4
二、三日ゆっくりして体の痛みは少しずつ引いていったけれど、ドクトル・エマの骸機解禁のサインはなかなか出なかった。
そこで転職。運搬係から倉庫番に移ることにした。
あまり動かなくてもできることはないかと父さんに相談したら、
「仕事に慣れてきた人たちを勝手に移動させることはできないからな。発掘したものに付けるラベルを書くのはどうだ」
つまり、デスクワーク。
最初の楽しみとは真逆の仕事になったけれど、それでもいい。護衛隊の骸機が交代で発進し、周りも忙しく働く中、一人テントで木漏れ日を眺めていると心がざわついてくるから。
一番大きなカーゴシップに作られた収蔵庫は、発掘したものの保管場所だ。
ここを管理しているキアンは、ウォンバル公の城から派遣された男でハーフ機械人だ。2メートル近い体の3分の2が機械となっている。顔は生身だけど表情はほとんど変わらず、僕ら(収蔵庫で働く人間は僕のほかにもいる)に指示を出す声にも抑揚がなかった。
金属とコードで作られた手足で大きな化石やまだ土のついた骸機の塊を一人で持ち上げ、棚に収めることができた。収めるとそれをじっと見ている。
「何してんの」と、子供っぽく尋ねてみた。すると「記録している」と棒読みの返事。「ここにあるのは全て領主様のものだ。盗んでもわかるからな小僧」
運搬係に運ばれた出土物はこの収蔵庫の集められるわけだが、こちらでする主な作業は「現場で付けられた番号と目録を照合して、ちゃんと到着したかどうか確認する」ことと「ラベルを付けて保管する」ことだ。
ドラゴンの頭骨なんていう大きなものはすでに番号と詳細な記録のラベルがつけられているので、そのまま保管箱に入れてキアンが持って行くのだが、小さいものはこちらでラベルを付けて「〇番はどの骸機の部品」とか書いた表を作ることになる。細かく砕かれたフレームなんかはモノに直接番号を書き込む。後で復元師がくっつけてしまうので、ラベルがゴミの山になるからだ。
ラベル書きなんていう細かい作業で退屈するかと思いきや、化石や骸機の部品をゆっくり観察できるのでけっこうやりがいがあった。
特に骸機は、フレームのそろっているものは収蔵庫の奥で保管箱から出され、一体分ずつ、体の位置に合わせてまとめられていた。父さんが収蔵庫にこもりっきりでやっていたのはこれだ。1、2体がうちにあるのはしょっちゅうだったけれど、5体の巨大な骸骨標本が両壁にずらりと並んでいると、さすがに畏怖する。
人型というけれど人間の骨格と違うところはたくさんある。
頭蓋骨にあたるフレームは人間ほど頭は大きくないし、ものを食べないので下顎はない。目も一つだったりもっとたくさんあったり。角のあるものもいる。手足はだいたい二本ずつだが種類や個性でそうでないものも。爪も三本やら四本やら。生き物なら内臓が入っている所にコクピットボックスが入る。
そして、大きな特徴であるフレームに並ぶ瘤。ここからフレーム内で作られたエネルギーを吹き出すので、これを使って飛び上がったり滑るように移動したりすることも可能だ。骸機になる前の本物だった頃は、ここのエネルギーを巨大な砲身から撃ってドラゴンの炎に対抗したというけれど、骸機でそんな高出力を出せるものはいない。やりたいと父さんは言っているけれど、ほぼ100%そろった骸機でも撃てないわ動かなくなるわで散々だったってさ。残らない部分に秘密があるのかもしれない。
僕が骸機を眺めていると、キアンが歩いてきた。
「何をしている小僧」
「休憩時間なんで、見学してました」
「出ていけ。持ち場に戻れ」
そして一つ一つの骸機の前に立って頭を動かす。たぶん無くなった物はないか確認しているのだ。
「キアン、変わったところはあったかい」
「ない」
「ここの骸機はどれも同じ?」
「知らん。向こうへ行け」
機械の大きな手を持ち上げたので、僕はいそいそとその場を離れた。
キアンは一見すると裸眼だが、たまにはじける虹彩の輝きから両目の奥に機械眼に近い機能があると思う。でも、奴のポーカーフェイスでは気づいているのか分からない。僕がここで見た波動に。
まるでつなぐ手をのばしたかのように揺れて、消えた。定期的に出る信号なのだろうか。あれを摑まえるにはどうしたらいいのだろう。
左から二番目の骸機。あれは、僕の機体だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます