第36話 インドにも無線給電

36-1.ついにインドで無線給電開始


平和30年。

年があけると、タイ、インドネシア、フィリッピン、カンボジア、ベトナム、マレーシアが、次々に極楽発電と電力供給契約を提携した。


そして8月。

ついに世界第3位のGDPのインドが極楽発電と電力供給契約を提携した。

これは、各国に大きな衝撃を持って受け止められた。

もう大勢が決まったのだ。

GDP世界第2位の中国を激しく追い上げているインドではあったが、まだまだ国内の産業基盤は脆弱で、貧しい農村は都会の発展から取り残されていた。

インド政府は、「2億戸電化計画」を発表し、全ての家庭に電力受信装置をつけることを表明した。温暖化の防止と石油輸入の膨大な負担の軽減化の為であった。

また、今後は販売する全ての自動車はEV化を義務づけた。

極楽発電と極楽電池は、電力受信装置と蓄電池を無償レンタルで追加装備し、受信装置と蓄電池のレンタル使用料を電気料金に含んだ。

そして電気の料金は、今までより安価で使用できた。

インドの民衆と企業は、争ってEV自動車への電力受信装置と蓄電池の追加装備を依頼するようになった。

こうなると、各国の自動車メーカは、争って電力受信装置を採用した。さらに、極楽電池のバッテリーを採用した。

豊畑自動車や木田技研も、追従するしかなかった。インドの大市場を失うわけにはいかなかったのだ。

ついに、極楽電池の蓄電池シェアーは、世界一になった。

このことで、自宅や工場への電力受信装置と蓄電池の装備も急速に普及していくことになった。

2か月後、台湾、シンガポール、エジプト、サウジアラビア、アルジェリア、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンが、極楽発電と電力供給契約を提携した。

残っているのは、アメリカを代表とする欧米諸国と中国、ロシア、韓国、一部の独裁国家位だった。

彼らは、国家の安全保障を危惧していたのだ。

しかし、極楽グループの電力供給システムを採用した国のGDPは、既に世界の半分以上になり、残った国を凌駕していた。


平和30年3月には、極楽学園から180名の卒園生が旅立った。

ロボット開発に40名、金融部門に5名、ソフト部門に40名、人工衛星型リニアエッグに5名、そして戦略部門に30名、その他は、極楽グループの各会社に派遣された。


極楽学園での生活について述べよう。

乳児は、看護資格をもった職員と看護用ロボット、そしてアウルにより、24時間面倒を見てもらっていた。

3歳から5歳までの幼児は、保育士の資格をもった職員が集団教育を行っていた。

看護ロボットも当然サポートしていた。

小学部(小学校)に進級すると、それまでの集合生活から、1部屋に4名の部屋に暮らすようになる。3年生になると1部屋に2名となった。

中等部(中学校)に進級すると、個室が与えられた。

それらは、自分の部屋のことであり、学園生は極楽学園のどこでも勉強したり遊んだり、休憩したりすることができた。

高学年になれば食事も、決められた時間以外にも摂ることができた。しかし、カロリー摂取量は、コンピュータやアウルにしっかり掌握されて、ケーキの提供を食堂の職員から拒否されることもあった。

勉強も、施設のテーブルや勉強室に行き、コンピュータを呼び出すと、自分だけの3Dディスプレイが目の前に浮かび上がり、コンピュータを使った勉強が可能だった。

勿論、キーボードを使いたければ、キーボードを呼ぶと、テーブルの上や本の上にキーボードの映像が投影され、それでキー入力することができた。

彼らは、自由に勉強し、研究することができ、教育AIがサポートしてくれた。

学習の状況は、コンピュータが追跡し、担当の教職員が彼らに適切な指導と、方向性を与えた。

この環境下では、何歳で入園して知育にばらつきがあっても、教育環境と教育AIのおかげで

誰でも、順応していくことができた。

学園生の進歩は、驚くべきスピードであった。

しかも、毎年成長スピードは向上していた。



36-2.極楽発電の本社ビル


極楽発電の本社ビルは、極楽駅の前にあった。

敷地面積は6,000平方メートル、建物面積は5,000平方メートル、地上30階、地下104階(地下公共部4階)、延床面積は、670,000平方メートルもあり、新丸ビルの3倍の延床面積があった。

地下1階から7階までは物販113店舗、飲食40店舗、合計153店舗の商業施設が入っていた。

勿論、極楽建設が施工した。

地上部は長方形のビルの形状をしていたが、地下部分は、垂直型超高速レーザシールドマシンで円形に削り出し、円形のビルになっていた。深さは、約500mであった。

本社ビルの後方に、地上10階、地下20階の駐車ビルがあった。車は完全自動で格納されていった。

小杉一郎は、毎朝9時少し前に本社ビルに入った。

毎日、宮崎の自宅を8時30分に出発しリニアエッグで極楽市まで通勤していた。

自宅から極楽市まで20分で着いた。

いつものようにグループ搭乗用のリニアエレベータの前の列に並んだ。

1名から数名が乗れる小型のエレベータだった。

目の前のドアが開き、小杉は一人で乗り込んだ。

リニアエレベータには、行先ごとの人が乗ることになっていた。

行先の異なる人が乗ると、リニアエレベータはそれを認識して後から乗った人に降りるように指示した。

小杉が入るとドアが閉じた。

『小杉一郎様、行先は貴方様の事務室でよろしいでしょうか』

リニアエレベータが話しかけて来た。

「OK」

リニアエレベータは、小杉一郎が着けているネックレスの先端の認識タグを自動的に読み込み、小杉一郎の顔と姿を入力し自動認識した。しかも通勤時間帯であるのと、特別なスケジュールを知らされず、行先を指定されなかったので、小杉一郎の事務室に行くと判断した。

ネックレスの装備は、極楽グループで働く者全てに義務付けられていた。

極楽学園卒園者は、認識タグを皮膚の下に埋めこむ者もかなりいた。

極楽グループの建物内では、認識タグがあらゆる時にチェックされた。それと動画映像で組み合わされ、誰がどこにいるのか、必要であればタグ付きの情報が貼り付けられた映像で確認することができた。勿論、認識タグを持たない人物や認識タグを持っていても本人の画像と一致しない者は、即座にチェックされ保安署にエレベータが直行するか、係に連絡され彼らが現場に急行することになる。

認識タグを持っていても、その時点でフロアーや事務室、会議室へのアクセス許容権を持たない者は、行くことも入ることもできない。

リニアエレベータは、静かな音を立てて移動していく。

1分も経たないうちにリニアエレベータは、地下80階で停止し、ドアが開いた。

小杉一郎は、ビルの円周部の通路を歩いていた。窓の外を見た。地上80階から見た山並みと、晴れ渡った空が見えた。

つまり、逆になっており、80階に上ったことになっているのだ。

『今日もいい天気だ』

小杉一郎は、そう思った。

勿論、外の風景は、コンピュータが実際の天候データと現在時刻と深さ(高さ)から作り上げた、精密な3D映像だった。

自分の事務室に入り、上着をかけると自分の机に座った。

机の上に半透明状態の3D映像が浮かび上がっていた。

時刻は、『09:01』と表示されていた。

「コンピュータ、今日の予定を表示」

空間にスケジュール表が表示された。

「メールは来ているか」

「会長からのメールが届いています」

「開いてくれ」

空中に極楽発電の会長である啓の顔が映った。

「小杉君、インドの事業の打ち合わせを行いたいので、10時に私の部屋に来てくれ」

3Dメールが終了した。

「まだ時間があるな、ニューデリーの伊藤君に確認しておくか。ニューデリーの伊藤君に電話してくれ」

「かしこまりました」

直ぐに、伊藤の顔が画面に現れた。日焼けした顔をしていた。まだ眠たそうだ。

ニューデリーは、まだ6時前だ。

「小杉課長、お早うございます」

「伊藤君、朝早くて悪いな」

「いつもの事ですから気にしませんよ。ところで話はなんですか」

伊藤は朝早く起こされるのには慣れていた。

「10時に会長から呼ばれている。インドの電力供給契約状況を教えてくれ」

「今は、デリー市内での設置でも手一杯です。とにかく電力受信装置が無料と聞いて、申し込みが殺到しています。工事を担当する工務店と販売店の確保。そして教育が問題です。それに電力受信装置の供給が足りません。何とかしてください。

デリー市以外への普及なんかまったく不可能です」

小杉は、啓から呼び出されている理由がわかった。

「伊藤君、了解した。直ぐに善後策を練り、支援を開始するよ」

「課長、お願いします」

小杉は、直ぐに極楽発電の各部署や極楽技研や極楽電池に電話をかけまくった。

気がついたら、10時10分前だった。

「まずい」

小杉は、背広の上着を着ると部屋を飛び出した。

一人用のリニアエレベータの前に並ぶと、直ぐにドアが開いた。

乗り込んだ。ドアが閉まった。

「会長室」

「小杉様、かしこまりました」

通常、アポイントの無いものは、会長室のある地下104階には行けなかった。

リニアエレベータが小杉と会長とのアポイントがあり、会長室の階のフロアーアクセス権、許容権があると認識しているのだ。

ものの20秒でドアが開いた。

地下104階のフロアー全てが、会長室と秘書室であった。

受付に秘書がいた。

「小杉さん。お待ちしていました。応接室にどうぞ」

「何号室ですか」

「3号室です」

「了解、3号室ね」

小杉は、勝手にスタスタ歩いていった。

秘書は何時ものことなので、そのままほっておいた。

応接3号室と書いた部屋の前に来ると、ドアが自動的に開いた。

ソファーに座って待っていると、直ぐにドアが開き、啓が入ってきた。

「やあ、おはよう」

小杉は、起立した。

「会長お早うございます」

啓はソファーに座ると、直ぐに話し出した。

「小杉君、インドの状況はどうなんだ。混乱しているとの情報が僕の方まで上がって来ているよ」

「電力供給の契約の状況は好調なんですが、あまりに好調すぎて、電力受信装置の設置や供給が追い付いていません。デリー市内だけで手一杯の状況です」

「それはまずいな、まず電力受信装置の設置を最優先で行ってくれ。各方面の協力支援は要請しているのか」

「はい、当社の営業と技術の増援が必要です。直ぐに各々100名程増強し、設置の応援と工事の技術者の教育を徹底します」

「インド各地への販売計画を大至急見直してくれ、大幅な人材投入が必要だな。日本からの人材投入と現地での求人を行う必要がある。極楽人材のマコトさんに相談してくれ。

私からも君から相談があると頼んでおくよ」

「わかりました。計画を見直し、マコト社長に相談いたします」

「じゃ、計画が整ったら、報告してくれ」

「わかりました。早急にご報告いたします」

小杉は、深々と頭を下げ、ゆっくりと頭を下げた。

ドアをゆっくりと開けて出ていくと、後ろからパタンとしたドアが閉まる音がした。

大杉は急ぎ足になり、来る時の2倍のスピードで帰っていった。



36-3.合同結婚式


平和30年10月、シュンとマコトとハジメが合同結婚式を宮崎市で挙げた。

シュンとマコトは29才、ハジメ28才はだった。

相手は極楽学園出身の女性であった。


8月、三人共非常に忙しい時期で毎日夜中まで仕事に追われていた。

まだ結婚式をしてないゲンからは、三人に連日のように結婚するよう圧力をかけられていた。

「シュン。貴子との話はまとまったか?」

「ゲンさん、もういい加減にしてくれ。耳にタコができるが」

「もう面倒だから、三人一緒に結婚式を挙げろ。式場は俺が押さえておく。いいな10月にやれよ。

俺もサンから毎日のように言われているんじゃ」

「もう仕方がない。やります。やればいいんでしょう。マコトとハジメにはゲンさんから言ってくださいよ」

「OK。実は二人にはもう言ってあるんだ。了解は取ってある」

「えーー。俺が最期か? 酷いよ」

と行くことで、三人の結婚式は10月に決まった。



平和30年12月、極楽グループの売上は、35兆円、粗利は、28兆円となった。

極楽発電は出来て8年目にして、売り上げは、8兆円を突破した。

極楽発電の純利益は、6兆円になっていた。

その勢いが衰える気配すらなかった。

極楽グループの従業員は、10万名に迫っていた。その半数が極楽マートで、従業員が4万名を超えた。アメリカ、EC,中国、インドに進出し、国内店舗と合わせ600店舗を超えた。

極楽マートの売上は4兆円を超えた。純利益は20%程で、グループ内では一番低かった。

極楽グループで唯一上場している極楽マートの株価は急騰し、時価総額はもう10兆円になり、国内の時価総額ランキングの10位以内に入っていた。


これに続くのが極楽商事で7,000名であった。

これをサン達と極楽学園出身者の500名程でコントロールしていた。

極楽グループは、ようやく安定した経営となっていた。

極楽グループの売上は急激な増加を遂げていた。


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