第9話 爆破場所
「で、本題だけど」と有栖が顎の前で両手を組んだ。「爆破計画の話をしよう」
「お前のせいで脱線したんだろが」ソラがヤジを飛ばすが、有栖は意にも介さず続ける。
「爆弾はソラに頑張って作ってもらうとして、だよ——」皆の顔を見回すように話す有栖に「お前らも頑張れよ」とソラがまた横槍を入れた。だが、やっぱり有栖は相手にしない。
「——問題は、校内のどこを爆破するか、だね」
火薬をどうするか、の方が悩ましい問題だとは思うが、どうせ無視されるのでソラは諦めて、有栖の提示した問題を考え始めた。
爆破するのは、絶対に人が訪れず、かつ、学校側にとってはそこそこ重要な場所である必要がある。例えば焼却炉なんかを爆破したところで、多分大した問題にはならない。ただの事故だと思われるだけだ。
人為的に爆破された、と確実に分かるような場所が好ましい。だが、誤って人を巻き込めばケガでは済まない。絶対人が来ないような場所でないとダメだ。確かになかなか難しい。
有栖はソラと祈里を交互に見て、特に意見が出ないことを確認すると、「もういっそのこと職員室吹っ飛ばしちゃう?」と言った。
「あはは、有栖さん、冗談きついです」
祈里が明るく笑う様子を見て有栖は不思議そうに首をかしげた。
「え、冗談ですよね……?」
祈里の顔が引き攣る。無理もない。職員室を爆破するなんて過激派もいいところだ。そもそも教師が詰めている可能性が高い職員室の爆破は、無血爆破を目指すソラ達にはリスクが高い。
ソラは有栖が今にも「大真面目だけど」と言い出しそうな雰囲気を感じとって、有栖よりも先に口を開いた。
「旧校舎……とかはどうだ?」
旧校舎か、と有栖が呟く。どうやら職員室爆破から上手く思考を逸らせたようだ。
この学園の校舎は実は2年前に新たに完成したばかりの新校舎を使っていた。それまでの校舎はまだ健在だが、今は閉鎖されて使われてはいない。
今在学中の生徒は全員1年の頃から新校舎で過ごしてきたため、旧校舎についてはあまり詳しくは知られていない。
旧校舎が近いうちに解体されるような話をどこかで聞いた。で、あればソラ達が爆破しても、然程問題はない。しかも、旧校舎全域が無人なので派手に爆破できる。
学校側は爆破されても痛手はないが、『爆破された』という事実は強く印象付けられる。
我ながらなかなか良いアイディアだ、とソラは心の内で自画自賛した。
——しかし、
「ダメです!」
祈里が鋭く叫んだ。強い否定の感情を祈里が見せるのは珍しく、ソラも一瞬言葉を失い固まった。
「……ごめんなさい」ハッとした祈里が、泣きそうな顔で俯いた。「でも、旧校舎はダメなんです」
有栖は何も聞かずに、「どのみち旧校舎なんて誰も関心持ってないんだから、インパクトにかけるしね」と祈里を見ずに言った。冷たく突き放すような言い方だが、祈里を想って敢えてそうしているとソラには思えた。
「……なら、どこか他にぶち壊したいところはないのか」
有栖は「ぶち壊したい場所……」と顎に手を当て俯いてから、「体育倉庫」と呟いた。
「体育倉庫か」ソラは少し考えてみてから「いいんじゃないか」と同意した。
「体育倉庫は体育の授業中以外は鍵がかかってて人は入れないですし、体育用具が壊されたら学校も困りますよね」
祈里が顔を明るくする。人が困るのを喜ぶとは、こいつもなかなか邪悪に染まってきている、とソラは自分を棚上げして腹でつぶやく。
「だが、まぁ現場を見てみないことには決めらないけどな」
「なら、見に行こうか、体育倉庫」
放課後、ソラ達は一度生徒会室で待ち合わせてから体育倉庫に向かった。
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