うらぶれ星と星屑の悪魔


「星屑の悪魔……ですか?」

 レジスタンスのリーダーであるサハクさんからの聞き慣れない言葉に思わず疑問符が付きます。

 アイちゃんに知っているかと目線で問いかけてみますが、ゆっくりと首を振られてしまいました。『スピアイエル』のデータベースにも存在していないようです。

「星屑の悪魔ってのは俺達の呼び名だ。あいつ自身は機械の使者とか名乗っていたな」

 それはまたけったいな名前をされていますね。ちなみに、そちらの名前をデータベースにないようです。

 そして、その名前が何を指すのかは明白です。

「あのレールと艦隊のことですよね?」

「そうだ――……」

 そう言って、サハクさんはこの惑星の状況について話してくれました。

 この星は元々、辺境の開拓惑星として移民を集って生活していたようです。

 荒野と砂漠が大半ですが地下資源はあったらしく、水も地下洞窟に存在しているとのことでした。

 しかし、いつ頃かはわかりませんが機械の使者を名乗る不法者が現れて、惑星の航路を封鎖。そのまま、支配してしまったとのことでした。

 サハクさんのおじいさんの代ではすでに星屑の悪魔によって支配されていたのだとか。

「その後、あいつが設置したあのレールはこの惑星から人を出さないようにする監視装置と抑止装置を兼ね備えたものだ。あれでどこでも狙えるぞっていうな。艦隊は姫様が戦ったのをみていたが、あれの他には後数隻しかいないはずだ」

「話だけ聞くと、そこまで相手――星屑の悪魔に戦力は多くないと思うのですが、なぜ奪い返せて……」

 とここまで言ってから、私達がなぜこの星に来る羽目になったのかを思い出しました。

 魔導機関の出力が大幅に低下したからでした。あれさえなければ『スピアイエル』でも艦隊の撃破は十分できたはずです。

「そう、この星では魔導機関が使えないんだ。原理は分かっていないけど、原因は分かっているあいつが設置した――魔導ジャマーのせいだ」

 魔導ジャマーと呼ばれる巨大な塔が惑星内に立っているそうで、それのせいで、魔導機関が使用できなくされてしまっているとのことでした。

 じゃあ、破壊すればいいじゃんとなりそうですが、警備は厳重。

 それにくわえて、星屑の悪魔の戦闘機などは魔導機関とは別の技術――機械のみで作られた動力を用いて動いているそうです。それによって、魔導ジャマーの中でも動けるのだとか。

 聞けば聞くほど面倒な状況ですね。

 我がUNM宇宙帝国はこのことを知らないのでしょうか。首都星では魔導機関が止まるような技術の話なんて、カケラも聞いたことありませんが、軍の情報には疎いですからね。

 でも、『スピアイエル』のデータベースに載っていないなら、たぶん知らない可能性が高いですね。

 他に助けが来る可能性を知るために追加の質問をしておきます。

「UNM宇宙帝国軍は来てくれないのですか。大規模艦隊でくれば、どうにかなりそうなきもするのですが」

「さあ、気づいていないんじゃないかと思うけど、今どうなっているのかはここからじゃわからないな。昔はヘルプコールを聞いて、助けに来てくれた帝国艦もいたらしいが、最近は見ていない。俺がリーダーになったここ一〇年はいないと思ってくれていい」

 なるほどなるほど。

 あのヘルプコールを出している輸送艦は囮で、あれにやって来た艦を引き付けて惑星に落とし込み、新たな作業員か資材にしてしまっていると。

 なんというか、回りくどいやり方をしているみたいですね。地道な戦力拡張といったところなのでしょうが、サハクさんたちみたいなレジスタンスを生んでいる時点で完璧な支配ができていません。

 まあ、辺境の地ということにくわえて、UNM宇宙帝国からも隠れて行っている以上、大規模には出来ないのでしょうけど。

 それにしても、ここの担当官をみつけたら文句を言ってやりたい気分ですね。とんでもないことに巻き込まれたぞって。

 どうも星屑の悪魔はここにやって来た艦船やら、資源を使って、あのジャマーを量産しているらしいです。

 あんな物、ばらまかれたらたまったもんじゃありませんね。

 レジスタンスが活動しているため、あまり多くは作れていないようですが、すでに何個かは作られたみたいです。

 食料などの生活を考えると星屑の悪魔に従っている人がいるのも仕方がないのかもしれませんが、もやっとはしますね。UNM宇宙帝国軍も役に立っていないので、あまり言えたもんじゃありませんが。

「一応、俺達にも廃材やくすねた資材から修理した艦船はあるんだがな。これじゃ戦いにもならん」

「ここにあるのはその艦船ですか」

「その一部だな」

 格納庫にあるスクラップのような大半はサハクさんたちレジスタンスが修理したり、ツギハギした艦船だったようです。

 魔導機関の他に星屑の悪魔が使っている動力も搭載しているそうですが、真似ただけだったりあちらの型落ち品だったりと、出力が低く戦力差はいかんともしがたいのだとか。

 そこで、宇宙では敵巡洋艦を何席も葬り去り、魔導ジャマーの中でも動いている私達と協力することでこの状況を打破したいそうです。

 砂嵐の中、光信号でここに案内したのはそういうこと、というわけですね。

 大まかには理解できました。

 一時的に通信を保留して、アイちゃんと相談します。

「アイちゃん、『スピアイエル』の魔導機関が停止していないのは最新型で、大きいからですかね?」

「おそらくそうだろう。小型のものは停止してしまっているから、魔導ジャマーというのは魔導機関を停止させるというよりは、出力を大幅に制限するものなのかもしれないな」

 確かに、そう言えますね。それが分かったところで状況に違いはないんですけどね。

「私達も少しでも早くこんな惑星から脱出しておきたいですし、協力するのは悪くないのではないですか?」

「悪くはないが……」

 歯切れの悪いアイちゃんです。

 アイちゃんが心配しそうなことと言えば、私が思いついたのは一つですね。

「彼らが嘘をついているとかですか?」

 先程までの状況はすべてサハクさんから聞いたものです。状況的に合致していますが、嘘をつかれていた場合全てが台無しになります。

 なので、それかな、と思ったのですがアイちゃんは否定しました。

「いや、レジスタンスから話を聞いている最中に先程回収したものを解析して少しは情報を入手できた。解析できた範疇でだがサハクの説明は間違っていない」

「じゃあ、いいじゃないですか協力しましょうよ」

「協力と言っているが、ほぼほぼ矢面に立つのはお前――この『スピアイエル』だぞ?」

 アイちゃんが神妙な面持ちで見つめてきます。

 私は逆に笑ってあっけからんと答えます。

「それって、単艦でもあんまり変わらないじゃないですか。むしろ、デコイとでも思っておけば、役に立ちますよ。それに、土壇場で裏切るような事があれば、こちらも容赦しなければいいんですから。嘘がないならこっちから敵対する必要はありません」

「……ずいぶん過激だな」

「友好には友好を、敵対には敵対を。これくらいにシンプルな方がわかりやすくていいと思います。それに、私やられっぱなしって、我慢出来ないんですよ。だから、アイちゃん手伝ってください」

「分かった、俺もこのままは癪だしな」

「ぼくらもなかまのかたきうちです」

「ええ、みんなでやってやりましょう!!」


 私達は操舵室で、仲良く声を張り上げるのでした。

 でもスピちゃんは敵討ちとはちょっと違うと思うんですけどね。ツッコめませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る