(6)――「それが魔女という生き物なのさ」
次に魔女が目を覚ましたとき、その身体は見覚えのない場所にあった。
いや、厳密に言えば知らない場所ではない。
魔女自身の転移魔法で飛んできたここは、数百年前に拠点にしていた家だ。人間が立ち入らない深い森の中に建てた家で、その自然の豊かさを気に入り、長居した場所でもある。
まだ残っていたのだな、と安堵した、そのとき。
がちゃりと音を立ててドアが開き、そこから見慣れた真っ白な少年が姿を現した。
「起きたのか、ネリネ。調子はどうだ?」
少年の手には、魔女の看病に使おうとしたのだろう、替えの包帯や、身体を拭く為のタオルがある。
「全身が痛い」
「だろうな。お前、三日間も眠ってたんだぞ」
「そりゃあ、苦労をかけたな」
そんなやりとりをしながら、少年は魔女の身体が横たえられているベッドの側にあった椅子に座る。
「傷は、治るんだよな?」
「いいや、もう治らない」
少年に妙な期待を持たせても意味がないと判断した魔女は、ばっさりと言い切る。
「私の身体に生まれつき在った魔術回路が破壊されたんだ。この身体に受けた傷は、もう二度と治ることはないだろうよ」
「そんな……。人間だって傷は治るのに……!」
少年は、信じられないと言わんばかりに声を震わせていた。
「それが魔女という生き物なのさ。はは、全身穴ボコだな」
茶化すように言って空気を和ませようとした魔女だったが、それは失策に終わる。
少年は、静かに涙を流していたのだ。
「僕以外に殺されそうになってんじゃねえよ……」
「安心しろ、ライ。私はまだ生きている。だからお前の手で、美しく殺してくれ。な?」
そう言って、魔女は少年の頭を優しく撫でた。
それさえやっとの思いで手を動かさなければならず、魔女は人知れず苦虫を噛み潰した。
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