(8)――また魔女に会えるのなら、それだけで良かった。

 魔女の死から数年後。

 魔女狩りはいつの間にか衰退していき、過去のものとなり。

 かつて魔女と暮らしを共にしていた少年は、立派な青年へと成長していた。

 それだけの時間が経っても、彼の風貌が異端であることに変わりはなく。一人になった青年は、変わらず世間から身を隠すような生活をしていた。

 青年が故郷の村に帰ることはなかった。

 気味が悪いと自分を追放した村に、いまさら居場所などないとわかっていたからだ。

 それ故に青年は、一人の生活を続ける。

 なにごとも一人で。

 なにもかも独りで。

 とにかく生きることに必死になって、そして、すぐに疲れてしまった。

 しかしそれは、当然の帰結ともいえよう。幼少期から、魔女を美しく殺すことを目標に生きてきた青年は今、成すべきことが皆無なのだ。

 惰性で生きることに苦痛を感じ始めた頃、青年はふと、魔女とのある日の会話を思い出した。

 ――いつかこの森から出ることがあれば、魔女の図書館へ行ってみると良い。

 魔女の図書館。

 魔女が記したものは、その所有権が放棄されると、その図書館とやらに転送されるらしい。実際、魔女が死んだ次の日の朝、魔女の部屋にあったいくつかの本は消えてなくなっていた。

 ――寂しくなったら、私に会いに図書館へおいで。

 その言葉に導かれるように、青年は北を目指して旅を始めた。

 記憶の中の魔女に会ってなにがしたいのかは、わからない。それでも、また魔女に会えるのなら、それだけで良かった。

 ただそれだけが、今の青年の原動力となった。

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