第33話 極楽市/モンゴル/農業工場
33-1.椎葉町が極楽市になった
平和28年の年が明けた。
極楽グループは、昨年、売上が7.7兆円を超え、約6兆円の粗利を達成した。
この内、極楽発電が国内の電力会社や直販で売電した売上が3兆円で、その80%が利益だった。
この利益率の高さがなければ、リニアモータも高速道路も宇宙エッグも作れなかっただろう。
それでも、資金繰りに苦労していた。あまりにも投資金額が大きいのだ。
2月になると椎葉町が市に昇格し、名前が極楽市になった。那須 富一郎が極楽市の初代市長になった。
椎葉駅も市昇格に伴い、極楽駅に改称した。
人口は、椎葉村の時の3,000人が、10,000人になっていた。
人口は、ますます増加していた。
富一郎市長は、『環境保護と人口制限』の条例を市議会で通過させ、極楽市の人口増加について厳しく制限を加えていた。
宮崎市や天国町から通ってくる技術者や研究者、サラリーマン、労働者により昼間人口は、数万人になっていた。この数は、日々増加していた。
極楽市は、鶴富屋敷を中心とした地域をそのままの状態で歴史保全地域として、厳しく管理し、新しい建築物の建設を許さなかった。
一方、新しい市街化地域は、上椎葉ダムから延びる国道265号線の井戸谷地区付近から南に「よこ井水」付近を経由して帯状に約5km設定された。
ここでは、高さ300mまでの建設を許可した。
しかも、地下は500mまでの建設許可を出した。
当然、地下の水脈を混乱させないのが大前提だった。
逆に、マンションは、低層の物を禁止し、高さ100m以上のもののみを許可し、建築物の数を少なくし、自然を保護しようとした。
しかも、建物から地下40mの地下街への接続も義務づけた。
この地下街は、極楽市が建設し、リニアモーターカーの極楽駅を始点に南に5km伸びていた。
幅は40mあり、中央には2本の動く歩道が設置されていた。
地下街には、椎葉市の公共施設をはじめ、商店街が作られていた。
高層商業ビルや高層駐車場ビル、地上の商店街等からの出入り口が接続されていた。
もちろん地下街にはリニアエレベータも100mおきに配置されていた。
極楽駅とマンションや各種のビル群は、地下街で結ばれた。
そして、各マンションとビルの各階と地下の公共施設部分の各地点は、リニアエレベータで連結された。
リニアエレベータは、リニアエッグの小型版で走行の原理は同じだ。
住民は、自分のマンションのフロアーのリニアエレベータから、ものの数分で、地下の公共施設部分を経由して極楽市の公共施設や商業施設、マンション、ビルに移動することができた。
買い物や用事を済ませると、リニアエレベータの場所に行けば、数分以内にエレベータ・カプセルが到着する。
乗り込んで「自宅に戻る」といえば声とIDネックレスと本人の映像から本人と認識して、直ぐに自分のマンションに戻ることができた。
つまり、極楽市の中心部が数分の行動圏になったのだ。
エレベータ・カプセルは、通常1名か家族またはグループが乗ることを前提にしていた。
当然ではあるが、定員をオーバした場合は、その人たちは次のリニアエレベータに乗ることになる。
リニアエレベータ網は、網の目状のパス(走路)で構成されていた。
リニアエレベータ網の1つのパス(走路)の中に複数のエレベータ・カプセルが同時に存在できた。エレベータ・カプセルはAIにより、最適な迂回路や複数のパス(走路)を経由し、目的地に最短での移動を行った。
空いているエレベータ・カプセルは、パスの中を移動しているか、待機所で待機した。
その結果、空いているエレベータ・カプセルは、呼ばれると最短距離で呼ばれた場所に移動できた。
通常は市民がエレベータの前に並ぶと、1分以内でエレベータ・カプセルが到着しドアが開いた。
普通は、個人または家族のグループ単位で利用した。知人と一緒に乗る時はリニアエレベータに向かってその旨を伝達する必要があった。無関係の他人と一緒に乗るのは原則禁止されていた。
勿論、セキュリティーは厳重だった。住民は全て認識タグ(IDネックレス)を肌身離さず持つことを義務付けられた。一部は認識タグをマイクロチップとして体に埋め込んでいるものもいた。
認識タグを持たないものは、リニアエレベータが搭乗を拒否した。
極楽市以外の訪問者は、あらかじめ極楽市に申請して認識タグ(IDネックレス)を受け取る必要があった。
申請者の利便性の為、宮崎市と天国町にも極楽市の出張所があり、申請された認識タグを発行していた。
リニアエレベータは、認識タグと予め登録された利用者の画像から本人の認識を行った。
さらに無人の自動運転の小型のバスが極楽駅を中心に極楽市全域へ拡がる交通網の構築が始まっていた。住民と極楽市への来訪者は無料で利用できた。
既に極楽市は、世界のどの都市とも異なるものとなった。
溢れる自然の中に、超未来都市が出現していた。
極楽市の中心部のどこへでも数分で行くことができ、距離感は喪失した。
極楽駅を中心として、帯状にマンションやビルが山の一部を削り、ほぼ200mの高さで、並んでいた。
極楽市の住民となる者は、厳しく制限されていた。
もともと椎葉村に住んでいた住民か、極楽学園出身者とその家族、そして4,000万円以上の収入のある技術者や科学者、会社員、労働者で椎葉市に住居を所有する者だけであった。
極楽市で働く技術者や研究者、サラリーマン、労働者の平均年収は、軽く2,000万円を超えていた。
高級技術者や研究者、金融関連の仕事をする者には、年収数千万を超えるものが続出していた。
これらの人々は、宮崎市の高級マンションや住宅に住んだり、人工島「ロータス・アイランド」の家を購入した。
さらに高収入の者は、極楽市のマンションを購入したり、人工島「ロータス・アイランド」の家を別荘にしていた。
日本中いや世界中から、高収入を目指して極楽市に住もうと目指し、結果として宮崎市に住むことになった。
それらより安い労働力しか提供できない人たちは、天国町や宮崎市周辺に住みついた。
極楽市長の富一郎は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校での郷土史や郷土愛の教育に力を注いだ。いわば、極楽市版愛国教育だった。
市内の学校では、極楽市の由来、郷土を守り抜く重要さが教育されていった。
ハイレベルの、科学者、医者従事者、研究者、技術者、教育者、労働者の、子弟の通う極楽市の学校の生徒は、異常な高知能を示していた。
個人の素質だけでなく、生徒間の自然な競争、恵まれたAI知的環境、そして極楽学園から漏れ出してくるさらに異常な知能の影響が、各個人の能力を日本の他の地域と隔絶した高さに高めていた。
15歳で極楽学園の教育課程を修了し、18歳で極楽塾(高校課程)を卒塾した者は、最初は、極楽グループの寮に入った。
最初の年は、どんな仕事の者も、年収が2,000万円だった。
彼らは、年間1億円の予算で特殊な訓練を受けていたので、その金額は当然と考えていた。
卒園生は、毎年年収の10%を極楽学園に寄付するのが習わしだった。
全ての卒園生は、それを実行した。
やがて、彼らは、極楽市のマンションを次々にローンで購入し、そこに住むようになっていった。
33-2.五ヶ瀬町に農業工場や水産工場・ロボット工場が出来た
農業工場や水産工場、ロボット工場、研究用ビルは、工業地域としてマンションや商業地域とは別に高千穂町の近くの五ヶ瀬町方向に作られていた。
五ヶ瀬町は、極楽市よりわずかに平坦地が多かったが、急峻な地形ではあった。
五ヶ瀬町も極楽グループに協力的であった。
マンションやビル、工場のほとんどを極楽不動産が発注し極楽建設が建設した。
威力を発揮したのが垂直型のレーザ式シールドマシンだった。
従来の方式での建設の10倍以上のスピードで掘り抜き、しかも天国町から通勤してくる、意欲的で体力のある若い労働者が、6時間毎の4交代で作業した。
農業工場や水産工場は、地上部は30m程で、直径100m、300階で高さ3m、地下は920mまで建造されていた。
地上部は、主に事務と出荷部門、資材の調達部門であった。
建物の最下部は貯水槽や浄水装置で、最上部には空気清浄装置、eegg、その他の制御装置が置かれ、建物の最上部と最下部は曲面で閉じられ全体としては、カプセルや繭のような形状になっていた。
外壁部は、強固な鉄筋コンクリートの支柱がウニの棘のように岩盤に食い込み、さらにゴム状の緩衝材が地震の振動を吸収する構造を持っていた。震度8の地震でもほとんど揺れを感じない免震構造になっていた。
電源や給電、空調、照明、水道、下水は三重化され、独立した三系統が動作可能になっていた。
建物の外部環境がいかなる状態になっても単体で動作可能なようになっていた。
地上部は、円筒状で、通常は地下と結ばれていた。
農業自動システムでは農業ロボットにより種をまかれ、栽培され、収穫され、出荷用の箱や筐体に詰め込まれた、そしてそれらはカプセルに入れられ時速1200kmの物流リニアエッグにより輸送され、宮崎市の輸送基地に10分以内に転送された。
それらすべてが世界ソフトにより自動的になされ、まったく人手を介されなかった。
しかも、LED照明や肥料の管理、水の管理がなされ、24時間植物に最適な環境で育てられ、栽培期間は短く、年に何回も栽培された。稲作の場合は、年に4期作となった。
栽培される植物の一回の栽培当たり収穫量も露地栽培の2倍以上となった。
地下に極めて広大な農地が出現したのと同じだった。
半径100mの円筒で300階あり、一棟あたり、942ヘクタールの農地面積であった。
農業工場で全て米を栽培したとすれば、わずか24棟で日本の人口全ての生産が可能な時代がやって来たのだ。
水産工場も同様だった。300階あり地下に広大な海が出現したようなものだった。
高さは、3mや数mの階があった。そこでは、卵から稚魚、成魚へとストレスの無い環境で育てられていった。
一部では産卵まで行われた。
さすがに全自動は無理で、人の手による作業もあったが、できるだけ自動化されていた。
魚や貝はカプセルに入れられリニアエッグにより輸送され、宮崎市の輸送基地に10分以内に転送された。そこで、生きたまま高速船やトラックで運ばれたり、加工工場に転送されたりした。
天国町の労働者は、リニアエッグや高速道路の高速バスで、宮崎市の工場にも働きに出ていた。
これらの農業や漁業の工場は、1棟単位にAIが管理・運営・監視し、モニター担当の人間が24時間体制でそれを監視していた。
さらに全ての工場のモニタリングの状況を、極楽モニターセンターで24時間体制でチェックされていた。
その中に、重度の身体的障害の伊藤 綾がいた。
極楽学園の卒園生の訓練された能力は驚異的であったが、伊藤 綾の画像解析能力は飛びぬけていた。通常の人間では判断できないトラブルを映像の中から瞬間に見出し予知し、コンピュータに指示を出した。しかも、複数の画面のトラブルを同時に検出することができた。
人類最高レベルのパターン判断知性を有していると、彼女の能力を検査した科学者は結論付けた。
五ヶ瀬町のロボット工場は、極楽ロボットの三池淡交がロボット組立の責任者になっていた。
生産数の多いロボットは各々個別のラインで生産し、生産数の少ないロボットは1つのラインで多様なロボットを生産した。
「三池さん、製造ラインもかなり完成しましたね」
システム工学の鳥山が、三池の所に視察でやって来た。
「ありがとうございます。漸くシステムが安定して動くようになりました。
鳥山さんのご指導のおかげです」
「いやいや君たちの奮闘の結果ですよ。しかしこれからが大変ですよ。生産数目標が急激に増加しますし、ロボットの種類も大幅に増やさないといけない。生産の管理体制をさらに充実させる必要がありますな」
「まさしくおっしゃる通りです。鳥山さん達のご指導やご提案をお願い致します。極楽グループの生産性アップの為には我々の責任は大きいと自覚しております」
「その意気で頑張ってください。ハジメ社長にも順調だと報告しておきます」
「よろしくお願いします」
三池は深々と頭を下げた。
33-3.モンゴルにゲンと啓達が行った
平和28年3月、モンゴルのウランバートルのチンギスハーン国際空港に一機の自家用ジェット機が着陸した。
機体には、金色のハスの花が描いてある。極楽グループのシンボルマークだった。
ハスの花はまだつぼみで、極楽学園のハスのマークより丸く描かれていた。
しかも極楽学園のハスのマークは、ピンクなのに、極楽グループのマークは、金色のハスの花だった。
着陸したのは極楽グループ所有の自家用ジェット機だった。
ゲンと啓を先頭に、十数名の者たちがタラップを降りてきた。
極楽グループが、1つの案件でこれほど多くの人員を派遣することはかつてなかった。
今回が初めてだった。
モンゴルへの入国手続きはあっけないほど早く終わった。一行がロビーに出ると、大勢の旅行者を出迎える人の人垣があった。
その中に大柄のモンゴル人の男と男より少し小さな日本人がいた。
モンゴル人の男がゲンの手をしっかりと握った。
「ゲンさん、お待ちしていました」
「ボルドさん。お久ぶりです」
男は流ちょうな日本語で喋った。
男は昔、日本で相撲取りをやり、三役まで出世した。
今では、モンゴルと日本を股にかけ手広くビジネスを展開していた。
今のモンゴル大統領が、相撲で横綱まで上り詰めた人物なので、ボルドに仲介とコンサルタントを依頼したのだ。
男は啓にも握手した。
「啓さん、お待ちしていました」
「ボルドさん。お久ぶりです」
「黒木君、ご苦労さん」
ゲンが、ボルドの横にいた若い日本人に話した。
黒木は、極楽学園の卒園生で、極楽グループで唯一のモンゴル駐在員だった。
「はい、お待ちしていました。外に車が用意してあります」
外に出ると、黒塗りのリムジンと数台の高級車が並んでいた。
この日の為に、極楽グループが日本から持ち込んでいたものだ。
ゲンと啓、ボルド、黒木がリムジンに乗り込んだ。
車が発車すると、黒木が話し出した。
「ボルドさんのおかげで、モンゴルの外務省やエネルギー省の大臣との会議が開催できます。大統領にもお会いできるそうです」
「ボルドさん、本当にありがとうございます」
ゲンが、にこやかに笑ってお礼をいった。
「いや。大統領とは、相撲時代からの付き合いですから、軽いもんです」
ボルドが大きな声で笑った。
「ゲンさんと啓さんの提案には、驚きました。一企業グループが、大きな国の援助を遥かに超える数字を出してきたので、信じない大臣がいます。それが心配ですわ」
「ボルドさん、そうした心配は当然です。私たちは、運命共同体として協力して発展していきたいのです。」
啓が発言した。
「わかります。私は大いにサポートしますよ。これは私のビジネスにとっても、最大のチャンスです」
ボルドは、すっかり商売人の顔になっていた。
外務省の会議室に行くと、外務省の大臣とエネルギー省大臣がいた。そのほか官僚が座っていた。
ゲンと啓、ボルド、黒木だけが、会議に参加した。
他の随行員は、車で別の場所に向かっていた。
ボルドがゲンと啓を挨拶した。
「こちらが、極楽グループの源大さんと神武啓さんです」
ゲンと啓が名刺を渡すと、直ぐに会議がはじまった。
最初にゲンが口火を切った。
「本日は、わざわざ会議を開いていただき誠にありがとうございます。我々は、皆様の国に投資とささやかな援助をお送りしたいと思います」
外務大臣が発言した。
「申し出の提案は、非常に驚くべきことである。破天狼といっても良い。それだけの援助を行い、貴方達は何か得るものがあるのか。また果たして本当に実行可能なのか。もう一度説明してほしい」
啓が回答し始めた。
「本提案の概略は、ご提案書に述べておる通りですが、改めて概略を説明します。本提案は、極楽グループが、モンゴル政府に対し、10年間で1,000億ドルの援助をいたしたい。その内の50%は、電力で提供いたします。供給方式は、宇宙からの直接的な無線による送電です。
一部の蓄電設備を除き、送電所、変電所の新たな設備投資は必要ありません。
各建物、住居に受信装置を設置するだけです。
受信装置も援助の一部として提供いたします。
代わりとして、2万平方キロ程の土地、我が国の四国と同程度の広さですが、これを200年間貸与していただきたい。
場所は、内モンゴルに近い荒れ地で結構です。
さらに、レアメタル等の採掘権をいただきたい。
借用地では、近い将来、穀物や野菜を栽培し御国に供給いたします。また、工業製品を製造する工場も建てますので、かなりの雇用を御国の労働者に提供できます」
エネルギー省の大臣が発言した。
「非常に画期的なご提案であり、我が国に有利な条件と思えます。しかし、失礼ですが、貴社の年間売り上げは、数兆円規模と聞いています。年間約100億ドル、約1兆円の援助は実施できますか」
「昨年が約7.7兆円の売上です。今年は、約12兆円以上の売り上げを見込んでいます。来年は、倍増の約22兆円になる予定です。純利益は50%の見込みです。援助の資金としては十分実施可能とみています」
啓が答えた。
「分かりました。非常に期待したい。借地の問題は大統領に報告してありますが、了解を取る必要があります。何かほかにも条件がありますかな」
エネルギー省の大臣が問いかけた。
「それにつきましては、まず大統領とお会いする場でお話ししたい。一つ言えますのは、貴方達の国、モンゴルが、ますます近代化され、かつてのような強力な国になる為のお手伝いをしたいと熱望しております」
「それは、誠にうれしいことです。大統領にお話し、了解がとれれば、速やかに契約に調印したい」
会議は、速やかに終了した。
ゲンと啓たちは、リムジンで大統領官邸に向かった。
30分ほど待たされた後、大統領が謁見の間に入ってきた。
巨体を揺らしながら歩く姿は、かつての横綱の姿を彷彿とさせた。
「私が、ゲンドゥンだ」
大統領は日本語で話した。
低い声で、眉毛が吊り上り、隆々とした頬の筋肉が盛り上がり、丸い顔は少し怒っているように見えた。
「私は、今回の契約に反対だ。私は、日本人が大嫌いだ。特にマスコミは敵だ」
鬼の形相だった。
全員、固まった。
誰も発言するものはいなかった。
ゲンも啓も、ただただ大統領を見つめるしかなかった。
大統領は、固まっている人々を、ゆっくり眺めまわした。
鬼の形相が少しずつ壊れ、笑った顔になっていった。
「ごめん、ごめん。冗談、冗談」
まだ、皆は固まっていた。
「冗談だよ。冗談。皆さん、有難う。ようこそ、モンゴルにいらっしゃいました。大歓迎します」
大統領が、ゲンと握手した。
「大統領、お会いできて光栄です」
次に、啓と握手した。
「大統領、私もお会いできて光栄です」
二人とも、本当にそう思った。
「報告は、受けました。私は、大賛成です。喜んで皆さんを歓迎いたします。明日面白いものを見せてくれるということですが、楽しみにしています」
「実は、援助計画と借地の問題だけが、今回訪問の目的ではありません。さらに重要な要件でまいりました」
ゲンは真剣な顔で話出した。
翌日、モンゴルの航空基地に天空から三筋の光が落ちた。
33-4.モンゴル大統領が極楽市にやってきた
3カ月後の6月、モンゴル大統領が日本を訪問した。
東京での公的行事を済ませると、極楽市にやってきた。
そして、サンの自宅にやってきた。
サンとゲン、啓が会議室で待っているところに、大統領が一人で入ってきた。
従者たちは、控えの間に待たせていたのだ。
「いやー。リニアエッグは素晴らしいですな。私も昔、新幹線を頻繁に使用していたが、あれより遥かに速い。極楽グループが単独で作られたのですな。なんという技術力と資金力なのか、感服した」
「大統領、恐れ入ります。いずれは、ウランバートルまで繋がる日を迎えたいものです」
サンは、大統領と握手した。
「そ、それは良いアイデアだ。なんとしても実現したいものだ」
「大統領が来ていただく日を、一日千秋の思いでお待ちしておりました」
「私は、日本中から石を投げられて、モンゴルに戻りました。いまでも私を歓迎していただく人が日本にもいて、非常に感激しています。私は今日、腹を割って話す用意をしてきました。直ぐに本論に入りましょう」
「大統領、有難うございます。それでは、ご提案とプランを説明させていただきます」
翌日、モンゴル大統領は、極楽グループと複数の長期計画の契約書にサインした。
主な契約内容は、極楽グループからモンゴルへの1,000億ドルの無償融資。
融資の50%は、電気での提供であった。
モンゴルから極楽グループへは、レアメタルや鉱山の発掘権と、極楽企画に対して四国程の土地約2万平方キロの200年間の借用地の無償提供であった。
そしてモンゴル大統領は、喜びの中にも厳しい顔で、宮崎国際空港から、モンゴルの地に帰っていった。
その後、モンゴル国政府は、7ヶ年計画を発表した。主な骨子は次の通りであった。
・国民の所得の倍増、1万ドルに。
・教育の完全無償化(幼稚園から大学まで)
・コンピュータ教育の充実
・人口を300万人から600万人に倍増する
・医療の完全無料化
・IT化の推進
・軍備の増強
・兵隊の増強
やがてモンゴル政府は、旧式の戦闘機やプロペラ式航空機、旧式の戦車、旧式の装甲車、旧式の武器等を世界各国から安価に購入し始めた。
近代的な装備やミサイルは購入しなかった。
周りの国からは、旧式の装備を中傷され笑われた。戦力的には全く相手にもならない戦力と判断された。
モンゴルでは、近代的な装備の実現はとても財政的に不可能であった。
しかし、こつこつと車両の数を増やし改修・保守技術を磨いていった。
操縦装置は、完全に電子化し、砲弾の命中率はほぼ100%となった。
装甲も大幅に軽量化し強化した。
そして、軍事訓練・教育も次第にIT化し、質が向上していった。
軍隊の数も増加した。
33-5.エリアG1
モンゴルからの借用地は、エリアG1と名付けられた。Gは、極楽の略称であった。
モンゴルの首都のウランバートルからほぼ真南に、約400km離れていた。
荒涼たる山岳地域で、川も無くまったく農業には不向きで、草もそれほど生えてなく牧畜にも不向きだった。地下資源もほとんど無く、近くに町や道路すらなかった。内モンゴルにも近かった。
必要な水は、地下のわずかな水を何度も再循環して使用するしかなかった。
何にも使えそうもない荒れた大地が広がっていた。
そうした地域が貸し与えられた。
エリアG1には、最初に4,000m級の滑走路が2本作られた。
そして、宮崎国際空港から輸送機や航空機で、大量の資材や多数の技術者が送り込まれた。
技術者や労働者用の円柱形の宿泊用ビルが極楽建設により作られていった。
大量の建築用ロボットも送り込まれた。
作業用の電源は、充電済みの大型のeegg(イーグ)が何個も、宮崎から運ばれ、設置された。
これで、当面の電力はカバーされた。
大型eegg(イーグ)は、スペースエッグからの電力受信時には、電力供給用蓄電装置となり、逆にエリアG1からスペースエッグへ送電する予定だった。
航空機工場が作られ、空港から何キロも離れた所に実験棟や各種の加工工場、ロボット製造工場が地下に建設され、スペースエッグからの電力受信装置も作られた。そして巨大な蓄電装置が地中に作られた。もしも極楽市の送電装置に何らかの異常が発生した場合、3年間も世界中に給電できるだけの電気を蓄電できた。そして世界中に送電できる送電装置も設置された。
さらに、ガソリンの自動車や装甲車を、電気式に変換する工場が作られた。
そして航空機工場も作られた。
いずれも大部分は地中に存在し、地上部はごくわずかだった。
そしてそれらの施設は、人員や荷物の輸送用ミニリニアエッグで結ばれた。
まさしくミニ極楽市がここに作られていた。
しかし、ほとんどの重要施設は、地中に存在していた。
水は、地下水を取込み、使用した水はリサイクルして何度も使えるようになっていた。これで、自動農業工場から大量の農作物を生産した。
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