一人しかいないと思っているときって変なことしちゃったりしませんか? 2


「来たか、待っていたぞ」


 私との言い合いをやめたアイちゃんは操舵室に新たに入ってきた存在を歓迎するように明るい声色でした。

 もしかして、アイちゃんみたいなエーアイさんが他にもいたのでしょうか。先程の通信はそれだったのかもしれません。

 私がそう結論付けて操舵室の入口を見ると、そこには少しばかり予想外の光景が広がっていました。


 入ってきたのは二つの小さな人型――私の膝くらいの大きさで、二頭身の小型でもふもふとした生き物? でした。ものすごく可愛いです!


「ほうこくですが――「可愛い! 可愛いですよ!! きゃあ、触ったら柔らかいです!!」はなしてもろてー」


 ジタバタとしている姿も可愛らしい。触感は最高級クッションに勝るとも劣りません。抱きしめたまま寝たいぐらいです。


「おい、それは俺が呼んだんだ。離してやってくれ」

「えー、持ったままでもいいですよね? あとこの子達はなんですか?」


「はあー、仕方ない。こいつらは魔導によって生み出された精霊と機械の混合物ハイブリッド――端的にいうとゴーレムの一種だな」

「どもー」

「ゴーレム……ですか」


 普通のゴーレムは素材にもよって特性は異なりますが、こんな風に話したり、自由意志を持つことはありません。

 おそらく自我の部分を成り立たせいるのが精霊で身体が機械ということなんでしょうが、もふもふとした感覚からすると、かなり高度な技術が使われていそうです。


 そんな研究をいつの間にしていたのでしょうか。私がそういった方面に深く関わっていなかったとはいえ、聞いたことがありません。

 尋ねようにも研究員なんていませんし、可愛くて便利な子、という感じに認識しておきましょうかね。


「この艦には魔導機関の他にも様々なものが積んであってな。こいつらはこの艦の乗組員というわけだ。小さいが艦のメンテナンスを始めとして、様々な役割を担っている」

「かくしゅなんでもできますなー」

「ほうほう……それは偉いことですね。お名前は?」


「ななしです」

「ななしちゃん……というわけじゃなくて名前がないということですよね?」

「そうだが……俺みたいに名付ける気か? こいつら二体だけじゃないぞ?」

「たくさんいると……つまり、もふもふパラダイスですか!?」

「なにとち狂ったことを叫んでいる!?」


 この子達に囲まれて生活……いいですね。上から下まで囲まれるのも悪くないかもしれません。


「こいつは……名前は好きに考えてもいいから、大人しくしていろ。俺は報告を聞く」

「はい!」


 アイちゃんに元気よく返事をして、この子達の名前を考えます。たくさんいるという言葉をアイちゃんが否定しなかった以上、一人ひとり――一体一体に名前をつけるのは無理ですよね。


 さてさて、どうしたことでしょうか。

 悩んでいる私を尻目にアイちゃん達の会話は進んでいきます。


「現在の艦の状態はどうだ?」

「こうかいにはもんだいなしです。ただ、しざいがろくにありませぬ」

「まどうきかんはげんざいあんていしとります。さらに、ごうせいしょくりょうぷらんとはかどうかのうです」


「仮艦長が飢え死にすることはなさそうか……」

「仮じゃないです!」


 アイちゃんに文句を言うもののチラリと見られたただけで何も答えてくれません。完璧に無視されています。わかりましたよ。黙っていれば考えていればいいんですね。


「お前たちは何体ぐらい稼働している?」

「われわれはひゃくほどですなー」

「少なすぎる……増やせるか?」

「さきほどもいったとおり、しざいぶそくゆえ」


 百体!? そんなにいるのですか……と一瞬思いましたが、この艦の大きさからするとたしかに少ないですね。

 増やせるみたいですがどうやって増やすのでしょうか? 培養? 想像するとなんか嫌ですね。後で増やし方も聞いておきましょう。


「えねるぎーぶそくはありませぬが……」

「資材がなくてはどれも稼働させることができんか……魔導機関が安定しているのが唯一の朗報だな。お前たちはひとまず報告に……と思ったが、まだ持っていたのか。名前は決まったのか?」


「ええ、決めました」


 昔見た、妖精と精霊のほのぼの昔話から取って――


「スピちゃん! あなた達の名前はスピちゃんです!」

「ぼくら」

「スピちゃんです?」

「ええ、そうですよ」


「「かしこまりー」」


 軽く敬礼したスピちゃんたちを床の上に置いて離します。

 名残惜しいですが、お仕事に戻さないといけませんからね。

 いってらっしゃい、と一声かけるとスピちゃん達はトテトテ走って操舵室から去っていきました。


「てっきり、このまま持ち続けるのかと思ったが、思いのほか早く離したな」

「アイちゃん達の話は一応聞いておきましたからね。私がこれ以上スピちゃん達を二人とはいえ拘束しておく状況は好ましくなさそうでしたので」

「聞いていたと言うのなら話は早い。この艦の現在の状態を理解できたか?」


「ええ、なんとなくですが把握しました。全体的な物資不足ということですね。くわえて、私達は物資を何処から回収しつつ航海する必要があると……」

「その通りだ。先程も言ったが、現在位置がわからないのも痛いな」

「冒険としてはコレ以上ないくらいの状況ですね」

「なんでこいつはワクワクしているんだ?」


 アイちゃんに怪訝な顔で見られてしまいました。

 あら、いけません。どうやら顔に全部でていたみたいです。いきなりピンチ過ぎる気もしますが、見知らぬ場所に行きたかったので、それに関しては目論見通りともいえます。スピちゃんの報告からすると物資さえあればどうにかなりそうですしね。


「この艦はプラントなどの生成設備を備えているんでしたよね?」

「そうだ。この艦は万能航宙戦艦として開発されたものだ。長時間の運用と少人数での運用を両立させようとしたらしい。あくまで残されているログからの推察だがな」

「なるほど」


 だから、アイちゃんのようなAIとスピちゃんのような労働力? が存在しているわけですね。我がUNM宇宙帝国も変わった艦を開発しようとしたものです


「つまり、私がこの艦に目をつけたのは間違いじゃなかったということですね!」


 そんなに便利な艦で大冒険へ行けるなんてありがたいにも程があります。


「……お前が無理矢理動かしたうえ、起動直後に負荷をかけたせいで本来の性能が微塵も発揮出来ていないがな」


「だとしても資材不足は私のせいじゃないと思います!」

「積んである物資的に元々、長期航海を予定していなかったのだろう。つまり、彷徨っている原因もお前なのだから、お前のせいで間違いない」

「横暴な!?」

「何も横暴ではないが!?」


 アイちゃんに鋭い指摘をされ、ぐぬぬと顔を歪めます。

 このAI、艦長の補助をするはずなのに優しくないです。ここは話題を変えるしかありません。


「ところで、この万能航宙戦艦は名前とかあるのですか? いつまでの呼び名がないと困ると思うんですよ」


「……はあ、誤魔化されてやろう。だが、お前もわかっているのではないか? 俺にも、ゴーレム――スピちゃんにも名前などなかったのだぞ。艦に名前などあるわけ無いだろう。登録コードぐらいなら残されているが……聞くか?」


「結構です」


 きっぱりと首を横に振ります。登録コードなんて可愛げの欠片もありません。これから、ずっと旅をする艦に名前がないなんて、面白みのかけらもありません。萎えちゃいますしね。

 さてさて、本日三度目の名付けのお時間です。


 艦の状況は未だ大筋しか理解していないので、もっと細かく知った方が良いでしょうし、名付けにあまり時間をかけるのも良くないでしょう。

 どうしましょうかね――そういえば、昔、七のお姉様が好きだったアニメに一つの航宙戦艦が大冒険するものがありましたね。


 今思えば、あれも今の私の原点の一つかもしれません。

 七のお姉様は登場人物のイケメンがやり合うのが大好きで、ご自分で絵も描いていたはずです。最後まで私には見せてくれませんでしたけどね。まだ早いとかで。

 あの作品は確か、艦の名前は過去の有名な艦長さんの名前から取っていたんでしたっけ?


 なら、それを参考に私の名前でも付けてみようか、とも思ったんですがちょっとしっくりきません。

 私の名前の略称にしても単独なのが微妙に感じるのかもしれません。この艦は私のではありますが、今乗っているのは私一人ではありません。

 ああ、そうです。アイちゃんもスピちゃんもいるのですから、合体させしゃいましょう。


 私達、全員の名前を冠した万能航宙戦艦――うん、いい響きですね。


「この艦の名前は『スピアイエル』! 『スピアイエル』にしましょう!!」


 私はそう高らかに宣言したのでした。



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