第34話 天国町と極楽市そして宮崎市
34-1.極楽市のハンバーガーは1万円
平和28年3月
極楽学園の極楽塾から50名の卒園生が旅立った。
彼らは極楽学園の中学課程を修了すると、極楽塾に進んだ。期間は3年間だった。
彼らは皆、中学過程で大学課程の教育を既に終了し卒業すると、極楽塾で専門的な教育を受け、実務のトレーニングを受けていた。
3年間が過ぎると主として極楽グループの会社に就職した。
ロボット開発に5名、金融部門に5名、ソフト部門に10名、人工衛星型リニアエッグに3名、そして戦略部門に2名、そして25名が、極楽グループの各会社に派遣された。
極楽グループの各会社に派遣された者の初年度の年収は、2,000万円が保障された。
この金額は、彼らの任務内容から見て非常に安い金額だった。
彼らは、基本的に、1人当たり、100億円以上の純利益を上げた企業、部門またはあげる見込みの部門にしか派遣されなかった。
この年、極楽学園は、1,000名の体制になった。
極楽市は、住民全てに認識票を発行した。
認識票は、長さが5mm程の小さな長方形をしていた。頑丈にコーティングされていた。通常はネックレスにして首から下げるのが一般的であった。
外見は普通のネックレスと違いはなかった。
希望するものは、マイクロチップとして体内に埋め込むことができた。
認識票は、電磁誘導で1m以上離れていても情報を読み取ることができた。
この認識票で、市民サービスをスムーズに受けることができた。また自己の証明も簡単に行うことができた。
また、極楽市で働く人にも、認識票が発行された。これらの認識票が無い者は、極楽市では、働くことは出来なかった。
認識票の内部データは高度の暗号化処理がしてあり、偽造する事は非常に困難であった。
他人の認識票を持っていても、登録時の3D画像や声や身長、その他の身体的特徴から世界ソフトが本人確認を行い、不法な使用を検出し警察に連絡された。
極楽市のハンバーガーショップのパートの時給は、4,000円になり、世界最高水準級の時給となっていた。
白石麻衣と小宮山舞は宮崎市の大学の学生で、週3回ほど極楽バーガーでバイトしていた。
時給4,000円は、宮崎市の2倍で、生き生きと働いていた。
店舗は、ほとんど自動化されていたので、お客の受付やトラブル対応やバックヤードの作業、簡単な清掃等であった。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になされますか?」
白石麻衣が受付カウンターに来た観光客らしい「男女のカップル」に挨拶した。
「ト、トリフ宮崎牛ハンバーガーを2セットください」
カップルの男性が、少し緊張して注文した。極楽バーガーのバーガーはとにかく高いので有名になっていた。
「サイドメニューとドリンクは何になさいますか?」
「僕は、フライポテトとコーラ。君は何にする」
男性は、後ろのショートパンツの女性に尋ねた。
「私は、フライポテトとウーロン茶でお願い」
女性は楽しそうに注文した。
「セットで合計で9,000円となります。お支払いは何になさいます」
「カードでお願いします」
男性は、二人分のセットを支払った。
「レシートです。後ほどバーガーセットをお持ちしますので奥のカウンターにお座りください」
カップルは両手を取り合って、カウンターに向かった。
極楽バーガーでは、安価な普通のハンバーガーもあったが、4,000円の『トリフ宮崎牛ハンバーガー』や7,000円の『キャビア伊勢海老バーガー』や10,000円の『キャビア・トリフ宮崎牛ハンバーガー』の売れ行きが良かった。
キャビアは、極楽農園の自動水産工場で育成されたチョウザメの卵が使用されていた。
当然、価格も極楽市の水準に合わせて割高になっていた。しかし地元や宮崎市の人々、そして各地の旅行者が大勢やってきて極楽市の店は何処も混雑していた。
パートの女の子は、極楽市や宮崎市、天国町から通って来た。短期間働いては、海外や国内の旅行に出かけていった。
極楽市民は、病院も教育も給食も無料であった。極楽市独自の子供手当も支給された。
子供たちは、保育園から高校まで教育費が無料で、大学や専門学校に進学すると返済不要の奨学金がもらえた。
図書館や市民センターも充実し、一般市民の自己学習の手助けが充実していた。
地上部分は、極力昔の建物や自然が保全されていた。その代わり、地下に各種の施設や公園、広場などが作られていた。
優秀な科学者や、先進的な研究者、高級技術者は、極楽市の高層マンションに住んでいた。
若く、意欲的な科学者や研究者、技術者、労働者は、知的で高級な環境に吸い寄せられ、宮崎市や天国町から、通勤してきた。その中でもさらに優秀な科学者や研究者、技術者は、宮崎市沖の人工島「ロータス・アイランド」に住んでいた。
ノーベル賞級の科学者や、先進的な研究者、高級技術者は、当然のように人工島「ロータス・アイランド」に別荘を持っていた。
人工島「ロータス・アイランド」は、当初の計画を拡充し複数の島々から構成された。
全て十分な地震対策と津波対策が講じられていた。
世界の有名な企業も、吸い寄せられるように宮崎市周辺に、研究所や開発拠点、出先機関を作るようになった。
極楽市の街には、有名なブランド店や高級な店が次々に開店した。
それを求め、日本全国から、旅行者が集まるようになった。
宮崎市に着いた観光客は、時速600kmのリニアエッグや、時速180kmまで出せる『極楽高速道』でのスピードに目を丸くした。
34-2.天国村が天国町になった
熊本県の天国村が天国町になっていた。
天国町も、活気に満ちていたが、極楽市とは対照的であった。
極楽市は、整然とした町であったが、天国町は、混沌とした町であった。
日本中から若くて意欲的な労働者が集まっていたし、モンゴルや台湾、アメリカ、インド、タイ、フィリッピン、ネパール、ベトナム、中国、韓国、インドネシア、アフリカといった海外からの労働者が集まってきていた。
彼らの目は、どこの誰より貪欲にギラギラと光り輝いていた。
何しろ働きに行く極楽市の最低賃金が時給4,000円で、通常は時給4,000円以上だ。
能力を発揮し、頑張ればそれよりさらに高くもらえた。
成り上がるチャンスが日本の何処より、世界の何処より転がっていた。
毎日、早朝には、バスや乗用車に乗り、トンネルを通り、極楽市へ向かった。
最初は、ごみ収集や清掃、建設、接客業務等の比較的単純な労働に従事していたが、
しだいに土木や機械系の技師、看護師、介護士、教師、会計士といった専門的資格を要する職や、企業のホワイトカラー(事務、営業、広報など)職に就く者が増えて来た。
自動工場の整備や映像監視作業につく者もいた。
天国町では、ビル建設のピース(部品)や素材の製造を行い、極楽市やその周辺に輸送した。
それらの人々が、天国町や極楽市での労働で高給を得て金を貯めると、やがて自国から家族を呼び寄せ一緒に住むようになった。親類も一緒についてきた。
天国町も子供の義務教育は無料だったので、十分な教育を受けていない労働者は、自分の子供の為に身を粉にして働いた。
天国町では、労働者に対する商売も活発になった。商店、レストラン、飲み屋、ゲームセンターが乱立し、如何わしい商売も活発になった。
街中の道は、御世辞にも綺麗だとは言えない。
家も、掘立小屋が集まった地域や、コンクリートの家、より優雅な家が乱雑に建てられていた。もちろん、窓には頑丈な泥棒避けの格子がはまっていた。
とにかく天国町は、混沌のエネルギーに満ちていた。
この時世界で最も沸騰した3つの都市、極楽市、宮崎市、天国町が、九州に出現していた。
勿論、その中心は、極楽市であった。
極楽グループだけで年間2兆円を超える投資が、極楽市と宮崎県と天国町に投入されていた。
この地域の開発の動きを、日本中の企業が熱い眼差しで見て、投資を開始していた。
宮崎市や天国町には、次々にマンションや住宅、そして新しい高級ブランド店や飲食店が続々と作られていた。地価は高騰し、住民の所得も向上していった。
宮崎県は、潤沢な税金の収入により、県の累積負債を全て解消した。
西国原知事は、溢れだしてきた税金を、今後どう使うか頭を悩ましはじめた。
34-3.『天国と極楽』が三回目の新装開店
9月、『天国と極楽』が、さらに大きく豪華になり新装開店した。三回目の開店だった。
前の場所から、リニアエッグの極楽駅の近くに移ってきていた。
ゲンの尽力もあった。
サンとゲンは、夕闇の中に、相変わらずド派手なネオン管に彩られた店の前にいた。
建物全体が、明るく輝いていた。
店に入ると精一杯デコレーションされた髪と、少し厚化粧をした桜が、大勢のホステス達を率いて待っていた。
桜はこの時、27歳になっていた。
「サン様、本当に有難うございます。お忙しい方なので、よもや開店祝いに来ていただけるとは思っておりませんでした」
桜は、サンの右手を両手で握りしめた。
「いや。ゲンがしつこくてね。それに、いろいろ因縁もあるので、来ないわけにはいかないよ」
「ママ、俺の言った通りになっただろう。しかし、時間を作るのには二人とも苦労したがね」
そう言って、ゲンは、桜に片目をつぶってみせた。
クラブの中は、豪華なイスやテーブル、広いフロアー、楽団の演奏場所、ビアノが置いてあった。
サンとゲンは、桜に連れられた、ソファーに座った。
ゲンの横に桜が、そして、サンの横に知らない女性がさっと座った。
桜は、丸顔で真っ赤な口紅をしていたが、その女性は少し面長の顔で薄いピンクの口紅をしていた。
長い髪が背中に流れ、ゆったりとしたピンクのワンピースの下には、細身の身体が透けて浮かびあがっている。
桜がその女性をサンに紹介した。
「サン様の隣の女の子は、小菊と申します。本名も同じです。私の実の妹でーす。
3つ年下で、いまチーママ修行中です。よろしくお願いしまーす」
「小菊でーす。サン様って、極楽グループの創立者様ですよね。お会いできて光栄です」
「小菊? うちらのいた学園の名前と同じだな。桜ママと知り合って、もう七年たつ。思えば、長い年月だったな。今では、ゲンの方が親密みたいだけど」
「まあー。そうですか。ゲンさんも隅におけませんね」
「まあ、まあ。勘弁、勘弁、皆でいじめないでくれよ」
ゲンは、照れて笑った。
「サン様も、ゲンさんも、とってもお偉いんですよね」
「偉くなんかないよ。ただ...」
サンは、少し間を置いた。
「二人とも一生懸命やってるだけだ。目標はまだ遥か先にあるので、何時までかかっても到着しない」
サンの目線は、遠くをみていた。
「サン、そうだな。今日まで歩いてきた道より、これからの方が長い道のりになりそうだ」
「まー。何兆円も売り上げのある会社のお偉い方が、そんなに遠くを見ていらっしゃるのですか。私には想像もつきませんわ」
小菊が心の底から驚いていた。この人たちの目標って一体なんなんだろう。
「サン様も、ゲンさんも、毎日大変でしょうけど。私たちの店をどうぞご贔屓にしてください。今日は、ご招待ですから。どんどん飲んでください。まみちゃん、ななちゃん。お酒を注いで頂戴」
桜が催促した。
20歳位の若いホステス達が、高級なブランデーをグラスに注ぎ、サンとゲンに差し出した。
34-4.スペースエッグの打上と無線給電の開始
量子コンピュータの存在が、世界の研究者に少しずつ知られてきた。
極楽大学や極楽医学研究所にノーベル賞級の研究者が集まって来た。
量子コンピュータを使用してデータや研究成果を高速に処理しなければ世界の競争相手を出し抜くことはできない。
彼らは専用のコンピュータ言語を使用し、前置コンピュータを操作することで、間接的に量子コンピュータを操作した。
使用者には、前置コンピュータが量子コンコンピピュータそのものに見えた。
その後ろの量子コンピュータは注意深く隠されていた。
平和28年10月 スペースエッグが毎日10分に1基、8時間で48基づつ打ち上げられていた。
もう14,000基を超えていた。
自動組立ロボットにより作られたスペースエッグは、当初1台2億円程の製作費だったが、2000万円を切るようになった。
機能は、スペースエッグ毎に異なったが、全て同じソフトウェアで制御された。
当然ではあるが、ソフトウェアの機能定義を一部または全てを変更すれば、別の機能に変貌することができた。
打上費用は、事実上ただの無限の電力で超伝導駆動し打上するので、ゼロに等しかった。
打ち上げシステムも自動化されていた。
確認と軌道の補正は世界ソフト(打上AI)が行っていた。
打ち上げスタッフは、事前の状況確認と打ち上げを映像とデータで確認するだけで済んだ。
スペースエッグの打ち上げは、ピストルの弾丸の発射に似ていた。
軌道は、ほとんど予定軌道を描いていたが、それでも微妙な誤差が生じた。
それをスペースエッグに搭載されている軌道修正用噴射装置で修正し予定の軌道に載せていた。
スペースエッグは、地上基地および他のスペースエッグとネットワークを形成し、電力の受信、他のスペースエッグへの電力転送、地上への電力送信、地上との交信、他のスペースエッグとの相互通信、高解像度のカメラによる監視を行っていた。
既に日本全土をスペースエッグのネットワークの網で網羅し、何時でも電磁波で日本の何処にでも電力を供給できる状態になっていた。
それどころか、スペースエッグのネットワークは、アジアの上空に伸び、モンゴルにも到達していた。
電力送信は、電磁波をあらかじめ登録された受信装置の位置へ、電磁波を送ることにより電力に変換し、eeggに蓄電させることで行った。
EV自動車や工場向けの受信装置は、薄い四角い箱のようなBOX型になっており、受信側の情報を送る送信装置も内蔵していた。
電子虫向けには、0.5㎝角以下のものが供給された。
電力は一度蓄電池に蓄電されてから使用された。極楽電池の高性能の蓄電池は威力を発揮した。
極楽電池のeeggは、軽くて、小さくて、大容量であった。
大型工場や大型蓄電システム向けには、大型の受信装置が使用された。
その年の11月1日、スペースエッグから、日本の電力会社の大規模蓄電装置への無線による給電が始まった。
もはや大規模蓄電装置に充電済みのeeggを交換する作業は必要でなくなった。
そして、工場や事業所、ビル、一般のマンション、住宅へも直接給電が始まった。
最初は、普及がそれほど進まなかったが、受信装置が無料で貸し出され、電力料金が他社よりかなり安いということが知れ渡ると、家庭や企業は、続々と契約するようになった。
日本に、無線による給電の時代が到来した。
もう、高圧の送電線や町の電線もいらない。発電所も変電所も電柱もいらない時代が来たのだ。
これから、極楽グループの売上は急激な増加を遂げていくことになる。
34-5.九州極楽会
12月のある夜更け、天国町のある建物に、三十名ほどの地元の青年たちが緊張した表情で座っていた。
一部には、十代の者もいた。
建物は、コンクリート打ちっぱなしで、薄汚れた室内であった。暖房は効いていたが、十分な温かさではなかった。
青年たちは、質素な服装だった。一部は服が汚れているものもいる。
その中の一人、吉永吉正は、最も汚い恰好をしていた。
服の袖が、ほつれて毛羽だっていた。
吉永吉正は、19歳だった。
高校を卒業すると、小さな町工場の労働者として働いていた。
彼は、何か明るい未来の到着を期待し九州極楽会に入会していた。
九州極楽会の話は、新鮮で、彼は毎日熱心に活動していた。楽しかった。
ドアが開いた。ゲンが手を振りながら入ってきた。
ゲンの後ろには、極楽学園の二期生の大柴 龍が続いて入ってきた。
大柴 龍は、21歳だった。
力強い大きな拍手が室内に轟いた。
「ゲン先生がお忙しい中、我々の為にご指導に来ていただきました」
司会のものが、元気よくゲンを紹介した。
青年たちは、ゲンの顔をよく知っていた。歓迎の拍手が響いた。
「皆さん、こんばんわ」
「こんばんわ」
元気の良い声が返ってきた。
青年たちの目が光り、ゲンを見つめていた。
ゲンは静かに話しはじめた。
「九州極楽会、天国支部の精鋭の皆さん、毎日の活動ご苦労様です。今日は、皆さんの使命と覚悟を確認にまいりました。
皆さん、君達活動家は精鋭中の精鋭です。
今は、苦学の人、生活が困難な人もいると思います。
サン先生は、皆さんに期待し、見守っていらっしゃいます。よろしいですか」
「ハイ」
力強い声が返ってきた。
「皆さんは精鋭中の精鋭ですから、ここだけの話をします。これから述べることは、一切他人に口外しないでください」
ゲンは、皆の顔を見渡した。皆は、真剣な顔で瞳は輝いていた。
しばらくしてゲンは、話出した。
「サン先生は、人類史上最高の知性です。仏様です。生き仏様です。神様です。そう言っても構わない方です。
先生の凄さは、なかなか理解することはできません。
世界は、強権国家や軍事独裁国家等、個人の人権が押さえつけられており人々は貧困に喘いでいます。
一方で、資本主義国家では一握りの人間に富が独占されており、人々は窮乏化しています。
また個人の争い、グループ間の争い、地域間の争い、国同士の戦争は、悲惨で終結する気配はありません。
なぜ戦争や争いが始まるのか、その原因は飢餓や貧困、資源争いです。戦争を無くすにはまず飢餓を無くし、資源が広く人々に行き渡って行かなくてはなりません。
独裁者や軍部が自己の欲望で暴走する事も防がなくてはなりません。
また宗教は人の心の問題です。それを超えて政治や経済や人権に過大な影響を与えてはいけません。
これらの問題に共通して存在する物があります。それは武器です。
サン先生は、『武器を無くさない限りこの世から悲惨な戦争を無くすことはできない。』と言っておられます。
このままでは争いはしばらく無くならないでしょう。
争いは武器でなく言論または選挙で解決すべきです。これを保証するものは一定の警察力です。
先生は、深くこの世界を眺められ、極楽世界の実現計画を設計されました。
先生は、必ず極楽世界を実現されます。
不肖、わたくし源も、一平卒として、先生の為に活動させていただいております。
皆さんも、先生の手足となって、戦ってください」
「ハイ」
力強い声が返ってきた。
「その為には、九州極楽会は、今後数年で九州だけで10万名の同志を集め、一大政治勢力にならなくてはなりません。皆さんは、天国町の外に展開し、活動家のリーダーとして、議員になったり、地方自治体の長になったり、各県市町村の公務員や立派な活動家に成長してもらいます。よろしいですか」
「ハイ」
力強い声が返ってきた。
「皆さんは、深く静かに、そしてエネルギッシュに活動し、九州極楽会を九州の社会の中に根付かせなくてはなりません。我々が側面から強力に支援します。
時間はありませんが、焦らず頑張っていきましょう」
「ハイ」
力強い声が返ってきた。
「困ったことがあれば、私の後ろにいる事務局長の大柴君に何でも相談してください。
彼は、皆さんの兄です。どんなことでも力になってくれます。何か質問はありますか」
「質問があります」
凛とした声が室内に広がった。
吉永吉正が手を挙げ、立ち上がった。
「吉永吉正と言います。私は20才で機械工場で働く労働者です。こんな私でも九州極楽会の役に立つのでしょうか。それと、極楽世界になるとどうなるのでしょうか」
ゲンと大柴龍は、吉永の眼をじっと見つめた。その眼の中にまっすぐな意思を感じた。
「吉永君。いい質問だ。君はかならず九州極楽会の役に立ち、必要不可欠の人間になります。
そして人類に貢献できる人になります。
極楽世界は、サンいやサン先生もおっしゃてるように、現在では考えられないような世界が実現します。
エネルギーはほぼ無料になり、食糧問題も解決します。武器は無くなり、世界から紛争や戦争はなくなります。教育も医療も無料になります。仕事にあぶれる事はなくなります。
人は自分だけの欲ではなく、名誉と人の為に生きるようになります。
真に公平な政治制度が実現し、政治的な争いで何も決められない政治はなくなります。
これを、夢物語だ、絵空事だと批判する者がたくさんいます。
でも、必ず実現します。
経済の分野で、極楽学園や極楽グループの企業が頑張っています。
必ずや、世界の重要な基幹分野を押さえます。
しかし、それを世界の列強諸国や国内の保守勢力がはたして指を銜(くわ)えて見ているでしょうか。
我々の想像もできない手段で妨害してくるでしょう。
我々は、彼らからみれば敵対勢力ですが、甘い蜜でもあります。
いかにそれに対して防御していくか、その力が九州極楽会です。
一人一人が、地域で頑張り、政治的な力を持ち、極楽世界の実現を推進してください。
皆さん、分かりましたか?」
「ハーイ」
立ち上がっていた、吉永の周りをその声が包み込んだ。
「吉永君、よく学び、よく動き、九州極楽会の闘士になりなさい」
「ハイ」
「困ったことがあれば、ここにいる大柴君に相談しなさい。どんな相談にも応じてくれます」
「ハイ。頑張って九州極楽会の闘士になります」
天国町の貧しい青年たちは、夜が更けるのも忘れ、ゲンの話に聞き入っていた。
建物の外には、本格的な冬の冷たい風が吹き荒れていた。
やがて初期の九州極楽会の会員は、かなりの者が極楽フーズグループの各チェーン店に入社し、九州各地で活動することになる。
極楽フーズグループは、九州各地に急激に、牛丼チェーンやハンバーグチェーン、レストランチェーン、居酒屋チェーン、を展開していった。
極楽農業から供給される農産物の加工も行った。
また、勉学のサポートを九州極楽会から受け、各地の役所に次々に就職していった。
さらにある者は、地域で熱心に九州極楽会への勧誘を行っていった。
さらにさらにある者は、地域の議員になり、地方自治体の長になっていった。
34-6.極楽グループの売上が、10兆円を超えた
平和28年12月、極楽グループの売上は、10兆円を超えた。粗利は、7兆円となった。
極楽発電が出来て6年目にして、極楽発電の売り上げは、4兆円を突破した。
極楽発電の純利益は、2兆円になり、世界の企業のベスト50の水準になった。
極楽グループが国や地方自治体へ納める税金が、1兆円になっていた。
極楽グループの従業員は、30,000名を超えた。特に増えたのは、極楽マートで、従業員が10,000名を超えた。海外進出し、国内店舗と合わせ300店舗を超えた。
海外進出の勢いは拍車がかかっていた。
極楽マートの売上は1.5兆円を超えた。営業利益は30%程で、グループ内では一番低かった。
極楽グループで唯一上場している極楽マートの株価は急騰していた。
時価総額はもう1兆円になり、日本の時価総額ランキングの200位水準になっていた。
これに続く規模のものは、極楽商事で5,000名であった。
これら全ての企業をサン達と極楽学園出身者の200名程でコントロールしていた。
極楽グループは、まだまだ極めて危うい運営を続けていた。
危うい中、極楽グループの売上は急激な増加を遂げていくことになる。
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