いつものように収蔵庫でフレームの欠片に注記しながら、同じ仕事をしている作業員にたずねた。

「こんな欠片やあの大きな骸機をもらって、領主様はどうするんだろうな」

「城の近衛兵が使うか、売るんでしょう。ウォンバル公は金にがめついっていうし」

 夫と勤めているという婦人は手を機械的に動かしながら、口も自動生成したように返してきた。

 僕も「機械人はお金にシビア」と聞いたことがある。城の倉庫に入れば本当のお蔵入り。市場に出ればまだ手に入れるチャンスはあるけれど運の要素も絡んでくる。あの機体を確実に手に入れるのならここでなんとかしなければならない。父さんの話から考えれば、復元率75%以下だったら無条件で接収されることはないわけだから、部品を隠してしまえば話し合いの余地が生まれることになるはず。

 現場から運ばれてきたばかりのコンテナは山積みになっていて、どれが何の部品なのかは中を開けて目録と合わせないと、素人目では判別がつかない。

 すでにラベルを付けて仕分けされたものは、半透明のフォルダに入れられ棚に収納されている。レンの兄弟機(仮にそう呼ぶことにした)の遺物の可能性がある小さいものも、その棚の一角にまとめられている。もし隠すならここにある物だが、棚の前はいつもキアンがうろうろしている。

 キアンがコンテナを開けた作業員に呼ばれた。棚の前を離れる。でもすぐに大きな遺物を持って戻ってきた。

「手伝おうか、キアンさん」

 ダメもとで声をかけてみる。もちろん「いらん」の一言。一人で棚に収め、見回っている。

「僕も復元師になりたいんだ。遺物を見て勉強させてくれないか」

「フン。学校で習え」

「体がよくなって退屈してきたのね」作業に疲れた人が話に加わってきた。「運搬係に戻るかい?」

「いやあ、骸機見れるからここもいいなって」

「お茶でも入れようか。キアンさんもどう?」

「ここに持ってきてくれ」

 お茶好きなくせに仕事熱心で困る。

 立ったまま小さいマグカップでずずーっとすする大男を横目で観察しながらどうしたものかと考えていると、壁のスピーカーから大音量のサイレンが鳴った。

『全員ヘルメット着用。避難用意して待機!』

 ドアに駆け寄ると、護衛隊の船のほうから待機していた骸機が二機出てくるところだった。赤い羽根飾りに戦斧と小盾──一機はアーロン機。もう一機は多分、現調査から入隊したライリーだ。肩の赤い縦線に剣と小盾が新しい。

「何があったんだ」キアンが無線で問い合わせた。

『でかめのドラゴンが二頭来ている』ウェルスさんが応じた。『ベナトスがいない間に縄張りを乗っ取りにきたかな。ズシズシ近づいてくるんだ』

「追い払えるんだろうな」

『もちろん。しかし若いのは無鉄砲だからな。ドラゴンも人間も』

「フン。言い聞かせてやれ」

『やれやれ』

 後ろの収蔵庫は大慌ててお茶の道具ややりかけの仕事を片付けて、コンテナの固定を始めた。キアンは相変わらず無線のレシーバーを持ったまま棚の前。混乱に乗じてっていうのも無理そう。無線からはアーロンさんの声も聞こえてきた。

『グェンジョン、現場は何人いる』

『監督含めて16人ですかね』

『トトと一緒にそこで待機。ウェルス、船を前に出せ。何発撃てる』

『二発。外の連中が避難したら動きます』

 外にいた作業員が次々に船に駆け込んでくる。人の流れに押し込まれないようにドアにしがみついて外を見続けた。他の場所にいた骸機がまた二機、全速力で通り過ぎる。肩は白い花と青の二本線──ルカとカートだ。

『キアン、念のためいつでも動けるようにしておいてくれ』

「分かっている」

 骸機が向かった先ははるか向こうの地平線で、ここからはまだ何も見えない。ただ、遠雷のような震撼と逃げる動物たちの影が空と大地に散っていく。

 突如後ろから首根っこを掴まれた。

 キアンにそのまま持ち上げられ、つまみ出される猫みたいに連れていかれる。折れ曲がった階段を上り船橋へ。キアンはカーゴシップの狭いコクピットに入ると、僕を運転席の隣席に放り投げ、自分は運転席にドカッと腰を下ろした。

「そんなに見たけりゃ特等席にいろ」

 キアン……いい奴かもしれない。こんな奴から部品隠せるだろうか。



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