墜落と着陸は大きく異なります 2


 突如出力がさがった『スピアイエル』は謎の惑星への着陸を余儀なくされてしまいました。

 現在は大気圏に突入しているところです。ガタガタと多少の揺れは感じますが、結構安定しています。アイちゃんが頑張ってくれているみたいですね。


「そろそろ抜けるぞ」


 大気圏を突破したところで改めて地表を観察してみますが、色の通り荒野や砂漠が多い惑星のようですね。


「ひとまず、広いところに着陸したいところだが……」

「れーだーにはんのうです」


 どこか着陸できる場所を探していたのですが、それを見つけるよりも早く何かが私達に近づいてきています。

 モニターに映し出されたのは、戦闘機ですね。先程、宇宙で撃墜したのと同型です。数もだいたい同じでしょうか。おそらく、大気圏内用に変更はされているのでしょうが、そこまで性能に差異はないはずです。


 でも、これではっきりしたことがあります。


「つまり、この出力低下は奴らの仕業ということか?」


 そう、アイちゃんの言う通り、あの襲ってきた艦たちがなにかやった可能性が高いということです。原因がわかれば対処の仕様もあるのですがね。


「落下中にも関わらず襲ってくるとは大胆なことだが……この艦は万能航宙戦艦だ。大気圏内でも活動できるように設計されている。それに、出力が落ちていようとも、この程度の数の航空隊に負けはしない!」


 宇宙のときと同じく副砲が起動して敵の戦闘機を撃ち落としていきますが、やはり出力の低下がいたいのか、先ほどよりも撃墜出来ている数が多くありません。

 おまけに、追加の戦闘機もやって来たみたいですね。数は先程よりも少ないのでこれで打ち止めでしょうが、その奥に母艦――巡洋艦かもしれませんが――があることを考えるとあまり時間をかけないほうがいいかもしれません。

 アイちゃんもそう判断したようで、追加の指示を出します。


「仕方ない……こちらも戦闘機を出す」

「え!? 魔導機関の出力が落ちているのに出せるのですか!?」


 スピちゃん達の乗る宇宙戦闘機は万能型マルチロールなので、無改造でも大気圏内でも使用はできますが、現在なぞの現象で『スピアイエル』の魔導機関の出力は落ちている状態です。宇宙戦闘機の魔導機関などもっと出せなくなっているはずです。


「問題ない。艦から一定の範囲ならば、魔導機関なしでも起動できる。全て艦で担う必要があるから現在の状況だと弾幕も下がりそうだが、シールドに割り振っている魔力を削ってスピちゃん達の戦闘機にまわせばいい。直鞍なら十分に動けるだろう……というわけで、行け!」

「あいあいさー」


 操舵室にいるスピちゃんの声に合わせて、『スピアイエル』の下部ハッチが開いて、戦闘機が十数機飛んでいきます。

 飛び去った戦闘機は相手の戦闘機の下から編隊の腹を食い破るように上空へと向かっていき、


「だだだだだだだ」

「ぼかーん!」

「れてぃくるにとらえてはっしゃー!」


 すれ違いざまに次々と撃墜していきます。

 副砲との相乗効果でいい感じに敵戦闘機はその数を減らしていきます。

 このままなら全滅させるまでもう少しですね。

 なんて思っていたら、『スピアイエル』を轟音とともに謎の振動が襲いました。


「きゃあああ!?」

「直上から攻撃!? 一体何が!?」


 アイちゃんが声を上げて艦の状態を確認します。


「艦上部シールドにダメージだと。薄くしたのが仇となったか……。だが、どこからの攻撃だ?敵艦などいなかったはず――あのレールか!!」


 アイちゃんがモニターに拡大表示したのは、最初にこの惑星を見たときから気になっていたレールです。星の周囲を覆うように展開されたそれは、移動砲台のためのものだったようです。


「列車砲のようなものか……だが、あの規模のものを惑星内部にしか向けていないとはどういうことだ? いや、そんなことをいっている場合ではないな。ひとまず艦上部のシールドを厚くして対処する」


 最初に敵艦隊と一緒に撃ってこなかったということは、このレールと砲台は今の状況でしか使えないものということで間違いないでしょう。

 これほどの威力です。私達が予想していない方向から撃ち込まれただけでも、十分な効力を発揮したはずです。

 今の状況ではそれが発覚したところで好転には繋がりません。


「おわー!?」

「ばかなー!?」


 結構な数を撃ち込まれているのか、『スピアイエル』だけではなく、戦闘機に乗っているスピちゃんたちが上空からの撃ち下ろしで撃墜されてしまっています。貴重な資材ともふもふが!?


 ただ、敵の戦闘機も巻き込まれたのか、スピちゃんたちが全機撃墜したのかわかりませんが、もう飛んでいません。そこだけは朗報でしょうか。

 敵がいなくなった以上、このままスピちゃんたちを出し続けている意味はありません。

 ほら、早く戻ってください。


 生き残っている戦闘機が次々に『スピアイエル』へと帰還してきました。でも、二割ほどはやられちゃいましたかね。

 撃墜された戦闘機からの推測ですが、砲台から発射されているのは質量兵器のようです。

 シールドは当然ながら実体への防御力も兼ね備えていますが、基本は魔砲への対策として用意されているので、実態に対しての防御力は実は少し低いんですよね。

 弾代のせいでUNM宇宙帝国では質量兵器は基本的に使われていないのですが、ここまでバカスカと撃たれるとやっぱり厄介ですね。

 なんとか砲台を止めなければなりませんが、


「さすがに直上への魔砲は用意されていませんし、どうすれば――きゃあ!?」


 もう一発、直撃したのか『スピアイエル』が深く沈みます。

 おまけに、荒野に吹く砂嵐に巻き込まれたのか、船外カメラでもあたりがよく見えなくなってしまいました。


「こんなときに……」

「いや、むしろ助かったかもしれん」

「え、なぜですか?」


 視界が悪くなったのだから状況が悪化したものと思っていましたが、アイちゃん的には違うみたいです。


「よく聞いてみろ」


 言われて耳を澄ませてみれば、砂嵐の音がほとんどで、砲撃の音はごく僅かにしか聞こえてきませんでした。むしろ、段々と減ってきているようです。


「あれ、あんまりしませんね」

「砂嵐の規模が大きいのだろう。入った位置から大まかなところは把握しているかもしれんが、当てずっぽうで撃つにも質量兵器だ。撃破できていなければ、無駄だからな。それに、弾もそうだが、砲台とて摩耗なしではいられない」

「あ、そういうことですか」


 でもそれって……、


「砂嵐がやんだらまた撃ちまくられるのでは?」

「そうだ。だからそれまでに対策を考えなければならない」

「じゃあとりあえず、隠れる場所を探しましょうよ。あの砲台が惑星全体にあるなら、上から見られなければ多分大丈夫ですよね」

「艦が隠せるほどの穴があればいいがな。だが、その前にやっておくことがある」

「え? 何をするんですか?」


 出撃したスピちゃんたちも無事な分は回収しましたから、特にやることなんてないと思います。

 私が首をかしげているのを見て、アイちゃんは苦笑するとスピちゃんに指示を出していました。


「砂嵐で飛んでいく前に、引っかかっているものを回収しておきたい。地上用のポッドとローダーを出して、出来る範囲で回収しておいてくれ」

「あいあいさー」


 スピちゃんたちは返事をすると、戦闘機がでた下部ハッチとはべつのハッチから、四角いキャタピラ付きのローダーとアームのついたドラム缶のようなポッドに乗って出撃していきました。

 スピちゃんたちは艦に引っかかっている物の近くに行くと、何体かで器用に運んでいきます。

 何処かで見たような物体ですが、あれなんでしたっけ。


「あれって……」

「落下したときに引っ掛けたレールの一部だ。制御ユニットらしき部分を巻き込んだようでな。早く回収しておきたかったのが、戦闘続きだったためここまで遅くなってしまった。あと、敵戦闘機の残骸も拾えるだけ拾わせている。敵について少しでもしっておかなければ」


 おおー、さすがアイちゃん。かしこい……かしこい……。

 と拍手をしていると、モニターの一部が光った気がしました。

 厳密には船外カメラが捉えた一部のモニターですね。

 砂嵐の中、チカチカと光っています。

 かなり分かりにくいですが何かの規則性をもっているような……。


「アイちゃん、アイちゃん。光ってます、何かが光ってます!」

「ん? 何が光っているって?」


 私が手招きしてモニターの画面を指差すとアイちゃんも状況を把握したのか、真剣な表情で光を見つめます。


「これは光信号か? ――……『つ・い・て・こ・い』だと?」

「誰かが呼びかけているってことですか? でも、こんな露骨なんて罠?」

「罠にしては迂遠だがな。こちらの位置が分かったのなら誘導などせずに、上の砲台で撃てばいい。ということは、いま光通信をしてきているのは上の砲台を置いた勢力とは別物だろう」


 なるほど、確かにそういうことになりますね。

 大きくうなずくと、私はあっさりと判断を下しました。


「じゃあ、ついていきましょうか」

「いいのか、確実に何かに巻き込まれるぞ?」

「この状況で巻き込まれていないっていう方が無理じゃありません?」


 すでに出たとこ勝負が続いているような状況です。

 今更、一つや二つ状況が加わったところで、どうってことありません。


「了解した。光通信の先導に従って当艦は移動する。全員、格納はできたか?」

「もんだいなしですなー」

「ごしじのとおり、ぜんぶひろっとりますー」


 外に出て、回収していたスピちゃんたちも全員戻ってきたようですね。

 よし、レッツゴーです。

 砂嵐の中、『スピアイエル』は光通信に従って進んでいきます。

 うーん、砂嵐の中を長時間進むのは中々怖いかもです。なんて、考えていたらたどり着いていましたね。

 進んだ先に待っていたのは、巨大な格納庫でした。


「これは……」

「かなり広いな――だが、中の艦船はほとんどスクラップだぞ」

 アイちゃんの言う通り、元々この『スピアイエル』が存在していたドックに比べると半分以下の大きさですが、まだまだ中には余裕がある感じでした。

 さらに、他にも艦船らしき物体はあるのですが、傍目にはどう見てもスクラップにしか見えません。

 廃材処理場かなにかでしょうか。

 もし、『スピアイエル』を廃材にするつもりなら全力で抵抗する気満々でしたが、特に攻撃などはありませんね。

 そして、攻撃の代わりと言わんばかりに入ってきたのは通信です。


「どうする?」

「どうするもなにも出ないわけにはいかないじゃないですか。繋げてください」


 一体何が出てくるのか。ここは少しでも、威厳を見せるべく艦長隻にしっかりと座り、背筋を正して全身から気品とオーラを出しておきます。この私の尊顔を見られることを光栄に思わせてみせましょう。

 なんか、アイちゃんからうさんくさいものを見るような目で見つめられていますが、なんでそんな目でみるんですかね。

 文句の一つでも言おうかと思っているうちに通信が繋がり相手の姿がモニターに表示されます。


「よう、あんたが宇宙から来た新しい友人だな?」


 なんか、予想よりもずいぶんフランクな人が出てきました。目の前にいるのは日焼けしたのか浅黒い肌をした茶髪碧眼の青年です。

 後ろには他にも何人か控えているのか見て取れます。

 何らかの代表なのは確定ですね。


「友人かはわかりませんが、宇宙から来たのは事実ですね。あなた達が砲撃から逃げられるように誘導してくれたんですよね。ありがとうございました」

「こりゃどうもご丁寧に……」

「ですが、あなた達は何者なんですか。善意で助けたわけではないのは予想がついています」


 あまりやり取りに慣れていないと見た私はここぞとばかりに畳み掛けます。主導権はすこしでも握っておきたいですからね。

 しかし、そんな私の予想に反して相手はあまり気にした様子もなく、あっさりと答えてくれました。


「あー、俺達は……わかりやすく言うならレジスタンスってとこだな。そんでもって、俺はそのリーダー。サハク・アグレイルってもんだ」


 組織と名前を言われてしまうとは、これはこちらも開示したほうが良さそうですね。腹のさぐりあいはするだけ無駄そうです。

 アイちゃんは不服そうですが、私の対応に文句を言ってこないということはそこまで悪い選択肢ではないということでしょう。


「私はUNM宇宙帝国のエルルリィ・フォン・ウェアーデン第十王女です。こちらにはヘルプコールを聞いて、ワープしてきたところ、この惑星に着陸することになりました」


 この発言にはかなり驚いたのか、サハクと名乗った青年はポカンと間抜けヅラをさらしていました。

 後ろに控えている彼の仲間もざわついているので、衝撃は大きかっただったようです。

 ただ、驚いていたのは僅かな時間だけでした。

 もとの軽薄な顔に戻ったサハクは軽く口笛を吹きます。


「ひゅう、マジかよ。帝国のお姫様の戦艦か……こりゃ、運が向いてきたかもしれないな」

「どういうことですか?」


 私そのものよりも戦艦を喜んだようなサハクの発言に再度問いかけます。


「あいつの撃退に協力してほしいんだよ」

「あいつ?」

「そう、あいつだ。我が物顔で宇宙うえに居座る――星屑の悪魔のな」


 私達はそんなことを言われたのでした。

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