第3話 6月15日-家族の絆

門司港の夜は、関門海峡に映る灯りが星空のようにきらめく、静かな時間が流れていた。夜の23時、FM門司港の小さなスタジオに、佐藤美咲の優しい声が響く時がやってくる。「ハートステーション」の放送が始まると、街の片隅でラジオを聴く人々の心が美咲の声に包まれる。


その夜、美咲は机の上に並べられたリスナーからの手紙を一つ一つ確認していた。ショートカットの自然なウェーブがかかった髪、茶色の大きな瞳がリスナーの言葉に優しく光っている。美咲は深呼吸をして、マイクの前に座り直した。


「皆さん、こんばんは。こちらはFM門司港の『ハートステーション』、パーソナリティの佐藤美咲です。」美咲の声は穏やかで、心地よくスタジオに響いた。「今日は6月15日土曜日、明日は父の日ですね。父の日を迎えるにあたって、特別な思い出を持つリスナーからのメッセージを紹介したいと思います。」


美咲は、一通の手紙を手に取った。その手紙は、離れて暮らす家族への感謝の思いを綴ったリスナー、鈴木彩香さんからのものだった。彼女は、父の日を迎えるにあたり、遠く離れて暮らす父親への感謝の気持ちを込めたエピソードを綴っていた。


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「美咲さん、


はじめまして。私は東京に住む鈴木彩香と申します。今日は、離れて暮らす父への感謝の気持ちを伝えたくて、手紙を書きました。


私が大学生の頃、父は毎日仕事で忙しくしていました。ですが、私が一人暮らしを始めた時、父は何度も電話をかけてきて、私の体調や生活の様子を気遣ってくれました。そのたびに、私は心強く感じました。


父はあまり口数が多くない人ですが、その一言一言にはいつも愛情が込められていました。特に、困ったときにはいつも「大丈夫だよ、頑張れ」と励ましてくれました。その言葉に何度も救われました。


父の日が近づくと、いつも父のことを思い出し、感謝の気持ちでいっぱいになります。今年も、遠く離れていても心は繋がっていると感じています。福山雅治の『家族になろうよ』は、私たち家族にとって特別な曲です。父への感謝の気持ちを込めて、この曲をリクエストします。


鈴木彩香」


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美咲は、彩香さんの手紙を読みながら、彼女の父親への感謝と愛情に心を寄せた。彼女の目には、父親が忙しい日々の中で、娘を思いやる姿が浮かんでいた。父親の日常の中に込められた愛情と絆は、美咲の心にも深く響いた。


「皆さん、今日は鈴木彩香さんのリクエストをお届けします。彩香さんは、離れて暮らすお父さんへの感謝の気持ちを込めて、この手紙を書かれました。彼女の家族への思い出と共に、福山雅治の『家族になろうよ』をお聴きください。」


美咲は再生ボタンを押し、スタジオ内に「家族になろうよ」のメロディが流れ始めた。その曲が流れる中、美咲は彩香さんの手紙をじっくりと読み返していた。彼女の言葉一つ一つに、父親への感謝と愛情が込められていた。


曲が終わり、美咲はリスナーからのメッセージを紹介した。「今、リスナーの方から彩香さんへの温かいメッセージが届いています。その中から一つご紹介します。」


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「彩香さん、


あなたのお話を聴いて、とても感動しました。離れていても、家族の絆は決して切れないものですね。私も父との思い出を思い出し、涙が出ました。あなたのお話をシェアしてくださって、ありがとうございました。


リスナーの高橋和子」


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美咲はリスナーの優しい言葉を読み上げながら、心が温かくなった。リスナーたちの思いやりのあるメッセージは、彩香さんに届き、彼女の心をさらに温かく包んでいた。


翌日、彩香さんはラジオを聴きながら、父との思い出を振り返り、再び感謝の気持ちでいっぱいになった。リスナーたちの応援メッセージは、彼女にとって大きな励みとなり、家族の絆を再確認するきっかけとなった。


数日後、彩香さんから美咲に感謝の手紙が届いた。「美咲さんのおかげで、父への感謝の気持ちを再び思い出すことができました。皆さんの温かいメッセージにも本当に感謝しています。」美咲はその手紙を読んで微笑み、ラジオパーソナリティとしての仕事の意義を改めて感じた。


夜の放送で、美咲はリスナーに向けて語りかけた。「皆さん、いつも番組を聴いてくださってありがとうございます。私たちの声が、誰かの心に届き、少しでも元気を与えられることを願っています。」


そして美咲は、もう一つの特別なリクエストを紹介した。「さて、今日はもう一つ、特別なリクエストをお届けします。こちらは、門司港に住むリスナーの秦さんからのリクエストです。秦さんは、毎晩この番組を聴きながら眠りにつくそうです。彼がリクエストしてくれた曲を、皆さんと一緒に聴いて、今日の放送を締めくくりたいと思います。」


美咲は曲を紹介し、秦さんがリクエストした「小田和正」の「ラブ・ストーリーは突然に」が流れた。曲が流れる中、美咲はスタジオの灯りを少し落とし、静かにリスナーに語りかけた。「それでは皆さん、今日も素敵な夜をお過ごしください。また明日、お会いしましょう。おやすみなさい。」


その夜も、門司港の街には美咲の優しい声が響き渡り、人々の心を温かく包み込んでいった。


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その後も美咲の放送は続き、多くのリスナーが彼女の声に癒され、元気をもらっていた。美咲にとって、リスナーの声に耳を傾け、その思いに寄り添うことが何よりも大切な仕事だった。彼女の声は、まるで優しい灯火のように、リスナーたちの心を照らし続けた。


毎晩23時、門司港の静かな夜に、美咲の声が響く。その声は、関門海峡の灯りとともに、リスナーたちの心に温かく届いていった。美咲の放送は、ただのラジオ番組ではなかった。それは、人々の心に寄り添い、希望と癒しを届ける小さな灯火のような存在だった。


彩香さんもまた、美咲の放送を聴き続け、父への感謝の気持ちを胸に抱きながら、日々を過ごしていた。彼女の心には、美咲の優しい声とリスナーたちの温かい言葉が、いつまでも残り続けていた。

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