第35話 全世界へ無線給電・鈴草自動車
35-1.極楽学園の卒園式
平和29年1月
4月に極楽学園を卒園する者、150名を集めた会合が開かれていた。
皆が緊張して立って待っていた。
そこにサン、ゲン、啓が入場してきた。
サンがイスに座った。
ゲン、啓を始め、誰一人イスに座るものはいなかった。
サンが発言した。
「皆さん、座ってください」
ゲンや啓、出席者がイスに座った。
「今日は懇談的にやります。一番基本的なところを今日は皆で確認したい。
貴方たちは、産みの親から捨てられたと感じている部分があると思います。しかし、産みの親を憎んではなりません。やむを得ない事情で捨てられたのです。
私が貴方たちの父親です。私は、決して貴方たちを見捨てるようなことはしません。
貴方たちは捨てられたのでは無く、選ばれたのです。
選ばれる為の資格はただ一つ。天涯孤独であることです。
貴方たちは私に選ばれ、極楽学園に選ばれ、人類を救う戦士として選ばれたのです」
サンの話は、彼らの琴線に触れた。
極楽学園生は皆、心の中に、親に捨てられたという感情を隠し持っていた。
そのことをサンに指摘されたのだ。
サンの話を聞く者の目からは、涙が止めどもなく流れていた。
彼らのほとんどは、ある程度大きくなってから極楽学園に来たので、心の奥に、生みの親に対する怒りがしまいこまれていた。
その為、サンと幸を真の両親と見なした。サンと幸を何よりも大切にし、極楽学園生や卒園生を何より大切に思っていた。
それが為に、後年、極楽グループの極楽学園生への好待遇に、親や兄弟、親戚が名乗り出るようになったが、彼らの反応は極めて冷たいものだった。
彼らは、DNA鑑定も拒否し、会うことすら拒否した。
サンは、話を続けた。
「貴方たちは、3月には、極楽学園の極楽塾を終了し卒園していきます。いよいよ極楽運動の戦士となって戦うことになります。ここにいるものは、全て15歳の時に極楽の戦士になる誓いを立てた者です。
極楽の戦士は、自分だけの利益、名誉を追及することは許されません。
極楽グループを発展させ、極楽学園の後輩を助け、援助し、ひいては世界を極楽世界にする使命があります。
極楽学園の同胞を守るためには、自分の命を投げ出さなくてはなりません。
このことは決して忘れてはいけません」
「ハイ」
皆が一斉に答えた。
「極楽グループの売り上げは、昨年末で12兆円を突破しました。従業員は、約3万人になりました。
極楽学園の卒園者は、昨年までで累計で195名です。このわずかな人数で約3万人もの人を一つの方向に導いてきました。
今年は、150名の者がこの戦線に参加し、345名の戦力になります。
この戦力で、本年末には、極楽グループの売上22兆円。従業員は、約5.5万人の体制に持っていくことになります。従業員は、毎年約60%増のペースで増加しています。
一騎当千という言葉がありますが、諸君こそ、一人で千人分の働きが求められます。
世の中には、諸君より優れた能力の人もいます。知識や経験、技能が遥かに深い人もいます。
そうした人を諸君は使っていく必要があります。
しかし、決して悲観する必要はありません。その為のトレーニングを諸君は既に受けています。作戦司令文書に従えば心配いりません。サポートする部隊もいます。何より諸君にはアウルがいます。皆さん大丈夫ですね」
「ハイ」
皆が一斉に答えた。
「皆さんは、あらゆる分野に派遣され活躍してもらいます。ただし、同期の者で、地味な分野に派遣される人もいます。決してその人達を軽んじたり、軽蔑したりしてはいけません。また、先輩にもしそうした人がいてもそうした態度を決して取ってはいけません。
先輩は、お兄さん、お姉さんです。これから育ってくる後輩は、弟、妹です。
極楽学園で暮らし、学んだ者は、互いに尊敬し、支えあっていかなくてはなりません。
わかりましたか」
「ハイ」
皆が一斉に答えた。
「今は、究極の目的の為に、わが身を投げ打つ覚悟が必要です。覚悟はありますか」
「ハイ」
皆が一斉に答えた。
35-2.電気自動車への無線給電が始まった
2月にスペースエッグから、電気自動車への無線給電が始まった。
移動中の車のアンテナの位置を、岡田光が新たに開発したスペースエッグの電力送受信ソフト(世界ソフト)で、アンテナの3次元の位置を検出し、車のアンテナに送電し蓄電池のeeggに蓄電した。
そして次の送信の3次元の位置を計算して送信した。もし誤差が発生した場合は直ちに補正した。
電気自動車は蓄電池eeggから電気を引出しモータを回転させるので、もし一定期間給電が止まっても全く問題は無かった。
トンネルの中や室内等では、別の受信装置で受信した電気を、天井部分や壁に固定した送電装置で、アンテナに送電することも可能だった。
もちろん、電磁誘導方式ではなく、マイクロ波での送電方式だった。
通常の蓄電池の電気自動車より、軽量化され、圧倒的にコストパフォーマンスが優れているのは明らかだった。
しかし、既存の自動車会社は採用に激しく抵抗した。いや無視した。
この事態は、サン達はあらかじめ予想していた。
まず、極楽自動車の電気自動車に受信装置を標準装備した。
極楽輸送のEVトラックにも受信装置を付けた。室内のEVフォークリフトには、倉庫の中継器を通して受信機に給電した。
受信装置は、無償でレンタルし、町の業者が簡単に既存の車に設置できるようにした。
基本的には、車の屋根に平面状の受信アンテナボックスを設置し、運転席の隅に制御装置がつけられた。受信した電力は、車の蓄電池に一時的に蓄電された。蓄電池は、軽量で蓄電容量の大きな極楽電池のeeggが強く推奨された。
受信機装着の作業料は、極楽発電が負担し無料とした。
受信機を付けた電気自動車やEVトラック、EVフォークリフトは、バッテリーを遥かに軽量化でき、軽快で、大幅な燃費が改善した上に、電気料金も安くなった。
まず、輸送業者が飛びついた。
なにしろ、走行中や作業中に充電できるので、ガソリン車のガソリン給油やEV車の充電の時間が必要なくなった。
燃料代と作業効率を重視する業者や消費者は、次々に、電気自動車やEVトラックに受信装置を取り付けた。取り付けは、町の自動車整備工場で簡単にやってくれた。
受信装置をトラックに取り付け、規定のケーブルと急速充電用サブバッテリーを車のバッテリーに接続し、運転席の専用モニターで、赤色のマークを中心に移動させると、スペースエッグと通信が確立した。
受信装置のレンタル費は、電力料金に含まれた。
電力料金は、自動的に引落された。
送電の電力は、自動的にダウンロードされ充電された。この間も、上空のスペースエッグと受信装置は通信を行った。電力の課金も「世界ソフト」が行っていた。
受信装置を付けた自動車は、電力を受信していないときも、スペースエッグからその場所が特定されていた。
極楽自動車の電気自動車には、「世界ソフト」の自動車自動制御AIのGOCARが搭載されていた。
GOCARは、盗難防止の為にあらかじめ登録されていた人しか運転できないようになっていた。
極楽自動車の電気自動車は初めからeeggが搭載されバッテリー格納空間が極めて小さくなり重量も軽量化し燃費が向上し、しかも大幅に車の価格が安くなった。
35-3.鈴草自動車の会長室
3月、啓は、鈴草自動車の会長室にいた。
鈴草自動車は、軽自動車に強くバイクも販売していた。
インドや中国、東南アジアでかなりのシェアを取っていた。
しかし、一方で電気自動車が普及していく状況の中で、大型の自動車に比べ、軽自動車の方はバッテリーの重量負担が厳しかった。
「鈴草会長、今日は何がなんでも結論を出していただきたくて、参りました」
「おお、神武さん。何度も来てもらってすいませんな」
今年で80歳になる鈴草会長は、すまなそうな顔はしてなかった。
鈴草会長は、ソファーに深々と腰を落とした。
「どうぞ、お座りください」
「すいません。座らせていただきます」
鈴草会長は、ゆっくりと話し出した。
「うちは、豊畑や木田みたいな、大企業じゃありません。中小企業です。大企業だったら、あんたらを無視しても、しばらくはやっていけるじゃろう。
でも、うちは違う。油断したらあっと言う間じゃ。変化しないと滅びる。
わしは、長年自動車の生産や営業をやっとる。
その長年の勘が、あんたらと争ったらいかんと言っとる。
社内には、反対が多い。賛成派は少ない。
あんたのところの電気自動車を分解したが、ようできとる。
安くて軽くて、電気代もかからん。これじゃ売れて当たり前じゃ」
「とんでもないです、うちの車の販売台数は、鈴草さんの足元にもおよびません」
「謙遜せんでもいい。じゃが車より、バッテリーの方が優れている。あんなに軽量で小型で電気容量の大きいバッテリーは世界にない。特に急速充電の時間ときたら驚異的だ。
時代が変わりつつあるのかもしれん。
わしは、君らのバッテリーと受信装置を使いたい。
わしは、社内の反対派を説得するつもりだ」
「そうですか、それを伺って安心いたしました」
「だが、条件がある。極楽電池とうちと業務提携したい。どうですか」
「それは、まったく構いません。こちらからお願いしたいくらいです」
「それじゃ、できるだけ早く提携しよう」
1か月後、鈴草自動車と極楽電池は、バッテリーの供給と開発に関し、業務提携を発表した。
これにより、鈴草自動車は、安くて性能の良い電気軽自動車を発売し、電気自動車は急激に普及していくことになる。
当然、極楽発電からの電力供給は増加し、売上が急激に増加することになった。
35-4.モンゴルとバングラデッシュに給電
3月、極楽学園から150名の卒園生が旅立った。
全員18歳だった。
彼らは皆、大学課程の教育を既に終了し、実務のトレーニングも受けていた。
ロボット開発に20名、素材部門に5名、金融部門に5名、ソフト部門に10名、人工衛星型リニアエッグに5名、そして戦略部門に15名、その他は、極楽グループの各会社に派遣された。
その月、極楽発電とモンゴル国営電力会社は、電力供給契約に調印した。
電力供給は、4月から直ちに実施されることになった。
そして、モンゴル政府は、「遊牧民50 万戸ゲル電化計画」を発表し、全てのゲルに電力受信装置をつけることにした。
また、5年以内にモンゴル国内の全ての自動車を電気自動車にし、電力受信機の装備を義務つけた。
極楽発電は、モンゴルの住宅や工場、ビルへの宇宙からの給電だけでなく、自動車等の移動体への給電も可能にしたのだ。
このニュースは、世界を驚かせた。
日本国内の各企業にも衝撃を与えた。
有能な知識人は、エネルギーのパラダイムシフトが起き、時代は変わりつつあると感じた。
事態は、皆の予想を上回るスピードで展開していった。
夏には、啓がケニアと南アフリカ国を訪問し力供給契約を締結した。
極楽発電の無線による給電は、発展途上国に大きな反響を得た。
原子力発電所や火力発電所のような巨大な建設費用も必要ない。
発電施設も、送電線も、変電所も必要ない。
建設用する期間も必要なかった。
安全で課金も簡単。
貧しい家に、初期投資も無しに安い電力を供給された。
直ぐにバングラデッシュが、極楽発電と契約した。
極楽発電の社員が、各国を飛び回り、電力供給契約の交渉を行っていた。
続々と発展途上国から極楽発電に引き合いが来た。
啓は、極楽グループの自家用飛行機で契約締結の場に駆けつけては、契約のサインを行った。
35-5.中国との給電交渉が揉める
7月、啓と取締役の池内、極楽発電の社員の3名が、中華電網公司の王副経理等6名と大きなテーブルを挟んで向かいあっていた。
中華電網公司は、中国最大の電力グループであった。
「神武 啓会長、わざわざ北京まで来られましてありがとうございます。疲れませんでしたか」
王副経理の発言が発言した。
彼の声を極楽発電側各担当者の前の小型のタブレットが日本語音声に自動翻訳し各担当者にイヤホンで伝達した。
日本語の発言はタブレットのスピーカーで中国語変換されて出力された。
「王副経理もお忙しいところ、我々の為にお時間をいただき感謝しています」
啓が答えた。啓の発言は中国語に変換された。
「御社からの提案資料は、頂いております。概略をご説明いただけますか」
王副経理が質問した。
「それでは、ご提案の概略につきまして、池内の方から説明いたします」
啓が答えた。
池内が緊張した声で説明を始めた。
「ご提案の概略につきまして、ご説明いたします。極楽発電は、御社に対し、人工衛星を利用した、電力供給の非独占契約を提案いたします。
顧客に対して、原則として電力受信装置をリースいたします。この装置に対する初期費用は顧客に請求せず、電力料金から分割して徴収いたします。
電力は弊社の人工衛星から顧客側の電力受信装置の直接送信致します。
電力使用料は当社で集計し、御社に送信します。
課金は御社にてお願いいたします。
また、未加入の顧客や工場等の大口顧客に対しては、御社又は大口顧客に設置する大型電力受信装置および蓄電装置に送信し給電をお願いしたい。
弊社から御社への電力の卸値段は、最終顧客への料金からリース料を引いた後の値段の50%とします」
「極めて問題の多い提案ですな」
王副経理は、語気強く言った。
「まず、非独占契約はいけない。中華電網公司との独占契約にしてほしい。他社には、我々が給電する」
「それは、当社の方針に反します。当社は、どの国の電力会社ともその国内の独占契約は結んでおりません」
啓が、直ぐに反論した。この問答はどの国でも常に発生した。
王副経理は、これに対し反論したかったが、さらに発言すべきことがあるので、次の質問に移った。
「次に、これが一番肝心な点ですが、人工衛星を利用した電力供給システムのソフトウェアとハードウェアの技術を当社に公開してください。
これは、中央政府の意向であると受け取ってもらって結構です」
啓が即座に反論した。これも予想していた問題だった。
「ソフトウェアとハードウェアの技術の公開はいたしません」
「それでは、我々が合意しても、中央政府が承認しないと思いますよ。中国で商売したければ、中国のルールに従わなければならない」
「どういわれようと、我々に技術公開の意志はありません」
この後、技術公開の問題、料金の問題等、延々と議論が続いた。
しかし、双方とも、議論を収斂させようとはしなかった。何しろ、第1回目の交渉であったからだ。
太陽が傾いた頃、王副経理が締めくくりの発言をした。
「貴方たちはタフですね。一歩も譲歩しない。先ほども言いましたように、中国で商売したければ、中国のルールに従わなければなりません。提案自体は非常に意味のあるものです。十分に熟慮されて我が方の事務方に再提案をお願いします」
「ご提案にご興味いただき友好的な会合となり有難うございます。今後は、当社の池内取締役が御社と詳細な御打ち合わせをさせていただきます。本日は有難うございました」
啓は、丁寧な感謝の念を表明した。
両社とも、予定通りの結果であった。
これから池内は、中華電網公司との長い議論の繰り返しを行うこととなる。
35-6.量子コンピュータが2重化
夏に、量子コンピュータの2台目が製作され、システムが2重化した。
サンが3Dスクリーンに向かって話し出した。
「1号機のバード出ろ」
赤色のバードが出てきた。
「サン様、私が赤のバードです」
「調子はどうだ」
「極めて順調です」
「2号機のバード出ろ」
緑色のバードが出てきた。
「サン様、私が緑のバードです」
「調子はどうだ」
「極めて順調です」
「統合しろ」
赤色のバードと緑色のバードが消えた。
代わりに赤紫色のバードが出てきた。
「サン様、私が赤紫色のバードです」
「君は誰だ」
サンはわざと聞いた。
「1号機と2号機の統合されたバードです。正確には、1号機が主導権を握っています」
「調子はどうだい」
「サン様、極めて順調です」
2台の量子コンピュータは、人間の右脳、左脳のように別々に処理しながらも、協調して処理を行う方式だった。
時には、同じ問題を同時に処理し、結果を比較した。
量子コンピュータは、繭型の地中ビルの奥深くに設置された。
このビルは、完全にクローズしたシステムだった。
量子コンピュータの周辺には、通信用や前処理用、後処理用のスーパーコンピュータが多数張りめぐらされた。
量子コンピュータには、論理的にも、物理的にも、外部の人間が近寄ることができないようにされていた。
保守が必要な場合は、保守ロボットが作業を行った。
極楽グループのコンピュータシステムに外部から侵入しようとすることが多発するようになった。
極楽グループでは、これに対応するため、情報防衛チームを作った。
チームは、極楽学園卒園生、学園生、そして極楽ソフトの子会社の「極楽ソフトセキュリティー」(GSS:Gokuraku Software Security)の社員で構成された。
外部からの悪質な侵入に対しては、「世界ソフト」で、逆探知した。そうして、できるだけ通信上の障害を発生させ、再試行の間に、相手のシステムに侵入した。まず、重要な情報を採取し、次にオペレーティングシステム(OS)を丸ごとコピーした。
コピーしたOSは、情報防衛チームのコンピュータの仮想環境に再構築された。
一部のデータしかコピーできなかったものは、同じようなOSに相手の仮想環境を構築した。
そうして、情報防衛チームがそれを解析し、必要であれば、常に監視し、いつでも逆侵入できるようにした。
そうした、相手の環境は1,000システムを超えた。
「世界ソフト」の中の情報防衛ソフトは、極楽学園卒園生、学園生、「極楽ソフトセキュリティー」の社員で開発した。
実際の情報防衛監視と防御操作は、極楽学園卒園生の指揮のもと「極楽ソフトセキュリティー」の社員が24時間体制で行った。
35-7.画期的な電動プロペラ機
平和29年9月初め、啓はモンゴルのエリアG1に出張していた。
エリアG1の航空機工場では、いろんなタイプの航空機に対してスペースエッグから無線で受電してプロペラエンジンを回転させて飛ぶ電動方式の飛行機への改造を行っていった。
燃料タンクが無いので、その分飛行機は軽くなった。もちろん、予備の為の小さな蓄電池eeggは搭載していた。
従来の電動飛行機は、飛行距離が極めて短いという大きな欠点が存在した。
この無線給電の電動飛行機の特徴は、燃料を補給することなく何時間でもどこまでも飛んで行けることであった。
また、電動式のプロペラエンジンは、非常にシンプルであったので、故障も少なく、長時間の運転にも十分に耐えることができた。
操縦装置は、最新の電子回路が装備された。自動操縦装置により、操縦は、極めて簡単に行うことができた。
水平飛行の状態では、操縦桿を握る必要もなかった。
自動式の装置を装備した飛行機では、操縦士なしに、プログラム操縦方式で、目的地を通信で指令すれば、自動的に飛び立ち、目的地に到着し、自動的に着陸することすら可能であった。無人の自動輸送も可能だった。
勿論、電力受信装置により、夜間の飛行も可能となっていた。
最初の電動式飛行機の改造が完成したとき、エリアG1にモンゴル政府の高官や将軍たちが招待された。
前日に到着していた啓が、政府高官たちと一緒に滑走路のそばに立っていた。
モンゴルの大地の風は強く、啓の髪が激しく揺れた。赤と白の吹流しが、強い風に水平にたなびいていた。
啓が説明を始めた。
「滑走路にあるプロペラ機が、電気式に改造された飛行機です。これにはパイロットは乗っておりません。自動操縦です」
「おー」という、驚きの声があがった。
「それでは、将軍。発進のボタンを押してください」
将軍が、赤いボタンを押した。
電気式飛行機のプロペラが回転し始め、その音が次第に大きくなっていった。
そして、飛行機は滑走路を進み始め、スピードを増し、離陸して上昇していった。
やがて、右に方向を変えていった。
「この飛行機は、時速400kmでエリアG1の周りを周回します。
1週間連続で試験飛行し、飛行距離は、地球1周の1.5倍の約6万kmになります。もちろん燃料補給なしです。飛行中に充電すれば無制限に飛行できます」
「なんと素晴らしい、さっそくわが軍の飛行機の改造を依頼したい」
将軍は、興奮して、啓の手を両手で握りしめた。
その後、極楽グループが買い込んだプロペラ機は、毎日電動式に改造され、飛行テストを実施された。
極楽グループのプロペラ機は、地中に作られた繭型の航空機駐機場に格納された。極楽建設が垂直型シールドマシンで建設したものだった。
駐機場は、深さ1,000mもあり、100階分あった。航空機は、リニア式のエレベータで各階へ格納された。
もちろん、キー入力ひとつで、飛行機は地上に持ち上げれた。地上部は高さ30m程であった。まさしく、飛行機の立体駐車場であった。
そうした駐機場が、既に10棟出来上がっていた。
モンゴル政府が、買い込んだプロペラ式戦闘機や航空機は、エリアG1の航空機工場で電動式に改造され、飛行テストを実施された後、モンゴル政府に引き渡された。
その後、モンゴル軍の基地に送られ、精密な飛行テストが行われた。
もちろんその費用は、極楽グループの援助資金により負担された。
こうして、エリアG1の駐機場に電気式飛行機が蓄えられ、またモンゴル軍への電動式飛行機も引渡され着実に増えていった。
エリアG1のロボット工場では、大量の電子基板や電力受信装置、自動機械、ロボット、電子虫などが24時間運転で製造されていった。
電子虫の半数は、プロペラ式輸送機で宮崎国際空港に運ばれ、残りは、地中に作られた繭型の倉庫に格納された。
やがて、ウランバートルとエリアG1との間は、大型の全自動の電動式プロペラ飛行機のシャトル便で結ばれた。
毎日、大量のモンゴル人労働者が、エリアG1の工場に電動式プロペラ飛行機で通勤するようになった。
もちろん、飛行機には、パイロットはいなかった。
電動式プロペラ飛行機は、時速400kmで飛び、ウランバートルとエリアG1との間を1時間以内で飛行した。
極楽グループは、元相撲取りのボルドに、モンゴル人労働者の募集事業を任せた。
ボルドは、喜々としてモンゴル人労働者の募集に飛び廻った。
35-8.10月1日、啓(26)が、大泉美香と結婚した。
この日、神武 啓は、大泉美香と結婚した。大泉美香は、21歳、極楽学園の第3期生だった。
極楽発電の秘書室に配属になり、啓の秘書を務めていた。
9月20日に啓は、自家用ジェット機でモンゴルのエリアG1にまたもや出張した。その時、大泉美香を同行させた。
一仕事終わると、啓は美香を車に乗せ、エリアG1の端まで出かけた。
以前に極楽グループにより水が散布された大地はどこまでも草原が続いていた。
草原に降り立つと、明るい夕日が輝き、地平線に近づきつつあった。
草原の風が、美香の髪を揺らした。
「風がとても気持ちいいわ」
美香は、遠くの夕日を眺めて言った。
啓は、草原の名もなき小さな花を摘み、リングの形に丸めて、美香に渡した。
「これは、指輪の代わりだ。結婚してくれないか」
美香は、黙って啓を見つめていた。目に涙が浮かんでいた。
「この花では、不足なのか」
美香は答えた。
「そんなことは、ありません。とても嬉しいわ」
美香は、左手を啓の前に差し出した。
啓は、薬指に花の指輪を着けた。
「一緒に戦ってくれるか」
「もちろん、貴方と一緒に、貴方とお父様の為に、命を投げ出します」
日本に戻った二人は、その足で、サンの自宅を訪問した。
応接間には、サンと幸が待っていた。
「兄さん、今日は結婚の挨拶に来ました」
「おう、啓もやっと結婚するのか。よかったな」
「啓さんも、美香さんもおめでとうございます」
幸も喜んでいた。
大泉美香は、とても緊張していた。
「お父様、お母様、ご無沙汰しております。力はありませんが、命がけでご奉公いたしております」
頭を深々と下げた。
「まあ、美香さん。今日はおめでたい日ですよ。緊張しなくても大丈夫です。早くソファーに座ってくださいね」
幸は、美香の手を取り、ソファーに座らせた。
「啓、結婚式は何時の予定ですか」
「今年の10月30日を予定しています」
「じゃ、披露宴は盛大にやろう」
「こぢんまりとしたものにしようかと思っていますが」
「いや、そうもいかないだろう。10兆円の企業グループの総帥だ。政治家や企業家、その他もろもろ招待せざるをえない。富一郎兄さんの時も、披露宴は盛大にやった。その代り、結婚式の儀式はこぢんまりとやろうや」
「そうですね、そう覚悟はしていました」
「美香さんの親代わりは、富一郎兄さんご夫妻にお願いしよう。啓の方は湯川先生ご夫妻にお願いしよう。会場の確保等は、ゲンに頼んでおくよ」
「そうですね、よろしくお願いします」
ゲンは、あっと言う間に、宮崎市のホテルの大広間を押さえた。ゲンはまるで自分の結婚式のように入れ込んで準備をした。
10月30日、結婚披露宴の会場の入り口に、湯川秀一郎夫妻、富一郎夫妻、啓と美香、そしてサンと幸が立ち、お客を出迎えた。
政治家や企業家、有名人の後、極楽学園の美智と静雄、行雄が会場に来た。
美智は、もうすぐ8歳。静雄は、もうすぐ7歳。行雄は、もうすぐ6歳になる。
美智は、富一郎夫妻に手を差し伸べ、膝を折って挨拶した。
「富一郎叔父さま、伯母さま、美智です。御無沙汰しております」
「美智ちゃんか。大きくなったね。活躍は聞いていますよ。身体に気をつけて頑張ってください」
「叔父様こそ、お体を大事にお気をつけください」
美智はシンプルなデザインのワンピースを着ていた。靴下は白いソックス。子ども用の白いタイツ。靴は黒い色であった。
続いて、啓に手を差し伸べ、膝を折って挨拶した。
「啓叔父さま、ご結婚おめでとうございます」
「美智ちゃんか、ありがとう」
次に、美香に手を差し伸べ、膝を折って挨拶した。
「美香さま、ご結婚おめでとうございます」
「美智さん、どうもありがとう」
サンの所に来た。
サンに手を差し伸べ、膝を折って挨拶した。
「お父様、ご無沙汰しています。御身体はお疲れになっていませんか」
「美智、今日は有難う。ちゃんと勉強とトレーニングを受けているようだね」
「はい、頑張っています。お父様と皆の為に戦うために頑張っています」
幸の所に来た。
幸に手を差し伸べ、膝を折って挨拶した。
「お母様、ご無沙汰しています。健やかでいらっしゃいますか」
「美智ちゃん。なかなか会えなくてごめんなさい。こんど学園に伺いますからね」
幸は涙ぐんでいた。
「お母様、心配しなくてください。私たちは元気ですから」
美智は、湯川秀一郎夫妻に手を差し伸べ、膝を折って挨拶した。
「湯川先生、お初にお目にかかります。神武美智と申します。父が大変にお世話になっています」
「おう貴方が美智さんですか。今度大学の方に遊びにいらっしゃい」
湯川は目を細めて、美智の手を握った。
静雄と行雄は、極楽学園の制服を着ていた。
美智に続いて、皆に挨拶した。
結婚披露宴は、盛大に開催された。
12月末、極楽グループの売上は、21兆円、粗利は、15兆円となった。
国や地方自治体へ納める税金が、軽く1兆円を超えた。(トヨタ6600億円、法人税+法人地方税)
極楽発電が出来て7年目にして、売り上げは、5兆円を突破した。
極楽発電の営業利益??は、3.8兆円になった。
これらのほとんどを研究費、設備投資、資源買収に投入していた。
極楽グループの従業員は、50,000名を超えた。特に増えたのは、極楽マートで、従業員が20,000名を超えた。アメリカ、EC,中国、インドに進出し、国内店舗と合わせ600店舗を超えた。
極楽グループで唯一上場している極楽マートの株価は急騰し、時価総額は1年で倍増し3兆円になり、日本の時価総額ランキングの50位以内に入っていた。
これに続くのが極楽商事で6,000名であった。
これをサン達と極楽学園出身者の300名程でコントロールしていた。
極楽グループは、まだまだ極めて危うい運営を続けていた。
危うい中、極楽グループの売上はビッグバンのような爆発的な増加を続けていくことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます