Q 出航するにはまず何が必要ですか? A 艦です! 3
「上と連絡がついた! すぐに近衛が来るそうだ! そんでもって、姫様――第十王女の所在が確認できてないらしい」
「じゃあ、やっぱりさっきのは本物……」
「う、撃たなくてよかった……」
「撃ってなくても、『実験艦』に入りこまれた時点でやばいだろうがな。それは、姫様から目を離した近衛も同じだろうが。とりあえず、俺達はこのまま待機して姫様とコンタクトを取り続けみろとの――ん? なんか揺れて……」
「じ、『実験艦』が!?」
「まさか、姫様……起動させたのか!?」
「くそっ!? だめだ! 全員退避しろ!!」
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「ここが操舵室のようですね」
大まかな目星はついていたとはいえ、この広さは中々大変でした。まだ誰も中に入ってきていないといいのですが……。
艦長席に座って、認証装置を探します。
まずは魔導機関を稼働させないと話になりませんからね。
私の魔力を認証装置に送り込みつつ、魔導機関を稼働させてみます――ここで手間取るわけにはいきませんがどうでしょうか?
私の心配をよそに魔導機関が稼働したようで艦内に明かりが灯ります。
次に起動したコンピューターから情報を確認していきましょう。
ふむふむ、どうやらこの『実験艦』まだ本格起動をしたことはないようですね。なら、このまま私が艦長であることも設定できそうですね。
認証装置にIDカードを差し込んで、魔力を流します。
ほら、私が艦長ですよー。ささっ、早くしてくださいな。
『エルルリィ・フォン・ウェアーデン第十王女と認証。続けて、艦長登録を行います』
無機質な音声流れると同時に作業が進んでいきます。本来なら上書きしなければいけなかったのでもう少し艦長登録に時間がかかると思っていたのですが、結構早く終わりましたね。
これは行幸です。
魔導機関の出力も上がってきたようですし、そろそろ本格的に動かしていきましょうか。
「魔導機関出力上昇!」
まずはこのドックから離れてしまいましょう。
船体が軽く揺れながら、浮かび上がりました。
船外カメラで様子を確認すると、ハッチの前にいた警備兵の皆さんは無事に退避されたようです。船体に押しつぶされるようなことがなくてよかったです。被害を無駄に出したいわけではありませんからね。
さあ、このまま――と続きを考えたところで、正面のモニターに通信が入りました。
繋げても構わないでしょう。すでに起動した艦に外部からの通信でどうこうすることは不可能ですから。
「姫様、おやめください!」
「これ以上は冗談では済まされなくなりますぞ!!」
通信を繋げたところ、そこに映ったのは怖い顔の近衛兵です。
ですが、今の私にはその程度のことで心が乱されることはありません。
こちらにも覚悟はあります。
「別に冗談のつもりはありませんよ? むしろ、ここまでして置きながら冗談でしたーって、言うほうが怒られません?」
「そのような屁理屈をおっしゃられている場合では――」
「ですから、本気だと言っているんですよ? 言葉通じてます?」
「……後は皇帝陛下に叱っていただきましょう。お覚悟を」
「姫様を捕まえるぞ!! ――――」
「あら、まあ」
一方的に通信を繋げてきて、切断するなんて常識のない人達ですね。
いいでしょう。どうせ、ここまできたら意地と意地のぶつかり合いです。
勝負といこうじゃありませんか。
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「ドックの出入り口を閉めろ!! 後続の艦はまだ出せないのか!?」
「発艦準備にもう少しかかります!」
「っち、なら、防衛装置も出力を下げて作動させろ! 少しでも外に出るのを遅らせるんだ。出すんじゃないぞ!」
「外の連中にも連絡しているだろうな!」
「すでに通達済みです。姫様『実験艦』を拘束するよう指示を出しています」
「ドック内で捕まえるのが最良だが、それが駄目でも外との二段構えだ。おめおめと出ていかれては帝国軍の恥だぞ!!」
「「「「はっ!」」」」
「くそっ、あのおてんば姫め。とんでもないことをしてくれたもんだ……」
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通信が切れてから、操舵室のレーダーに魔導機関の反応が多数出現しました。
その殆どが後方です。私を止めるために大急ぎで航宙艦を稼働状態にしているようですね。
おまけにドックの出入り口も閉めようとしているみたいです。
挟み撃ちで捕まえようという魂胆ですか。
なら、そんな目論見をすべて失敗させてやりましょう。
「魔導機関フルドライブ!! 大冒険への出発ですよ!!」
魔導機関の出力が温まってきたところでパワーを最大まで振り切ります。
ドックが閉まる前に強行突破です。
レーダーの反応からすると外から艦船も集めているようですが、そちらは気にしないでおきます。まずはここを脱出するのが最優先です。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――と、大きな音を立てながら『実験艦』はその速度を……って、なんか音が大きすぎな気が?
「メーターがおかしな動きをしてる!? な、なぜ!?」
モニターや計器、そのどれもが先ほどまでと異なり通常ではありえない挙動をしていました。
「出力を上げすぎましたか……いや、オーバーロードでもこんなことにはならないはず。そもそも魔導機関が落ちることはあっても、こんな現象がおこるわけが――」
次の瞬間、操舵室が光に包まれました。
「きゃ、きゃああああああああああああ!?」
あまりのまばゆい光に私は叫ぶことしかできずに『実験艦』ごと光に飲み込まれたのです。
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「き、消えた?」
「何が起きたんだ? 通信は!?」
「駄目です。近くに『実験艦』の反応もありません。おそらくワープしたものかと……」
「予備動作もなしに――おまけにドック内の短い距離でか!?」
「そんなことを言っている場合じゃない! これは大問題になったぞ……っ、ひとまず全員に連絡だ!!」
「はっ! 姫様を乗せた『実験艦』が消失! 繰り返す! 姫様を乗せた『実験艦』が消失! 各員は予定を変更し――……」
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