キミ以外の人間は僕の後輩のところにいるよ、君たちが呼ばれたのは一応あの子の世界だからね、まだ送ってないみたいだしキミ達がこれから行く世界の質問でもしてるんじゃない?」


 その少年の言葉が引っかかった絢はさらに質問を続ける。


「これから行く世界?」


「キミ達は地球とは別の世界に呼ばれたんだよ、よくある異世界転移っていう話さ、たぶん魔神でも討伐させられるんじゃないかな?」


「魔神?」


「そ、キミ達が行くのは剣や原始的な銃を武器として魔法で戦う世界さ、もちろんドラゴンや神様、神だっている、キミにとっては夢のような世界なんじゃないかな?」


 その言葉は確かだった。昔、魔法といえば、魔女や魔法使いが一般には知られない方法で化学現象を引き起こし、人々に恐れられていた。しかし、絢の前でその話をするならば、そういった意味での魔法は存在しないと言えるだろう。

 何度自身の持つ能力を恨んだか、絢の優れた観察眼と記憶力は一度見ただけでそのほとんどの再現を可能にしてしまう。

 それでも、真の意味での魔法は存在する。たとえば、絢でも物を機械を使わずに浮かせることはできないし、完全な無重力を作り出すこともできない。それこそが魔法と呼ぶべきものだろう。


 その話を聞いた絢の顔には、過去最高と言っていいほどの笑みが浮かび、彼女の頭の中では、魔法に対する様々な予想が渦巻いていた。


「そうですね、それは楽しみです……あと二つほどいいですか?」


「ん……何?」


 ここで質問が終わると思っていた少年はこの先にも質問が続くことを不思議に思う。


「ここは何処ですか?」


 唐突な質問だったが、絢の質問にその少年は快く答えていく。


「神界……って急に言ってもあれだしなぁ、家……、そうここは僕の家だね」


「家……、じゃあ、なんで私は此処に連れてこられてるんですか?」


「なんでって言われても、別に僕が連れてきたわけじゃないからわからないんだよね、しいて言うなら、他の世界からの救援要請でキミが選ばれたから、っていうのが理由なんじゃないかな?」


 絢はその言葉に幾つか引っかかったところはあったが、特に引っかかった部分だけを、少年に質問する。


「『私達』ではなく『私』ですか?」


 その質問に対して、少年は「うん、まあ、キミは色々と特別なんだ」と目を泳がしながら、はぐらかす。


「はあ……、では、貴方にとって私はどういう存在なんですか?」


 絢がそういうと少年はさらに大きく目を泳がす、その回答を待ち絢が少年をじっと見続けると観念したように話し始めた。


「怒らないでくれる?」


「私はそうそう怒りませんよ」


 絢がそういうと、少年は安心したようで、質問の回答を話し始める。


「……そうか、うん、とりあえず、やってなかったし僕の自己紹介からやろう、僕はキリィー、神……と言っても神様やそういう種族じゃない、神っていう役職なんだよ!!」


「はあ、それで?」

(もしかしなくても残念な人なんでしょうか)


「違うから、残念な人じゃないから!!

 ……とりあえず、僕はそのくらい力があるんだ、本来は神によって邪魔が入る人体生成も、僕だったら簡単にできる、それで……僕たちの間であるゲームが流行ったんだよ」


「ゲーム……ですか?」


「うん、どこまでハイスペックな人の子を作れるかっていうゲームなんだけど……」


「そのゲームで貴方が作ったのが私と言うことですか……」


「うんそう言う事」


 その言葉に嘘はない、それは絢も理解しその言葉を聞き続けるが、その思考に若干の焦りが生まれ始める。


(話の迂回が多いですね……)


「……つまらない話だったみたいだね」


 キリィ―はまた絢の心を読んだようで、不貞腐れたようにそういった。


「つまらないわけではないんですが……、時間は大丈夫なんですか?」


 絢の質問は、キリィ―を納得させ機嫌を直すに十分だった。


「あー、大丈夫、今こうやってお話をするために地上の時間は止めてるから、僕の力なら永遠にこうやってお話しすることもできるよ」


「そうですか……」


 言葉では、短く冷たいものだが、その心にはキリィ―とキリィ―が使う魔法に通常以上の興味が向き、その心をキリィ―も感じ取る。


「まあ、キミは僕の子供みたいなものなんだよ」


「そうですか」


 先ほどと全く同じ声色で発された全く同じ言葉、だがそこには、先ほどのような興味の心は含まれていなかった。

 しかしその喪失も、次のキリィーの提案によってギリギリ回避する。


「まあ、そんな僕の子供を地球の動物よりも強い生物がうようよいるようなところに、碌な力もなく放り出すようなことしたくないんだよねぇ……」


「何をしたらいいんですか?」


「そうだねぇ……スキルって言ってわかる?」


「……特技ですか?」


「まあ、間違ってはない、でも今回のは少し違う、小難しい魔方陣も長い詠唱も使わずに簡単にを発動させる方法だよ」


「魔法……、どんなのでもいいんですか?」


「うん、何でもいいよ!!」


 そういわれ少し悩む、考えられる限りあらゆる事象を検証し、最も生存率が高いものを考える。


「なら、――を、詳細も言ったほうが良いですか?」


「いや大丈夫だよ、でも使いこなせる?」


「私は貴方の子供なのでしょう?」


「それでどうこうできる力じゃないと思うんだけどね……」


「大丈夫ですよ、私にできないことはありません」


 何処か自信に満ちたその言葉を聞いたキリィ―は絢に向けて笑みを浮かべて、「またね」と言い、絢も「ええ、また」と言葉を返し、それと同時にこの部屋にいた時と同じように、白い光が視界を焼いていく……


――――――――――――――――――――


「さて、これを記している人にはいろいろと言いたいことがあるんですが……まあいいです、取りあえずは、どうにかなるでしょう」

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