第6話 はじめまして、現人神様
結局ボクが導きだした結論は、自分の机で寝て春斗よりボクが早く起きる、という極論だった。
「……なんでそんな所で寝てたんですか。寝違えますよ」
ギリギリ春斗の方が早く起きてしまった訳だが。
「ほら、一緒に寝たら恥ずかしさとか減るが、別々に入ったら襲ってるみたいじゃないか」
「自分から言い出したのにそんなこと考えてたんですね」
「ボクだって恥じらう気持ち位はあるさ」
ボクは立ち上がって背伸びをする。
「今日はどうしましょう?もうそろそろお腹も水も欲しいんですけど……」
「そういえば水も飲んでなかったな。もし水がめの水で良ければ手ですくって飲んでもいいぞ。埃は入ったかもしれないが……気になるなら少し水を捨てつつ手を洗ってくれれば問題ないだろう」
「ちょっと限界近いので飲ませてもらいますね」
「限界なら勝手に飲めばいいと思うんだが……」
そそくさと春斗は台所に向かっていく。
「食べ物はこの近くにある?」
『畑のような所はありますが、今すぐにゲットするのは難しいでしょう』
「そうか」
水は四、五日、食料はニ、三週間ないと死ぬと言われているが、それは生きていけるだけだ。危険になるのは二日から三日、つまり今日明日には動けなくなってしまう。ならばいまからでも探しに行かないとだが危険が多すぎる。剣を引っ張ってきて無理やり持たせて戦うか?いやダメだ。リスクが高すぎる。ならば腐ってる木の実を食べるか?いや、それも危険だ。
ボクとしたことが抜けてる事に気がつき、頭をフル回転させるが、そんな答えは浮かばず。指輪に聞いてもいいがきっといまのように畑だけ言われるだろう。
「先輩、なにか聞こえませんか?」
台所にいる春斗が顔だけ帰ってくると、ボソッと何かを言っていた。
「外に何人も居ませんか?」
ボクは聞き耳をたてると、確かに一人二人なんかじゃない足音が聞こえてきた。
「危なくなったらそこに入っている杖で殴ってやれ。ボクは行ってくる」
「危ないですよ先輩!使えそうな武器があるなら僕も前に立ちます」
「バカ、刺激するようなことするんじゃない。窓も覗くんじゃないぞ。ボク達を見つけた瞬間この家を壊してくる可能性もあるからな」
ボクは音をたてないようにゆっくり歩いて玄関まで行く。
春斗がボクを心配してくれているのはわかるが、人だとしても魔物だとしても危険にさせたボクが責任をとって時間稼ぎをする必要があるだろう。
「いいか、ボクが大きい声で何かを言うからそれを読み取って行動するんだ。下手なタイミングで刺激して戦い合うなんて事になったらこっちが負けるんだからな」
「わ、かりました」
春斗は少し震えていた。それほど怖いのだろう。ボクも怖いが、爆発や毒ガスが起きる実験なんかをやって来たからなのか、不思議とそこまで怖くない。
聞き耳を立てて出ていくタイミングを見計らっていると、足音が止まった。敵が集団で行動をしているのであれば最後の作戦会議をしているのだろうか?
どちらにしてもこれが出ていけるチャンスだろう。深呼吸を挟むと、おもいっきり扉を開けた。するとそこにいたのは武器を構える人々だった。様子からしてまだそれほどの文明を持っていない様子は伺えるが、知能はどれ程のものか。というか言葉は通じるのであろうか。
「お前達は何をしている」
そう大きい声を出すと、こっちに気がついていなかったのか、一瞬固まる者や飛んでしまう者も居た。そして人々の一番前に立っていた一番屈強な男が前に出てきて話し始めた。人だとしても言語の壁は高いと思われていたが、なぜか日本語で話してきた。
「お前こそ何をしている。盗人だか山賊だか例の組織のやつだか知らぬが、そこが現人神の屋敷と知っての事か」
「知らないな。丁度昨日越してきたばかりなんでね」
「なるほど、では死んで償ってもらおう」
いきなり男は剣を構えると、剣を振りかぶりながら走ってきた。
まずい、避けれない。
そう思った瞬間、ピーと高い音がなった。
『防護モード解放。攻撃に指輪が当たるようにてを構えてください』
そんな指示が出された。他に方法も無いので言われたように右手で攻撃を食らうであろう場所に持ってきた。すると指輪からセレストブルーのブロックみたいなのが出てきて、剣からの攻撃を防いだ。反動も少なく、ボクであっても軽々と耐えられた。
「くっ」
男は少し引き下がると、突然しゃがみながら頭を下げてきた。それに続くように後ろの人達も頭を下げる。
「貴方様があのお方の子孫でしたか。それも知らずに自分は襲いかかりました。処罰は受けますので後ろの人々は許してはくれないでしょうか」
「……どういう状況だ?」
「我々は数十年前まで猿という生物に近い存在でした。猿は群れを作り行動をしていましまが、段々といまの人間の体になっていく上で力が無くなり、狩りも出来ない状態でした。ですがそんな状況を変えてくれた二人の現人神です。突然現れては知識を与え、戦闘力をあげるため特訓してくれ。そんな伝説の現人神がこの村の伝説に居ます。現人神はいまの村人なんかよりも目立つ服装をしており、その理由の一つに神物をいくつか持ち歩いていたそう。神物はどれも一族にしか使えない物らしく、神物を使える者は、その現人神の子孫である。そんな言い伝えがあるのです。我々はまだ信仰事態はしているのですが、ここ最近何者かにこの場所を荒らされているのでそれの犯人が貴方なのかと思い、襲ってしまった次第です」
「なるほど」
つまりボクはなぜか神扱いされていて、襲ってきたのはそういう人が増えたから。神に間違われてるのはこの指輪のせい、か。
「すまんがボクはその現人神って人は知らないし、現人神でも神でもない。この指輪だってここから出てきたものだ。つけようと思えばつけれるんじゃないか?」
試しにそれを指から抜いて男に投げてみる。
「それは出来ません。痛」
男はそれを受け取るのを拒んで後退りしたが、落としてはいけないと思ったのか、キャッチしようとした。だがそれは取れなかった。手に触れ掛けた時に明らかに反れたのだ。まるで他の人には持たせない、という指輪に意志があるような。
「こんな感じで我々は持てないのです」
「なるほど。すまなかったな」
それをボクは拾い上げると、指にはめ直した。
「いえ、全然そんなことはよろしいのですが……」
「何か問題でもあるのか?」
「先程の無礼も承知の上で相談したいことがありまして……」
「それは指輪の事で無かったということにしよう。どちらも知らなかったが上の行動だ。あれはボクにも非があるからな。許してくれ」
「その程度でよろしいのですか?」
「ああ、貸し借りは嫌いなんだ」
「承知しました。それで相談なのですが……耳を借りてもよろしいでしょうか?」
「構わないが……」
そう言って男は身を屈めながら近付いてくる。
「実はいまの村長は現人神をよく思っておらず、消しにかかってくると思われます。現にここにもこの事を伝えようと思ったる人も居るとは思います。ですがそれを止める術はないのです。村長は歯向かう者を圧倒的な力と権力で潰してきます。現に村長の横領を告発した貴族が殺される、なんて事も起きているのです。どうかお力添えをお願い出来ないでしょうか?」
そう言い終わると男はまた離れて頭を下げる。
今のボクらは今を生きるのでさえもきついのに村を救っている暇なんてあるのか?村に密かに住まわせてもらう、なんて事を考えていたのだが村長が潰しに来るならそんなことも出来ない。ボクらを匿って貰うにしてもその人達に迷惑をかけるわけにもいけない。というか信頼していいのか?匿うとか言って幽閉されたり……。
「どう、でしょうか?」
「……お前が信頼できる加治屋はいるか?」
「自分の本職が加治屋ですが何か?」
「密かに案内してもらおう。話はそれからだ。他の者は先に帰らせておいてくれ」
ボクは後ろに振り替えると、少し大きな声を出した。
「春斗!出掛けるぞ!」
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