5.5
最近の父さんは前より寝床に入るのが遅い。
遅くまで机で書類を作っていたり、収蔵庫に行っていたり。発掘現場は今の年代を掘り尽くして一区切りついたそうだが、そこからの方が忙しいようだ。
今晩もなかなかテントには戻ってこなかったので、探しに出ると、護衛隊のランドシップで発見した。
父さんはアーロンさんより年上の隊員ウェルスがやっている骸機の整備を手伝っていた。
アーロン隊の骸機が左右に三機ずつ並んでいる。二機は巡回に出ているので、全部で八機あることになる。
大きさには多少ばらつきはあるが、全体的に首の短い四肢のがっちりしたフォルムで、みんな翡翠竜の鱗や爪を使った装甲でまとめられている。足元には戦斧、剣、ランチャー等それぞれが好む得物が置かれていた。
「やっぱりフェロレプスはすごいね」
褒めたつもりだったんだけど、自分のアクセサリを磨いていたアルフにじろりと睨まれた。
アーロンさんは自分の骸機をなぜか「俺のかわいいウサギちゃん」と呼ぶので、アーロン隊の骸機はよそから「アーロン隊のウサギ」と揶揄される。それでは恰好がつかないと焦ったウェルスが「
「やっぱウサギはよくないよ。もっと派手な青ほしいからさ、今度東の青竜倒そうぜ」
「『ウサギよくない』『青竜倒したい』って、アーロンさんにそう言えたら、お前のセンスを認めてやる」
と、隣で横になっていた隊員バルジ。
「……こっそりウロコ拾ってこようかな」
「生きて帰れたらおごってやる」
父さんが手を止めてこっちを向いた。
「どうした。体が痛むか」
「うん。ちょっといい?」
飲み物を持って、二人でランドシップの外に出た。
「見つけたんだ、目を傷めたやつを。収蔵庫にあった。もう引き上げられていたんだね」
「それは困った。復元率75%を超える骸機は領主にやらなければならない契約だ」
「あそこにあるのは全部そういうやつ?」
「細かい部品を集めたらそうなりそうなフレームばかりだ。どうするかな」
父さんは冷静に考え込んだ。それが違和感だった。
「父さんは最初から知っていたのか。そんな骸機が埋まっているっていうこと」
「いいや。でも何かあるかもしれないと……あってくれたら、恩人にまた会えるかなと」
「眼に関係してることなんだ」
「そういうことだ」
幼いころ、僕たち家族が住んでいた町が狂暴なドラゴンに襲われた。母は死んで、僕は重傷を負った。そして、土地の領主様から眼をもらった──ということになっているのだが、本当に眼をくれたのは、うちに居候していた
そんな人がいたことをうっすらと憶えている。父さんもちょっと変わった普通の人間だと思っていたのだが、僕たちを助けた時にばれてしまった。僕に自分の眼を移植して、認識票を書き換えるコードをもった人。ぼくのミドルネームは、その人が認識票に細工をした時に自分の名前をくっつけたのだ。それから、うちにあった骸機に乗って出て、ドラゴンに潰された──僕が知っている話はここまで。
「骸機に乗る前に話をしたんだ。前々から『兄弟を探している』と言っていたんだが、どの辺にいるんだと聞いたら『たぶんこの辺。あまり未練はないから、よかったらそっちが使ってくれ。リオンに謝っといて』と」
大きな町に逃げてしばらく経って、アーロンさん達がドラゴンを追い払ったあと、お墓参りにいったことがある。母さんたちのお墓と一緒にその人のお墓もあった。残っていた体を埋めたんだって。
「『死ぬな』と言ったら『機能が停止するだけだから』と言って出ていった。機械人なんだから兄弟とやらが見つかったら生き返るんじゃないかってな。まあ、あくまで〈願望〉なんだが……」
父さんは空を見上げた。お墓参りをした時と同じ表情が、少し疲れている。
骸機にドラゴンの翼はつけられないのだろうか。
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