反攻作戦です!


 サハクさんたちレジスタンスに協力すると決めてから三日がたちました。

 私達を見つけようと、星屑の悪魔の偵察隊の捜索範囲も縮まってきています。

 もういつ見つかってもおかしくありません。


 でも、これはアイちゃんの予測どおりなのですよね。

 そうです、サハクさんたちにアイちゃんとスピちゃんを紹介しました。私の艦のことを説明するときに黙っているのは不可能でしたので。

 最初に見たときは私が姫であるということ以上に驚かれましたが、今ではすっかりと慣れたものです。


 スピちゃんはレジスタンスの人にも大人気で、この作戦が終わったら欲しいなんて言ってくる人もいるぐらいです。絶対あげません。

 アイちゃん達の話はコレくらいにして……元々、私達が砂嵐に逃げ込んだのは相手も分かっているはずなのでそこまで時間は稼げないのは分かっていました。

 なので、私達がこの三日間でしたのは戦力の拡張です。

 戦力なんてどこにあるのだろうか? と私も聞かされたときは思ったのですが、格納庫にはサハクさん達が集めたスクラップが大量にあったのです。


 その中から使えそうなものを手当たり次第スピちゃん達が回収していき、『スピアイエル』の精製プラントにぶち込んでいきます。

 さらに、星屑の悪魔が使うものと同じものかはわかりませんが、魔導機関とは別の動力――ジェネレーターの製造にも成功しました。

 厳密には元々『スピアイエル』に搭載されていたのを精製プラントで生み出した燃料で動かしているだけなのですが、なんかあったみたいです。ホント何でもありですねこの艦。万能の名は伊達ではない、ってところなんでしょうか。


「魔導機関が使えないことを想定していたのか……いや、それならばなぜ――」


 この事実が判明したとき、アイちゃんはしばらく考え込んでしまって帰ってこなくなってしまいましたが、あったのだからヨシ! で済ませてほしかったですね。

 大気圏外に出るのはジェネレータ―だけだと出力不足でむりそうですが、空中戦艦としては活動できるとのことでした。

 ついで、というと失礼ですが、サハクさん達の艦もこの三日間でだいぶマシな見た目になっています。

 スピちゃん達は休まなくていいので全力で改装してもらいました。サハクさん達のジェネレーターも私達のを参考に組み直しているので全員で出撃することが可能です。

 設計図だけですが、他の地域のレジスタンスにも送信しているので、何隻かはこちらの動きに同調して出撃してくれるそうです。


 一大作戦ですね。

 そんな風に問題なく過ごしていたのですが、唯一のあった問題といえば、私の食事くらいですかね。

 サハクさん達はレジスタンスで育てた野菜やら合成肉やらを食べていましたが――私が、サハクさん達の物資に手を付けるわけにもいかず……この三日間の私の食事はまた合成レーションのままでした。おのれ、星屑の悪魔め! 許せない理由がまた一つ増えました瞬間でした。

 まあ、多分お願いすれば分けてくれた気もするのですが、姫のプライド的な感じですね。


 そんなこんなで、作戦の開始時刻が刻一刻と迫っています。

 さてさて、全員の準備はどうでしょうか。


「こちら『スピアイエル』、エルルリィです。出撃準備は?」

「こちら、サハク。全員問題なしだ。いつでも行けるぜ」


 サハクさんの声に答えるようにアイちゃんが作戦を再確認します。


「こちらでも確認した。出撃前に我々の作戦についておさらいしておく。我々の目標は惑星に存在する魔導ジャマーの破壊だ。位置は確認している一箇所だけだが、防衛目標には守備軍と上からのレール砲台による強固な防衛が敷かれているがどちらもそこまで問題ではない」

「レール砲台は我々だけでなく各地のレジスタンスも一緒に出撃することで、目標を散らさせる予定だ。くわえて、敵の防衛艦隊はこちらと同数しかいない。今までは性能差があったようだが、今回に限っては存在しない。厄介な戦闘機部隊もいるが、それもあまり数は多くないことが判明している」


 ここに逃げ込むときにそこそこ落としましたからね。

 と、アイちゃんが最後は私が言えとばかりに露骨に視線を投げかけてきます。

 はいはい、わかりましたよ。


「この戦い――勝ちにいきますよ! 総員出撃です!!」


「「「「おお!」」」」」


「姫さんに続け!」

「ようやくばあさんの敵が討てる!」

「アンタ……見ていてくれよ!」


 などなど、『スピアイエル』に続けてレジスタンスの巡洋艦も次々に出撃していきます。

 外に出ると、偵察隊の戦闘機がこちらに気づいたのか離脱しようとしますが――させるわけないでしょう!

 あらかじめ起動させておいた副砲が発射されます。敵戦闘機は火を吹いて墜落していきました。


「よし! スピちゃんたちもだして一気に進みましょう」

「まだ始まったばかりだ……油断するなよ。戦闘機部隊、出撃!」

「はいなー」

「ごーごー!」


 勢いよく飛び出していくスピちゃんたちですが、直鞍にしかならないのですよね。でも全面に展開して、敵戦闘機をできるだけ落として貰いましょう。

 敵もこちらの動きを完全に把握した頃合いでしょう。ここからは時間の勝負です。

「いけいけー! 突撃ですよ!」

「ジェネレーターはテストでは問題なかったが、本番でも魔導機関と併用できているな。出力は少々劣るが、この戦いのあいだなら何があっても問題なく使用できるだろう」

「アイちゃんのお墨付きなら安心ですね。」


 断続的に現れる敵戦闘機を落としていると、次第に戦闘機の数が少なくなってきました。どうやら、偵察機を確認のために向かわせるのは止めたようですね。

 そうなると、あれが来ますね。


「姫さん、砲撃がくるぞ!」


 私がそう思うのと同時にサハクさんから忠告が入ります。


「スピちゃん達は一旦、『スピアイエル』の影へ!」

「らじゃー」


 戦闘機では直撃したら終わりですから、艦の影に隠すことでスピちゃんたちを守ります。『スピアイエル』が大きいからこそ出来る手法ですね。

 上からはレール砲台から発射された弾丸が降り注いできますが、密度が最初のときに比べて、圧倒的に少ないです。

 どうやら、他の場所のレジスタンスも同時出撃してくれたようです。

 この程度なら何発か直撃したとしても問題なく耐えられるでしょう。

 ただ、それは私の『スピアイエル』だけなのですよね。

 それを裏付けるかのように……


「五番艦、轟沈!」


 背後で一隻がレール砲台の攻撃に耐えきれず。大破しました。

 全員が無事にたどり着けるわけがない……仕方のないこととはいえ気分は良くないですね。


「止まるわけには行きません! 全員進んでください! 目標はもうすぐです!!」


 士気が下がるのを防ぐべく、声を張り上げえます。通信から聞こえてくる声はまだ元気なように聞こえますがどうですかね。空元気にも思えます。

 まだ、目的地には着かないのでしょうか。

 レール砲台の攻撃を受けながら進むのは想像以上に精神を使いますね。

 安全度がかなり高い私でこれなのですから、レジスタンスの皆さんは心が折れてもおかしくありません。

 早く着いて、と願う私のこころが届いたわけではないのでしょうが、そんなことを思った瞬間――目標の魔導ジャマーが見えました。


「見えました! 目標が射程に入り次第撃ってください!」

「できるだけ近づくんだ! 味方が巻き込まれそうになれば、レール砲台は怖くない!」


 そう、レール砲台の弱点は同士討ちです。

 本来なら、初めて『スピアイエル』に攻撃したときのように、戦闘機程度なら巻き込んででも倒せばいいのでしょうが、今回の魔導ジャマーのような重要防衛施設なら?

 誤射を恐れて本来の力を発揮できないでしょう。

 私達は勢いのまま敵艦隊へ突入していきます。

 敵艦隊は、最初に私が戦ったのとほぼ同じで数は一〇ですね。

 軽戦艦がいなくなって、重巡洋艦に変更されているくらいでしょうか。

 絶え間ないビームが襲ってきますが……、


「効きません!」


 今回の私の役目は盾です。正面の攻撃は『スピアイエル』の残った魔導機関のほぼすべてをシールドに回しているので、これだけの砲火が襲ってきても耐えきることが出来るのです。

 サハクさん達がレール砲台の脅威から逃れるまでは敵艦の攻撃を受け止め、盾として活動しようと決めていました。

 それは現時点でまでは成功しているのですが……『スピアイエル』が反撃しないせいか、敵巡洋艦の狙いが他の艦へと回されているようですね。


「これはちょっとまずいですね」

「サハクたちが狙われるのはよくないな」


 せっかくレール砲台の脅威がなくなったのに、巡洋艦から狙われるのでは意味がありません。

 戦闘機はスピちゃん達が抑えてくれているので、サハクさんたちも戦えていますが、このまま放置していては戦況がどう動くかわかりません。


「こちらに狙いも来ないことですし、この戦況なら、一気にやっちゃいますか」

「その方がいいかもしれんな。警戒はこちらでやっておく」

「お願いしますね」


 アイちゃんに艦の殆どを任せて、私はコントロールスティックを握りしめます。

 少し大型の第二主砲が顔を出しているはずです。敵が『スピアイエル』の動きに気づいて行動する前にさっさと撃つ必要があります。

 目標とターゲットサイトを重ねて――撃ちます!

 二つの砲塔から発射されたビームは砲塔の動きに合わせて薙ぎ払うように敵巡洋艦を貫いてきます。一極集中したわけではないので、爆沈する艦こそありませんでしたが、ほとんどの艦が行動不能です。


「今です!」


 私の声が聞こえなくともレジスタンスの皆さんは突撃していました。

 

 結局、この判断が功を奏したようで、これから先はさほど苦労もせずに魔導ジャマーを破壊することに成功したのでした。

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