第38話 大治郎の死去とサンのインタビュー

38-1.大治郎の家


平和33年

年が明けると、酒を飲んで赤い顔をした大治郎が、サンの家にやってきた。

いつもとは変わって固い表情をしていた。

大治郎は、ソファーに座ると、大きな手提げの紙袋を横に置いた。姿勢を正し、息を深く吸い込んでから、サンに言った。

「サンよ、昔の約束を覚えているか」

「爺さん、何だったけ」

「あれだよ、あれ。10年位前に、お前たちが一兆円稼いだら、でっかい家を建ててくれるといった約束だよ。約束」

「そんな約束したっけ」

サンは、とぼけていた。

「したよ、したに決まってる」

「証文わ?」

「証文? 証文てか、男と男の約束にそんなもんあるわけないじゃろうが。覚えてないのか、ゲンが証人じゃが」

「忘れた」

「なんやて、なんて情けない奴じゃ。男と男の約束を忘れるなんて」

大治郎は、涙を流して悔しがった。

「ちょっと、ゲンに聞いてみる。バード、ゲンを呼べ」

空間にゲンの顔が浮き上がった。

「おう、サンか、正月の朝から何の用か」

「ゲン、爺さんに家を建ててやる約束を覚えているか」

サンが、ウインクした。

ゲンは、大治郎がそばにいることを確認した。

「ゲンよー、ゲンよ。お前たちは、昔、お前たちが一兆円稼いだら、ワシにでっかい家を建ててくれると言っただろう」

「大治郎爺さん、そんな約束したかな」

ゲンもとぼけた。

「お前ら、揃いも揃って、ワシとの約束を忘れたんか。本当に、無慈悲な奴らじゃのう」

また、大治郎は、涙を流して悔しんだ。

少し間をおいて、サンが話だした。

「爺さん、忘れてなんかいないよ。約束は守る。でっかい家を建てろ」

「そうかそうか、忘れてなかったか。有難う、直ぐにでも家を建てたい。おい、ゲン! お前も忘れていたのか」

大治郎は、うれしい顔で、怒って言った。

「ごめん、ごめん。爺さんがあんまり真面目そうなので、サンに合わせたんじゃが」

「そうか、そうか。二人ともいいやつじゃな。ところで」

大治郎は、急に手提げの中から、大きな巻いた紙を取り出しテーブルの上に広げた。

「これが、設計書じゃ、極楽建設の設計部にデザインを頼んでおいた。いつでも作れる」

一番上の表紙には、大きな屋根とけばけばしい装飾に溢れた巨大な家がそこにあった。

「なんじゃこれは」

サンが驚いた顔をした。

「爺さん、うちの会社で設計させたのか、聞いてないよ。爺さんは、本当に抜け目ないな」

ゲンもビックリして言った。

「とにかく、これではちょっと問題があるな。ゲン、なんとか手を入れてくれ」

「ああ、そうするよ、この町にこんなけばけばしい家は、合わんだろう」

「あのな、この家は、平家の落ち武者の血を受け継ぐ儂が、先祖を顕彰する為に作るんじゃ。少しなら直してもいいよ」

大治郎は、少しだけ譲歩した。大治郎は、嬉しそうだった。

そういうことで、デザインを大幅に修正して、大治郎の巨大な家が直ぐに建てられ始めた。

大治郎は、なぜか急いでいた。

秋までに建て終るように要求した。

極楽建設にとって、突貫工事はお手の物だった。労働者も天国市にたくさんいる。

建設は、順調に進んだ。

大治郎は、自分の家が出来上がるのを毎日のように見に来ていた。

秋が近づくと、荘厳で、落ち着いた巨大な邸宅が出来上がった。

背景の山の木々に古くから存在していたような感じがした。

10月の大治郎の引越しの日、サンは、幸と一緒に、大治郎を新しい家に連れて行った。

「爺さんの荷物は、すべて家に運び込んである。前の家のお手伝いさんも先に来ているよ」

とサンは大治郎に言った。

「ついに儂の家に住める。儂の考えていた通りの家が出来上がった」

大治郎は、すっかり最初の家のイメージを忘れていた。

幸が大治郎に向かって言った。

「お爺ちゃん、サンとゲンさんにしっかり感謝するちゃよ。二人がこんなに立派な家を作ってくれたのよ」

「わかっちょる。サンは何という立派な婿さんじゃ。ゲンも男の中の男じゃの。儂は二人に感謝しておる」

大治郎は、本当にうれしそうな表情をした。




38-2.九州極楽会の政治進出


2月になると、九州極楽会の会員が次々に県市町村の選挙に立候補し、当選するのがマスコミに報じられるようになった。

彼らは20代の青年から40代の壮年まで広範囲に、地方政治の改革と経済の興隆を訴えていた。

立候補者のほとんどが低賃金の年代であった。

その主張に、同年代から年金世代の高齢者までが広く支持した。

吉永吉正も天国町の選挙に立候補した。



38-3.大治郎の死


それから秋も押し迫ったある日、真夜中に大きな音が家の中に鳴り響いた。お手伝いさんが起きだしてみると、応接室の床に大治郎が倒れていた。

床には、ウイスキーの瓶とグラスが転がり、破損し、ウイスキーが流れ出していた。

大治郎は、夜中に起きだし、酒を飲んでいたらしい。

直ぐに救急車で運ばれたが、既に亡くなっていた。心臓マヒだった。

サン達は、内輪だけの小さな葬式を、大治郎の家で行った。

大治郎の家には、葬儀を行うのに十分な間取りの部屋があった。

極楽市長の富一郎が喪主だった。

サンも幸もゲンも啓も参列した。

ひ孫の美智、静雄、行雄も参加していた。

和室の床の間そばに棺桶があり、大治郎がそこに眠っていた。

富一郎が、涙を流しながら、白い菊の花を大治郎の上に置いた。

「お爺さん。いままで育ててくれてありがとう。感謝しています」

続いて富一郎の妻の理紗が、白い菊の花を大治郎の上に置いた。


次に、幸が涙を流しながら、、白い菊の花を大治郎の上に置いた。

「お爺ちゃん、いままで有難う。みんな幸せだから安心してくださいね」

続いてサンは、一輪の白い菊の花を大治郎の上に置いた。

「爺さん、さよなら、世話になったな。あんたがいなかったら、今の俺たちはいなかったよ」

サンの涙が、大治郎の顔に落ちた。

次に、11歳になった長女の美智(みち)が、サンに深々と一礼した後、白い菊の花を大治郎の上に置いた。極楽学園の制服を着ていた。

次に、9歳になった長男の静雄(しずお)が、サンに深々と一礼した後、白い菊の花を大治郎の上に置いた。極楽学園の制服を着ていた。

次に、もうすぐ8歳になる次男の行雄(ゆくお)が、サンに深々と一礼した後、白い菊の花を大治郎の上に置いた。極楽学園の制服を着ていた。

続いて啓が、白い菊の花を大治郎の上に置いた。

「大治郎さん、いつも楽しいお酒を一緒に飲み、感謝しています。極楽から我々を見守ってください。さようなら」


最期にゲンが、つかつかと大治郎の棺の前に、歩み寄った。

顔は、くしゃくしゃだった。

白い菊の花を大治郎の上に置いた。

「爺さん、爺さん、今までありがとうよ。爺さんと一緒に飲んだ酒はうまかったな。極楽に行っても酒ばっかり飲むんじゃないぞ」


こうして、大治郎は、極楽に旅立って行った。


この年、極楽学園から200名の卒園生が旅立った。

ロボット開発に10名、金融部門に5名、ソフト部門に60名、人工衛星型リニアエッグに5名、そして戦略部門に100名、その他は、極楽グループの各会社に派遣された



38-4.大森亨がエリアG1に来た


10月下旬、モンゴルのエリアG1の飛行場に、宮崎空港から飛び立った極楽グループの自家用ジェット機が着陸した。

大型ジェットであるにも関わらず、乗客は数名だった。

エリアG1の空港ビルはそれほど大きくはなかった。社内用だから当然であった。

最初に空港ビルの到着フロアーに出てきたのが、大森 亨であった。

極楽学園の第四期生で、23歳だった。極楽農園に所属していた。エリアG1の建築責任者でもあった。

フロアーには、中村が緊張した顔で待っていた。

「大森さん、お待ちしていました」

「中村君、だいぶ計画が遅れているようだね」

「それなんですが。なにしろスタッフが足りません。極楽建設にもっと技術者と労働者を派遣するよう要請してください」

二人は、速足でリニアエレベータの所に向かった。

「とにかく、電子虫の自動生産工場と電子虫の貯蔵ビルの建設を早急に元のスケジュールに戻そう」

「わかりました。他の者も企画室で待っています」

リニアエレベータのドアが開いた。

二人が乗り込むと、中村が行った。

「戦略企画室へ行け」

ドアが閉まり、エレベータは地下に降りていき、やがて水平に動き始めた。

ドアが開くと地下のフロアーについた。

二人は、正面の部屋に向かった。

部屋が彼らを認識し、ドアが開いた。

部屋は、それほど大きくはなかったが、正面に大きなスクリーンがありその前にテーブルがあった。5名の担当者が待っていた。

「皆さん、ご苦労さん。今日は計画の立て直しに来ました」

そう言って大森が、イスに座った。

「大森さん、コーヒーは砂糖抜きでしたよね」

中村がコーヒーカップを持ってきて大森の前に置いた。

「おー、有難う。中村君はいつも気が利くな」

大森は嬉しそうに言った。彼はコーヒーが飲みたかったのだ。

「皆さん、とにかく、電子虫の自動生産工場の立ち上げが最優先です。

出来たそばから、電子虫貯蔵ビルに格納しておいてください。

1棟で、50億匹づつため込むみます。」

「大森さん、先ほども言ったように、絶対的に技術者と労働者が足りません。

電子虫の自動生産工場以外にも、ロボット自動工場も、自動農場工場、電気式プロペラ飛行機工場も、全て遅れています」

中村が必死さを表に出して発言した。

「わかった。わかった。中村君をはじめ、皆の苦労は十分に分かった。俺が何とかする。具体的に計画の再検討を行おう」

「それでは今から、工程表を表示します」

「さあー、やるか」

この日、夜遅くまで会議が続いた。


翌朝、大森は自分の事務室の机にうつ伏せに寝ていた。

会議の後、自分の部屋のイスに座ったまま、寝入ってしまったのだ。

部屋の照明が朝用の明るさに変化していた。

大森は、がばっと起きた。

机の上の小さなディジタル時計を見た。

「7時か。食事に行こう」

大森は、立ち上がるとドアの方向に歩いていった。

机の上には、いくつかの大きさの異なる正方形の金属板が散らばっていた。

いずれもX印が印刷してあり、中央部が貫通していた。



エリアG1の地上では、20階程の格納庫建設用の四角い金属のカバーが数十mおきに何十個も並立していた。

その内部では、垂直シールドマシンが、千数百mの深さに掘り込んでいた。

計画では、同じようなものが、1直線に200棟も建設される予定だった。

何しろエリアG1は、四国程の大きさがある。

エリアG1には荒廃した大地がいくらでもあった。




38-5.サンへのインタビュー


この年春から夏にかけて、マスコミから、極楽グループとサンは、大規模な誹謗中傷がされていた。

サンはゲンと啓に相談した結果、マスコミの取材に応じることにした。

『テレビ大日本』のワールド・ビジネス・ステーションにビデオで出演することにした。

収録は今は空き家の大治郎の家で行うこととし、秘書室が質問の内容について、『テレビ大日本』と何度も交渉した。

11月下旬、録画撮りに、ワールド・ビジネス・ステーションのキャスターの大谷夏子が、大治郎の家に訪れた。

総檜の部屋は、庭に面した部分を開け放し、広い庭園が見えるようにした。

遠くの山々も借景として、深い山奥の雰囲気を醸し出していた。

サンと大谷夏子は、庭に平行に置いてある落ち着いた皮のソファーに座っていた。

対面するソファーとソファーの間の小さ目のテーブルを置きその中央にマイクが置いてあった。

収録が始まった。

「はじめまして、大谷夏子です。本日は極楽グループの神武会長のご自宅に伺いました。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

サンが頭を下げた。

「本日は当番組に出演していただき有難うございます」

「ワールド・ビジネス・ステーションは時々見させていただいています」

「それは本当ですか、有難うございます」

大谷はにこやかな笑顔を見せた。

「こちらは、奥さまのおじい様の御家だったとお聞きしていますが。ずいぶん落ち着いた大きな建物ですね」

「そうですね。いくつかの古い家の木材を再利用していますので、新築の割には、落ち着いています。

妻の祖父は、この家が出来て一月程で亡くなりました」

「まあ、それは大変残念でしたね。ところで、マスコミの取材を受けるのは初めてとお聞きしていますが」

「そうですね。今回が初めてです。研究者ですので、今までこういった機会がありませんでした」

「では、さっそく本題に入らさせていただきます。神武会長は、お年が32歳で、極楽グループを売上百兆円近くの巨大な企業集団に発展させておいでですが、その成功の秘密はどこにありますか」

「やはり、エネルギーの問題を解決したという点にあると思います。高エネルギー超量子擬集体の発見、生成により、今後5百年ほどの全人類のエネルギー需要をカバーすることができます」

「超量子擬集体は、一説によれば、ブラックホールではないかとの見方もありますが」

この質問は、わざわざ極楽側が入れさせた。

「それにつきましては、コメントを避けますが、いずれにしても極めて小さな物体ですので、地球が吸い込まれるといった無用な心配は必要ありません」

「その他の点はありませんか」

「発電した電力を、人工衛星を使い、いわゆる無線であらゆる場所に送信できるようにしたことでしょうか。これにより、巨大な発電所や送電線、大規模な変電設備などを新たに作る必要はなくなりました。

自動車や飛行機、船舶等の移動体への電力供給も可能になりました。

また自動車や飛行機では最低限の蓄電池を搭載すれば良いので大幅な軽量化が実現できました。

軽量化の結果、燃費の大幅な向上が実現できました。

自動車や飛行機が移動中に自動的に充電可能ですので、充電の為に停車して時間をロスする事もありません。

家庭への電力供給、もちろん携帯電話やPCタブレットへの充電も可能です。

また、安価な電力の供給で発電所や送電設備をもはや新たに作る必要はなくなりました。これらの設備投資の軽減は極めて膨大なものがあります。化石燃料の消費も減り、地球温暖化防止についても大きな効果をもたらしています。

また、無線による給電では通信も可能ですから、通信機能の無い山岳などや大災害の時でも通信が可能です」

「そうですね。そうした効果については、日本国民や世界の人は良く理解されておられると思います。しかしその一方で、電力業界、石油業界、特に産油国からひどく恨まれているのではないですか」

「そうした面がないとはいえません。過去にも籠から人力車、人力車から自動車に移行したような大きなパラダイムシフトが起きる時には、従来の産業が縮小していくというようなことは避けえない事だったと思います。私どもも、パラダイムシフトに対し、できるだけ問題が発生しないように努め、また政府にもご支援をお願いしているところです」

「この問題については、特に産油国からのバッシングが湧きあがっているところですが、また別の面からのバッシングもあります。最近よくマスコミで取り上げられている話題です」

「それはどういったことでしょうか」

サンは、これについても既に良く理解していた。

「それは、失礼ですが、極楽企画の首脳の方、神武 燦(あきら)さん、源 大さん、神武 啓さんについても、マスコミから強くバッシングされています。お三方は、いわゆる養護施設のご出身でしょうか」

「それは事実です」

「ここに、マスコミで取り上げられている3D写真がありますが、これは事実でしょうか」

サンは、3D写真を手にとって見た。

サンとゲン達が肩を組んでいるいかにも不良風な5人の写真だった。

「これは、小菊学園時代の写真ですが。大きな改変が加えられています。私には、悪意のある加工と感じられます」

「失礼ですが、神武会長は中学校などにはほとんど行ってらっしゃらなかったと伺っています。非行の原因は何でしょうか」

「中学校に行っていなかったのは事実です。小学校から中学の頃は、目標もなく町を歩き回っていました。何しろ、家は食事にも事欠く極貧でしたので、まともに教育を受ける環境にありませんでした」

「その後、物理学に目覚められたと聞いていますが、どうしてでしょうか」

「詳しくは言えませんが、ある援助があり、インターネットカフェで、物理学と数学を学びました」

『青木 光和か、彼はなぜ、自分を援助したのだろうか。彼は今どこにいるのだろうか?』

サンは、青木 光和の名前を思い出していた。

「独学で勉強されたのですか。素晴らしいですね。それで、超量子擬集体を発見されたということですね」

「そうです。12歳から研究し、最終的に8年後の20歳の時に発見しました」

「それは大変でしたね。また別の人が発見することは可能でしょうか」

「私の計算では、1兆年に1度起きる現象ですので、1兆年かければ可能でしょう」

サンは少し笑って答えた。

「まあ、そんなに時間がかかるのですか」

大谷夏子は、想像がつかないという顔で聞いた。

『1兆年に1度のことが、2年間で2回起きた』、あり得ない現象が自分の周りに起きたことを、サンは改めて自覚した。

1兆年に1度しか起きないのであれば、事実上チャンスは二度とないことになる。

淡い期待でこの映像を見た者には、大きな失望を与えただろう。

「話は変わりますが。マスコミの一部報道によりますと、極楽学園の学園生は、貴方たちに洗脳され、ロボットのように働かされると言われています。逆に、極楽学園の卒園生に対して、1年目から2,000万円以上の年間給与を支払い。極めて優遇されているとも聞きますが、これは正常なことですか」

「極楽学園の学園生は、どこの学校より自由に教育されています。決して拘束されておりません。極めて優秀な教師の方の教育、身の回りを見ていただくサポートの人々、世界でも最高水準の教育AIソフトによる自己学習により、学園生の知的成長は極めて著しいものがあります。

義務教育の教育課程は早期に達成しています。

ほとんどの者が、中学卒業時には大学の課程の学習を終了しています。

そういう意味では、極楽学園は、『乳幼小中高大』一貫教育です。

中学を卒業する時に、通常の高等学校に進学するか、大学に飛び級するか、極楽学園の特別教育機関の極楽塾へ進むか希望を出させ、その希望を受け入れます。

今のところ、ほとんどが極楽塾へ進んでいます。

中学卒業の頃には、ほとんどの者が、大学の課程の学習が完了していますので、極楽塾では、専門教育と実務の勉強を行います。極楽塾の場合、生徒1名に対し、年間1億円以上の教育投資を行っています。

それゆえ、極楽塾を終了したものが、極楽グループに入社した場合は、初年度から専門的な知識により優秀な仕事ができますので、2,000万円以上の年間給与を支払っても全く問題がありません。私は、少なすぎるとさえ思っております」

「極楽学園では、多大な教育投資を行っているようですが、その資金はどうしているのでしょうか」

「極楽学園には極楽財団があり、極楽財団が極楽グループのいくつかの会社に対し投資を行っています。その配当を受け取って学園を運営しています。

さらに、極楽学園の卒園生には、自主的に自分の年収の10%を極楽財団に寄付していただいております。後輩の生活や教育の費用の一部にするためです」

「極楽グループは、わずか1,000名余りの極楽学園生が牛耳っているとの話がありますが、本当でしょうか」

「極楽グループは、全世界に約30万名の従業員がおります。関連会社を入れるとこの3倍以上になるでしょう。とてもわずかな極楽学園出身者のみで運営することは不可能です。

極楽グループは、日本中および世界中から、優秀な科学者、研究者、技術者、労働者、経営者を入社させています。

優秀な科学者、研究者、技術者、経営者には、4000万以上の基本給を支給しています。

ノーベル賞受賞者も10名程、参加してもらっています。彼らの活躍なしには、1日も極楽グループが運営できないことをご理解ください」

「最後に、一言お願い致します」

「先ほども述べましたように、極楽グループは、多数の人々を雇用しております。日本の経済や雇用が改善し、財政改善の要因の一部を担っていると自負しています。

極楽グループは、電気や自動車、船舶、航空機、農産物、水産物、通信、金属、小売店等、深く国民生活に根着いて活動しています。

さらに生産性を、現在の10倍、100倍にすべく技術開発に努力しております。

私どもは、今後ますます国民の皆様のお役に立てるよう頑張ってまいります」

ここで大谷夏子がインタビューの終了を告げた。

「神武会長、本日は誠に有難うございました」



38-6.「大衆党」の政治パーティー


12月中旬、ゲンは東京にいた。

野党の「大衆党」の立川衆議院議員の政治パーティーに出席していた。

「大衆党」は、国民の不満をうまく吸収し、急激に勢力を増大させていいた。

いまや政権与党の民自党も、無視できない存在になっていた。

酒好きのゲンも、最近では政治パーティーに少し飽きてきていた。

ゲンは、トイレに向かった。

トイレから出てくると、男がじっと立っていた。

覚えのある顔だった。

「太田原か、お前どうしてここにいる」

ゲンは、少し驚いた。

太田原は、洗い立てのYシャツと高価ではないがピシっとした新しい背広を着ていた。

「久しぶりだな。ゲン。ちょっと話があるんだ」

「俺は、別にお前と話すことはない」

ゲンは、無視してその場を離れようとした。

太田原がゲンの腕を掴んだ。

「まあ、いいじゃねーか。重要な話だ。ちっと来い」

太田原は、人のいない場所に向かった。ゲンはだまってついていった。

通路の奥に、「STAFF ONLY」と名札のついた部屋があった。

太田原は、それを開けた。

「まあー、はいれ」

中には誰もいなかった。折り畳み式のテーブルとイスが置いてあった。

太田原は、事前にチェックし準備していたらしい。

ゲンは、修羅場には慣れていた。

安全のために、ドアに近い方のイスに座り足を組んだ。

太田原は、イスの向きを逆にして、両手を背もたれの上に置いた。

「太田原、どんな話だ」

「お前らを守ってやろうという話だ。お前等、相当に恨まれてるぞ。

何も言わずに、俺の会社の口座に100億円振り込め、そしたら俺がなんとかしてやる」

「随分と荒唐無稽な話だな。俺がそんな話に乗ると思うか」

「俺の話に乗らなければ、今後大変なことが起こるぞ。一つだけ教えてやる。おまえら、欧米や産油国から実力行使されるぞ。これは脅かしなんかじゃない。事実だ。直ぐに100億を俺に支払え、長年のよしみで助けてやる。100億位の金は、今のお前だったら、どうにでもなる金だろうが」

「太田原、お前はもっとまともな道を歩いたらどうだ。俺は帰る」

「ゲン、俺を見くびるな。きっと後悔することになるど、後で後悔してもしらんど」

「太田原、元気でな。俺は帰る」

ゲンは、ドアをあけてパーティー会場に向かって歩きだした。

しばらくして、後ろを振り返ると、太田原が立ち止まって、じっとこちらを見ているのが見えた。




38-7.極楽グループの売上が、100兆円を超えた。


平和33年12月、極楽グループの売上は、120兆円を超えた。粗利は、100兆円となった。

極楽発電が出来て11年目にして、会社の売上は、20兆円を突破した。

極楽発電の営業利益は、15兆円になり、世界のベストワンを独走していた。

極楽グループの従業員は、30万名を超えた。そのほとんどが極楽マートで従業員が15万名を超えた。極楽マートはスーパーとコンビニでアフリカのケニアやエジプトにも進出し、アメリカ、ヨーロッパ、中国、インド、東南アジアに展開した。国内店舗と合わせ10,000店舗を超えた。

極楽マートの売上は15兆円を超えた。営業利益は30%程で、グループ内では一番低かった。

極楽グループで唯一上場している極楽マートの株価は急騰していた。時価総額はもう100兆円になっていた。

極楽マートだけで、サンの持ち株の時価総額は30兆円になり、ゲンと啓の分は15兆円となった。

極楽グループ全体の価値を計算に入れると、三人ともこの十倍になっていた。

三人とも、これに関心はなかったが、いつのまにか途方もない金額になっていた。

シュン、マコト、ハジメ達も、いつの間にか資産が増えていた。


極楽グループの従業員は、30万名を超えたが、これをサン達と極楽学園出身者の約1,200名でコントロールしていた。

極楽グループは、ようやく安定した経営となっていた。

極楽グループの売上はさらに急激な増加を遂げていた。

ビッグバンは、まだ続いていた。

この先、極楽グループはどこまで膨張していくのだろうか。

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