実戦に準備があるとは限りません 2
ワープした私達の目の前に現れたのは全体的に茶色がかった惑星です。緑色も見えるので、大気自体はありそうな惑星ですね。
ただ、それ以上に気になるのは惑星の周囲に展開されているレールのようなものです。塞ぐほどではありませんが、全体を覆うように存在していました。
何でしょうね、あれ。
と、もう少し目の前の星を観察したかったところですが、通信を出していたのは何なんのでしょうか?
私がそう思うのと同時にアイちゃんが声を上げます。
「ヘルプコールは近くの大型艦からだな」
「あ、あれですか。えーっと輸送艦ですかね」
船外カメラによって、モニターに映し出されたのはずんぐりと角張ったフォルムの航宙艦。コンテナのようなものが見えるので輸送艦だろうと当たりをつけます。
「そのようだな――データベースにヒット。三世代前のクラスB輸送艦だな」
クラスBということは、UNM宇宙帝国の払い下げ品ですね。軍で使っていても状態のいいものは民間に流しているというのは知っています。これでも姫ですからね。
でも、三世代前となるとかなり古いですよね。未だに使われているなんて、よっぽど大事にされているのでしょうか。
それでなにかのトラブルで、ここで助けを求めているとか?
でも、あの惑星を考えると誰かいてもおかしくはないような。あれで無人惑星なんですかね?
「一応、通信でも入れてみます?」
「いや、その必要はなさそうだぞ――」
アイちゃんの顔が真面目なものへと変化して、
「レーダーに反応!! 数一〇!」
声を張り上げました。
私もその声にすぐ反応します。
「艦種は! それとUNM宇宙帝国のエンブレムは見えますか!」
「今やっている!!」
アイちゃんが操作しているのか、モニターには何台もの船外カメラの映像が表示されていました。
映像の中にいるのは……なんですかね、あれ。サイズ的には巡洋艦までしかいないと思うのですが、それ以上は私にはわかりませんでした。
「艦種判明! 戦艦一、重巡洋艦四、軽巡洋艦五! いずれもUNM宇宙帝国マークなしだ!」
「戦艦!? あの中に戦艦がいるんですか!?」
アイちゃんの報告に思わず驚いてしまいました。
なぜなら、あそこにいる艦の中でも一番大きいので『スピアイエル』の半分くらいの大きさです。
『スピアイエル』が普通の戦艦よりも大きいとしても、ここまで差があるのだとしたら戦艦より下のクラスだと思ったのですが。
「軽戦艦と呼ばれる種別だ。UNM宇宙帝国軍ではすでに採用されなくなった艦種だな。大きさから通常の戦艦よりも小回りがきき、戦艦ながら扱いやすいらしい。それでいて、火力はあるとのことだ。もっとも、そんなものを運用しているのが真っ当な組織である可能性は……低い!」
アイちゃんの声に合わせるように、軽戦艦を含む艦隊が艦に取り付けられた魔砲から、ビームを発射してきました。
魔砲は魔導機関によって生み出された魔力を光線――ビームとして、発射します。
その威力は絶大で魔砲は現在、航宙艦の主兵装となっています。ただ、当たり前といえば当たり前ですが、搭載している魔導機関によって威力は異なります。
敵艦から発射された幾重ものビームは『スピアイエル』へと向かっていき、数発が直撃しました。
ですが、『スピアイエル』に被害はありません。艦の手前に貼られたシールドによって、ビームが弾かれたからです。あるとすれば少々揺れたぐらいでしょうか。
航宙艦による戦闘の常識ですが、互いに魔力によるシールドを貼っているわけです。
これを剥がさなければ、艦体にダメージを与えることは出来ないわけですね。突破方法はいくつかありますが、基本的には魔導機関の出力を落としシールドを貼れなくしたところを攻撃するのが基本になります。
「まったく……いきなり撃ってくるとは野蛮な人たちですね!」
「おそらく宙賊だろう」
宙賊というのは字面の通り、宇宙に出現する賊のことです。UNM宇宙帝国でも見つけ次第に狩っているはずなのですが、どうしても目の届かないところは出てきてしまうらしく、たまに安全なはずの航路にも現れるらしいです。
ここは宙族のテリトリーということでしょうか。ここの担当者にあったら文句の一つでも言ってやりましょう。
「ろくな戦力調査もせずに襲ってくるとは一隻だからと侮っているようだな。輸送艦とでも思っているのかもしれん。おまけにこの距離で当ててくるということは敵艦の射程はかなり伸ばされていることになる。代わりに砲撃の密度はないようだがな」
アイちゃんが未だに撃ち続けている敵艦を見てそう評価します。
なるほど、巡洋艦クラスの艦からの砲撃にしては確かに弾幕が薄いですね。
お父様に無理矢理連れられて見ることになったUNM宇宙帝国軍の軍事演習と比べても大した恐怖を感じません。
ただ、射程距離が長いというのは厄介ですね。巡洋艦が多めでもアウトレンジから一方的に攻撃できるのであれば、相手が戦艦であろうと倒せる確率は上がります。
『スピアイエル』の武装や設備についてはアイちゃんから大まかとはいえ、叩き込まれていますが今回の場合はどうですかね。
「近づかなければこちらからの攻撃は届きませんか?」
「いや、問題はない。命中できるかは別として普通の戦艦でも届く範囲だろう。奴らは安全マージンを取っているつもりなのだろうが、無駄だということを教えてやる」
ああ、アイちゃんが悪い顔をしています。
「では、第一主砲を――」
「いや、まだ待て。やつらの戦力があれだけとは限らない。それに第一主砲は少々、魔力を食うからな。あのサイズの巡洋艦クラスが相手ならば撃つのは第三主砲で十分だ。牽制として副砲も起動させておく」
「わかりました」
私の返事を待たずして、『スピアイエル』の表面から、格納されていた砲塔が姿を表します。この『スピアイエル』、副砲はともかく主砲は全て格納されているんですよね。偽造工作の一環なのでしょうか。メンテナンスしにくそうなので、全部出している方が良さそうなのですけどね。見た目的にはスッキリしているので個人的には好みですが。
こちらからもすでにビームが発射されていますが、今現在撃っているのは副砲ですので、相手艦には一発も届いていません。
これは相手にこちらがあがいていると思わせるためですね。
とはいえ、出てきた主砲も見えているでしょうから急ぐ必要があります。
魔力充填完了。第三主砲がいつでも撃てる状態になりましたね。
それと同時に発射用のコントロールスティックが私の手元に出現します。
モニターには敵艦とターゲットサイトがその上に重なるように表示されていました。
あとは、私がこのコントロールスティックの引き金を引けば、発射される。
そう、発射されるんです。
「どうした? なぜ撃たな……お前まさか!? そうか、戦闘自体が初めてなら無理もないか。俺がやる。お前は黙って見ているだけでいいぞ」
アイちゃんが何か言っていますが、よく聞こえません。黙っていてくださいよ。震えそうになる手を押し留めてターゲットサイトを見つめているんですから。
「おい! 聞こえているのか!! 操作権限をこちらに移譲しろ!! 俺が撃つ!」
だから、アイちゃんはうるさいんですってば……ターゲットサイトと敵艦が完全に重なりました――今ですね。
「えい!」
タイミングを逃さずに引き金を思いっきり引きます。
第三主砲から発射されたビームは重巡洋艦のシールドと一瞬だけ拮抗しましたが、次の瞬間には重巡洋艦を貫いたかと思うと一拍置いて、爆沈しました。
わあ、見事な爆発ですね。あそこまで素直に爆発するなんて、魔導機関に直撃でもしたのでしょうかね。
「お、おい? 人の命を奪うことに恐怖を感じていつまでも撃てなかったのではないのか?」
「はい? 別にそんなこと考えもしませんでしたけど」
だって、こっちに攻撃してきている時点で敵ですし、相手から通信があったわけではないので知り合いかもわかりませんからね。そもそも宙賊の知り合いなんていませんが。
理由があるといえども、普通の一般人を撃つのであれば、アイちゃんの言うように撃てなかった可能性はありますが、これでも姫ですのでこういった覚悟はしているのです。
震えていたのはせっかく相手が油断してくれているのですから、貴重な初撃を自分のせいで外したくなかったからですね。
システムが補正してくれているはずなので、ブレるのはそんなに心配しなくていいはずなのに結構緊張してしまいました。
そんな風に答えると、アイちゃんは一回放心したかと思えば、
「ええい!? お前を心配して損した!!」
「なんで唐突にキレているんですか!?」
「自分で考えろ、ポンコツ姫が!?」
「ヒドイ!? しっかり役目を果たしただけなのに!?」
「なかよろしですなー」
まだまだ戦闘は続いているというのに操舵室ではこんな会話が飛び交っているのでした。
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