長編でも有意義なホラーを貴方に……ッ!?

八重樫 月夜

封印から解かれし死姉弟舞―第1章―

 時は現在、イギリスはコッツウォルズ。


 世界一美しい村と謳われるこの村には、決して明かされてはならないある秘密が存在していた。


 もし、その秘密を解き明かそうとするならば――























 その者は"謎の死"を遂げることになるだろう。























 後輩「あの、本当にこんな長閑な場所にあるんですかね?……その、呪物……ッ」


 先輩「お前も俺と一緒に聞いてただろ?編集長曰くここにあるってよ」


 怖い話や都市伝説等を取り扱う専門誌を販売している企業、アウトサイダースに所属している俺『荒牧あらまき 駿しゅん』と6年後輩の『谷垣たにがき アラタ』。

 俺達は編集長の命令で、イギリスはコッツウォルズに訪れていた。

 コッツウォルズの歴史は深く、コッツウォルズは羊のいる丘という意味もあり、かつて羊毛の交易で栄えていた。

 1900年代に入り、長閑な風景と美しい景観を活かした観光業がメインとなり、今尚国内外問わず多くの観光客が訪れている。

 そんな長閑な場所に、編集長はあると言うのだ。


 編集長「最後に"奴"が現れたのが、イギリスのコッツウォルズという情報は、信頼出来る筋から既に入手しちょる!必ず彼処に例の物がある!今すぐ調べてこいや!!」


 編集長「意見あるなら給料無しじゃけえのぅ!不眠不休で働けや!!」


 駿「あぁ、了解w」


 アラタ「ブ……ブラックや」


 流石は広島の元ヤ○ザ、口調はさることながら、その周囲に揺れを起こすようなドスの効いた声は、もはや感嘆さえ覚える。

 そんな編集長が裏の勢力を使ってでも、喉から手が出る程欲しがっている呪物の名は――


死姉弟舞シシテイマイ


 中々変わった名前だが、これが呪物の名前らしい。

 名前に姉弟がついている通り、この呪物は双子の赤子の見た目をしており、その姿は一つの胴体に二つの顔、8本の手足でそれぞれ反対を向いている恐ろしい見た目をしているという情報も聞いた。

 だがここで疑問に思った人もいると思う。

 イギリスのコッツウォルズにあるというのに、何故日本語の名前なのか?

 欧州にあるのであろうから、外国語の筈……そう思った人もいることだろう。

 その謎を解くには、この呪物を作り上げたある人物について説明しなければならない。

 その人物の名は――


物部忠孝このえただたか


 文久2年1863年に物部家の物部忠近の子として生まれた忠孝。

 忠近の初の男子として生まれた忠孝、その生涯はさぞ安泰だったのだろうと思われるかもしれないが、事実はその逆……

 彼が生まれた1年後、1863年に弟の物部忠麿が生まれた。

 母親の身分が低かった為、忠孝は後継者として選ばれず、忠麿が物部家の家督を相続した。

 父親から全く期待されていなかった忠孝だったが、もしもの為の保険として、忠麿と同様の勉学に励ませ、いずれは忠麿の側近にさせる為に育成していた。

 しかし、明治9年1876年に天然痘に掛かったことでこの世を去った。


 アラタ「え?結構若くして死んでるんですね」


 駿「あぁ、表向きはな」


 アラタ「表向き?」


 駿「奴が死んだとされるあの時から、日本……いや世界を牛耳る為の計画は、始まっていたんだろう」


 皆も1度ぐらいは聞いたことがあるであろうロ○チャ○ルドやロッ○フェ○ーはたまたイ○ミ○ティ等、世界の裏で暗躍し、終いには世界を裏でコントロールしているフィクサーと呼ばれている奴等。

 陰謀論好きにはたまらない単語だらけだろうが、同時に彼等は奴等の恐ろしさも知っている。

 正直あまり深く関わりたくない連中なのだが、そんな奴等フィクサーと呼ばれる者達の中でも、本当に世界の裏で君臨している者はたったの5人しかいない。

 そしてその5人の中でもトップなのが、日本人である彼――物部忠孝だ。


 アラタ「駿さん見えてきました、あの人が例の呪物の詳細を知ってるっていう」


 駿「だろうな」


 灰暗い森の中へと突入していた2人は、厳重なゲートの前で待っている黒髪の男と目が合った。

 この欧州で黒髪、しかもおかっぱ頭にのっぺりとした彼の異様さに、長年この仕事に就いている駿ですら冷や汗をかく程だ。

 そして彼と合流を無事に果たし、誰にもつけられていないか、彼が周囲を無言で確認した後、彼は歩いてカード型の小型デバイスをスラッシュし、自ら先頭に立って2開くをゲートの奥へと招き入れた。

 このゲートを越えた瞬間、先程まで聞こえていた鳥の囀ずりや小動物の鳴き声、そして自然の音が、一切耳から遮断されたかのように聞こえなくなったのだ。

 するとそんな2人の考えを見越してか、沈黙していた彼はボソッと答える。

 既に2人は"奴"の結界の内に入っているのだと……

 ネットでのやり取りで彼は、彼自身の身分と名前の一切を伏せるという条件で、例の呪物の取材及び雑誌の掲載を承諾してくれた男性だ。

 仮に彼の名前を【佐藤さん】にしておこう、今はね。

 数分程森を歩くと佐藤さんは急に立ち止まり、2人に少し下がるように手で合図した後、佐藤さんは右手で地面を擦り、手で掴める窪みのある鉄の板をギュッと握る。

 すると彼はそれを一気に力任せで、自分の体に向けて引き寄せて上に上げた。

 すると中から地下へと下りる為の鉄で出来た階段が現れ、佐藤さんが先導して階段を下り始め、後ろの2人についてくるようまたしても手で合図する。

 長年この階段を使われていなかったのか、上段から下段に下るにつれて、砂から一気に埃とカビが侵食していってるのが、佐藤さんが用意した手持ちのランプで分かる。

 2人は後ろから佐藤さんを見ていて、まるで自分達を死へと誘う案内人にさえ思い初めて、アラタは無意識に駿の裾付近を軽く掴んでいた。

 正直全く嬉しくないのだが、そうしたくなる気持ちは分かる。

 そうこうしていると、やがて階段の先にパスワード付きのドアが目に入り、佐藤さんはパスワードを入力した後、先程の小型デバイスでスラッシュし、プシュ~という音共にドアが開かれる。

 すると1本の長いT路地型の通路が現れ、その道中様々な部屋があるのが見て分かる。

 まるで秘密組織のアジトのようだ。

 通路へ一歩踏み出すと目映い光が通路全体を照らすが、何処からか黒い瘴気が溢れるが、佐藤さんは目もくれず通路を左に曲がり、2人は恐る恐る後に続く。


 アラタ「駿さん、何かいろいろとヤバくないッスか?俺達殺されたり誘拐されたりしないですかね……?」


 駿「さぁ……だがここまで来た以上、引き返すこのは出来ない、そうだろ?」


 アラタが佐藤さんに気付かれないよう、小声で駿に話しかける。

 確かに、こんな如何にもあやしい場所に連れて行かれれば、誰だって怪しむのは当然だろう。

 駿達が小声で話していると、佐藤さんはエレベーターの中へ2人を入れ、B10と刻まれたボタンを押す。

 徐々に重力が掛かっていくと共に、先程よりも濃い瘴気が隙間から中へと入ってくるのが分かる。

 底からドンッという音が体を突き上げたと同時にドアが開かれ、より強い瘴気が一気にエレベーター内に充満する。

 どうやらこの禍々しい黒い瘴気は、一方通行の最奥の部屋から溢れ出ているようだった。

 2人はあまりの濃さに、思わずハンカチで口と鼻を軽く塞いでいると、歩き出した佐藤さんは彼等を見て――


 佐藤さん「あの部屋の更に奥の部屋に、あなた方が求めている災厄の呪具――死姉弟舞シシテイマイの体が厳重に封印されています」


 先程のようなボソッとした声ではなく、背筋が凍るような冷たくもハッキリとした声で、2人にそう伝える。

 あまりの声の変わりように駿ですら驚くが、

 最奥の部屋に近づくにつれて、より一層黒い瘴気が強まっていき、ハンカチで塞いでいても咳が出てしまう。

 ハンカチで塞いでいても咳が出るというのに、後ろから見ていてもハッキリと分かるぐらい、佐藤さんの表情は会った時から一切変わっていない……そもそもこの佐藤さんが本当に人間なのか疑ってしまう程に不気味過ぎるのだ。

 先程から歩き方を後ろから見ていると、膝を曲げて歩いているのではなく、通路と平行でスライドしながら動いているように見えるのだ。

 それはアラタも勘づいており、いろいろな状況が重なってか、時折嗚咽の声が聞こえてくる。

 最奥の部屋まであと5mと迫った時、部屋の奥から大きな衝撃が発生し、それは衝撃波となって一気に体を覆い、全身の毛が一斉に逆立ち始める。

 第六感が最悪の恐怖を感じ取っているのだ。

 佐藤さんはそんな衝撃をもろともせず、先程と同様部屋のロックを解除し、15畳程の部屋へと入る。

 部屋には一切の物はなく、真っ白い部屋に蔓延する邪悪な瘴気が恐怖の調和を果たしていた。

 この恐怖の部屋をアラタの手を引っ張り長ら突き進んでいくと、恐らく最後の部屋であろうドアの前へと立ち止まる。


 佐藤さん「いいですか?今から入るこの部屋の奥に死姉弟舞シシテイマイはいます」


 佐藤さん「決して彼等の目となって合わせないでください、合わせれば最後――」


 佐藤さん「彼等に魂を取られますよ?」


 何とも恐ろしいことを言ってくる佐藤さん。

 すると彼が後ろを振り返った瞬間、開けておいた筈のドアがバンッ!と閉められ、ロックが掛けられたような音までしたのだ。

 2人は今の出来事に絶句していると佐藤さんは、どうやら死姉弟舞シシテイマイはあなた方を逃したく無いらしいと言い、遂に目の前の部屋のロックを解除する。

 彼がドアを開けた瞬間、禍々しい瘴気が一気に心身を支配してくる。

 すると佐藤さんはある部分に指を差す。

 瘴気の薄くなっている部分から微かに見えてくるガラスの柱。

 その中は何かの液で満たされており、恐る恐る視線を上に上げていくと、人間の足らしき物が視界に映り始めた。

 足は4本、左右に程よい筋肉がある少年の足があり、間には華奢な少女の足があった。

 胴の部分に4本の腕、そして2つの大きさの異なる頭部……まるで生きているかのように肌は艶々だった。

 この異形の人間成らざる者を後生大事に保存するえげつなさに、口から出そうになった物を何とか押し込める駿。

 駿は何とか堪えながら視線を会わせないよう下に向けていると、ガラスの容器の中央部に大きな御札のような物が貼られていた。


【大正十年七月七日 スクナ族ノ呪法ヲモッテ死姉弟舞ヲ吉野山二封ズ】


 駿「――ッ!?」


 駿は心の中でそれを読み終わると、視界の上で微かに頬をつり上げる死姉弟舞シシテイマイの表情が見てしまった。

 駿の驚きの表情を反射したガラスから見た佐藤さんは、あの姉弟と同じように微笑みながら2人に振り返る。


 佐藤さん「久しぶりの来訪者に喜んでいるようですね」


 佐藤さん「この呪具がどういった物なのか説明する前に、まずはこの姉弟の生い立ちについて話しましょうか」


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