第7話 いざ、村へ
村の男と戦って数十分程度経っただろう。出掛ける準備なんてものは無いが、春斗に説明をする時間と、村人を帰させる時間にさせてもらった。
「つまり今から村長を倒すために村に向かう、と?」
「いや、加治屋をここに上げる」
「え?それはどうして」
「きっと今頃村長はどうにかしてボクらを殺そうと考えているだろう。ならば情報を集めるために手下を使う。いまから村に向かう、というのはきっと伝わっているだろう。だとしたら村長は数時間後には村に居ると思い込むだろう。だが実際は加治屋かここに居る。加治屋で見つかったらどうしもうもないが、きっとそれまでに退却、もしくは隠れることは出来るだろう。そしたらあったは一日を無駄にする。その一日があればボクは忍び込む道具位は完成する」
「そして村長が居たら殺す、と?」
「いや、流石に殺しはしないが、状況によっては縛り上げる。まだあの男が真実を言っていると限らないしな」
「嘘をついてた場合どうするんですか?襲われてもおかしくないですが」
「あの男が嘘をついていて、もしボクらを殺す事なのであれば、もっとマシな嘘をつくだろう。例えば開拓とか。モンスターに襲われたって言えば済むしな。それに今回加治屋だったのはたまたまだ。ボクが加治屋を要求してくるとは考えずらい」
「そう……ですか。でも警戒はしてくださいね?」
「ああ、勿論だ」
大体のことを伝え終えたボクは、立ち上がって台所に向かう。
「これをもう少し片付けてから向かうか」
「そうですね。この木箱確認しました?」
「それとそれとそれはそっちに。細長いのは物置の手前の方に置いておいてくれ」
一通り台所を片付け終わり、外に出ると男一人しか居なかった。
「おや、もう一人現人神様がいらしたのですね」
「え?あーいや、僕はそんな人じゃないです」
「ボクの友だ。変なことを言うのは止めてやってくれ」
「そうなんですか。承知しました。村はこっちです」
男は真っ直ぐ出来た一本道に向かっていく。
そういえば初めてゆっくりと家の回りを見ることが出来るな。
そう思ってグルっと今見えるところを見てみると、家を中心とした平らな円が広がっているようだった。円の外は木々であまり通れる様子では無かった為、森に無理やり作ったのだろうか?それに昨日指輪が言っていたように畑のような事をしていたのか、一ヶ所だけボコボコになっている。ってことはどこかに水源でもあるのだろうか?
そんな事を思いながらボクは男に付いていく。勿論春斗も付いてきているが、ボクの後ろに付いていて、不安な顔をしていた。
「そういえばお前の名前はなんて言うんだ?」
「自分ですか?自分は勇気と言います」
ゆうき、勇気、結城……一体どのゆうきなのかわからないが、とりあえず、か。
「そうか、ゆうきか。この言語の名前は知っているのか?」
「日本語、というらしいですね。過去の現人神様が教えてくれた言語。それがどうかしましたか?」
「いや、気になってな」
やっぱり日本語。そのままだな。つまりここに来たのは日本人の転生者ってことなのか?
「というかゆうき。さっきから素で話してないな?」
「ええまあそうですが。上の人には敬語を使えと昔から言われており……」
「止めてくれないか?ボクはあまりそういうのが好きじゃない」
「そうでしたか。それでは敬語で話すのは止めますね。あ、ここの道は二つに分かれていますが、村は左です。そっちの道はまだ行ったことないので分かりませんが……」
「ん、そうか。覚えておく」
そういえば指輪に地図の機能があるのを思い出した。それがちゃんと更新されているのか、そしてどのような感じで教えてくれるのか気になった。
「現在地はどこだ?」
『こちらになります』
宝石は一段と輝きを増すと、二次元の地図を空に写し出した。
「こう写し出されるのか。興味深い」
「なにか言いましたか?現人神様」
「いや、何も言ってないさ」
右手を振るとその地図は消えてしまった。
「そういえばこっちの名前は言ってなかったな。ボクはミキだ」
「僕は春斗です」
「ミキさんとハルトさんですね。次から名前で呼んでもいいですか?」
「好きに呼んでもらって構わない」
「僕も構いませんよ」
「ありがとうございます」
改めて自己紹介も終わった辺りで森から抜け出した。森に近いところは手入れをしてないようだったが、少し離れたところに畑が見え、その奥に家が建ち並んでいた。
「あそこが俺達が住んでいる村です。表から入っていくと目立つでしょうけど、どうしましょうか?裏から入りますか?」
「ああ、出来れば裏からの方が助かる」
「わかりました」
ゆうきは細い畦道に入って行く。
「そういえば村に入ってすぐのところに昔の現人神様の像が建っていたんですが、見えましたか?」
「いや、見てなかったな」
「僕も見えませんでした」
「そうですか。機会があったら見てみるといいかもしれませんね。もしかしたら親や祖父母かもしれませんし」
「そう……だな」
「ここを曲がった所の家が俺の家であり、加治屋です」
「そうか。思っていたよりも遠いな」
「ちょっと先に入って女房に伝えてきますね」
「ああわかった」
ゆうきは歩くペースを上げて家に入っていく。
「春斗は道覚えたか?」
「一本道なので忘れようがない気もするんですが……」
「それもそうだな。ボクにはこれがあるから覚えなくてもいいんだが……」
そう言ってボクは右手の指輪を見せる。
「もしもの時は一人で動いてもらうかもしれないからな。これが二個あったり、貸すことが出来ればいいんだが、説明した通り現人神とやらの一族しか使えないらしいからな。ボクもそれには入らないはずなんだが」
「不思議な指輪ですね。それか正しく扱える者だけがつけれる指輪って可能性もありそうですけどね」
「ふむ、可能性としてはあるかもな」
そんな話をしていると、ゆうきが家から出てきた。
「お二人さん!入ってきてください」
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