墜落と着陸は大きく異なります 1


 戦闘は私達『スピアイエル』の優勢で進んでいきます。

 初撃で重巡洋艦を一隻落とせたのが良かったとは思うのですが、相手も諦めが悪いようでまだ戦闘を続けていました。


 こちらの射程を理解したのかじっくりと後退するように艦隊行動をしていましたが、こちらも前に出ることでそれを潰します。

 本来なら巡洋艦のほうが速いですが、後退ではその速度も活かせないでしょう。反転させる隙は与えたくないところです。逃げられると面倒ですからね。


「えい! これで、もう一隻撃墜っと」


 いまので重巡洋艦二隻、軽巡洋艦が二隻、撃破したことになります。

 さすがに爆沈したのは最初の一隻だけなので大破といったところですが、この戦闘どころかしばらくは復帰できないでしょう。余裕があれば、トドメを指しておきたいところですしね。


 ただ、敵艦隊にも気になる点はあります。

 おそらくリーダーである軽戦艦が生きているからだとは思うのですが、これだけ撃破しているというのに浮足立った動きがありません。統率が取れています。

 おまけに、命乞いのような通信もなしです。戦いぬいてやろうということでしょうか。


 少々、不気味にも思えます。

 こんなことなら、軽戦艦から狙うべきでしたかね……。

 でも、あの軽戦艦艦隊の中で一番奥にいましたし、腐っても戦艦ですから魔導機関の出力もそれに準じて大きいでしょう。ですから、一撃でシールドを突破できる可能性は低かったんですよね。

 どうしましょうかね。

 悩んでいる私に気づいているのかいないのか、アイちゃんはモニターに映る現在位置を確認しつつ首を捻っていました。


「だいぶ奴らを追って惑星に近づいてきたな。これ以上の追うのは止めたほうがいいかもしれん」

「んー。そうかもしれませんが、いきなり撃ってくるような奴らですよ。このまま見逃したら、大人しくしているとかありえますかね。撃破した艦から情報や資材も奪いたいところですし。ここはしっかりケジメをつけておきませんと」


「間違ってはいないが、どちらが宙族かわからない発言は止めろ。でも、確かにそうだな。お前の判断に従ってもいいが……」


 アイちゃんがここまでいったところで、レーダーに反応がありました。

 細かい点が数十機、『スピアイエル』と敵艦隊の間に出現します。

 この大きさは宇宙戦闘機ですね。反応が巡洋艦と比べても大幅に小さいです。

 浮いているデブリに紛れ込ませるように隠していたようです。

 起動した宇宙戦闘機が一斉に『スピアイエル』目掛けて飛んできました。

 大きさ的には大したことありませんが、シールド内部に入り込んで、魔砲をつぶすつもりかもしれません。そうなれば少々面倒ですね。


「スピちゃんたちを出しますか?」

「必要ない! あの程度の数なら近接防衛用の副砲で事足りる! ただし、即応待機にはさせておく」


 スピちゃんを出すことを進言しましたが、アイちゃんに一蹴されてしまいました。

 実はスピちゃんたちは宇宙戦闘機も操縦できるのですよね。

 ただ、現在資材不足の『スピアイエル』ではスピちゃんはもちろんのこと、宇宙戦闘機も貴重品ですので、アイちゃんは消耗を嫌ったのでしょう。


 ああ、ちなみにスピちゃんたちは、何人か減ったところで問題ないそうです。本体は艦内にゴーレムの核(コア)があり、個にして群、群にして個だそうで、全員で記憶も共有しているのだとか。

 最悪使い捨てにしてもいいってことですね。そんなことになれば、めちゃくちゃ心苦しいですけどね。やれることが増えるのはいいことです。

 『スピアイエル』の副砲が起動して、向かってくる宇宙戦闘機を次々と撃ち落としていきます。

 アイちゃんの言う通り、数があまり多くないので副砲だけでも対処できそうですね。

 おまけに敵宇宙戦闘機の機動も悪くはありませんが、そこまで練度が高いわけではないみたいですね。

 後方も確認していますが、敵艦や宇宙戦闘機の伏兵もいないようです。


「ふははははは! どれも予測の範囲内だ。甘すぎるな!」

「うわぁ……」


 アイちゃんがどこの悪役ですか、と言わんばかりの笑い声で撃ち落とされる宇宙戦闘機を眺めていました。ストレスでも溜まっていたのですかね?

 でも、なぜ、敵は今のタイミングで宇宙戦闘機の札をきってきたのでしょうか。

 宇宙戦闘機を数十機ぶつけたところでこうなるのは明白だと思うのですが。

 すると、モニターには急速反転して下がっていく敵艦が映っていました。なるほど、撤退のための捨て駒として宇宙戦闘機を使ったということですか。

 私達がそこまで強くなかったなら、宇宙戦闘機と挟み撃ちしようと考えていたのでしょうが、上手くいかなかったので、予定を変更したということでしょう。

 これはもう押して、押して、押すしかないですね。


「もういっちょ、発射!」


 第三主砲をもう一度発射して、最後方で逃げようとしていた(こちらから見ると最前線ですね)軽巡洋艦を航行不能にします。

 さすがに、距離が離れてきたのか減衰が激しいみたいですね。それでもサイズ差による火力で動けなくは出来たみたいですが。

 相手の罠も踏み潰したみたいですし、このまま前進です。

 と行きたかったところなのですが、


「……待て、わざわざここに来て反転までするのは妙だ」


 高笑いモードを解除したアイちゃんから待ったがかかりました。


「ええ、逃げているだけの敵ですよ!?」

「捨て駒まで用意して逃げるだけだと? あまりにも愚策すぎる」

「レーダーに反応はありませんけどね」

「船外カメラにもそれらしきものは映っていないが……」


 アイちゃんがそこまでいうなら、退いておきましょうかね……と思ったときでした。

 何かが艦内を通り過ぎたような不思議な感覚を味わいました。

 目視できるものは何もありませんでしたが――私は確かにそんな風に感じたのでした。

 そして、それを裏付けるように状況が変わります。

 操舵室にアラートが鳴り響きました。


「うぇっ!? な、なんの音ですか!?」

「これは、魔導機関の出力が落ちている!? 安定したはずではなかったのか!?」


 アイちゃんが焦燥した声をあげて、モニターが次々といろんな画面を映し出します。色々調べているみたいですね。


「アイちゃん、アイちゃん! 惑星が近くなってきていますよ!」

「分かっている!」


 『スピアイエル』の航行能力が大幅に落ちているのか、惑星の引力に負けているようです。


「駄目だ、出力が上がらん!? ワープも……無理か」

「なんでですか!?」

「分からないから焦っているんだ! 何か分かるか!?」

「げんいんふめいです」


 アイちゃんでもスピちゃんでも分からないとなると完全にお手上げです。

 アイちゃんは緊急時には連続ワープも許可するとのことでしたが、それも無理なようですね。いったい何が起きたのでしょうか。

 こうしているうちにも『スピアイエル』は惑星に引かれ落ちていきます。


「っく、残っている魔力をシールドに回せ! 仕方がない……このまま大気圏に突入する!」

「かしこまりー」


 こんな状況でもアイちゃんは極めて冷静に判断を下していました。

 『スピアイエル』は敵艦の追撃を止め、態勢を立て直し惑星に対して真正面から突っ込みます。

 敵艦が悠々と離脱していくのをみるのが腹立たしいですが、我慢するしかないですね。

 惑星の周囲に展開しているレールの一部を破壊しながら、『スピアイエル』は茶色の惑星へと落下していきます。

 ああ、これが旅をしてから初の着陸になるのですね……不本意な訪れですが、ほんの少しだけワクワクしている私がそこにいました。

 不謹慎ですかね?

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