第28話 リニアエッグ路線の開発計画
28-1.行雄の誕生
平和25年2月17日
サンの二男が生まれた。行雄と名付けられた。
その時、美智は2才で、静雄は1才になっていた。
美智と静雄は、極楽学園に預けられていた。
水平式レーザシールドマシンは、掘削しながら、あらかじめ作成しておいた電源ケーブルや空調用バルブ、水道用バルブ、通信ケーブルなどを組込んだコンクリートのパーツを側面に貼り付けられるようになっていた。
パーツは積み木の要領だ。ケーブルやバルブは、自動連結器が自動で連結し、状態をチェックした。人の手ではとても及ばない効率と厳密さを実現した。
垂直式レーザシールドマシンは、掘削の性能も今までのものを遥かに凌駕していた。
掘削が予定の深度に達すると、地上から降ろされてきた側壁を自動で組み立て、上に移動していった。
シールドマシンが地上に上がると、垂直組み立て機が入れ替わり側壁にビルの各階を組立てていった。
ものを組み立てるシステムとしても、画期的なものであった。
地中のビルを建設する効率は、今までの10倍、いやパーツ構築するスピードを勘案すると100倍であった。
十分なパーツの準備を行っておけば、トンネルや地下の自動農場工場や高層ビルの建設が、飛躍的に早くなり、画期的に安い費用でできるようになった。
まだひ弱な極楽グループにとって、待ちに待ったマシンだった。
28-2.広報担当
極楽グループの月商は、1,700億円になった。そのほとんどが利益だった。
利益は、研究と再投資に振り向けられた。
もはや、地方の小さな存在でなくなった。極楽グループは、目立つ存在になった。
サンとゲンが現状について相談していた。
「ゲン、いよいよ『第350号作戦』を実行する時が来た」
「うむ、マスコミを抑えないとまずいな」
「二期生の垣添 湊(かきぞえ みなと)にやらせよう。実は、もうかなりシュミレーションさせて、訓練させてる」
「サンわかった。できるだけ訓練が完了したら直ちに担当させよう」
19歳??になったばかりの一期生の垣添 裕太(かきぞえ ゆうた)が、広報・宣伝担当に抜擢された。
まず、TVや新聞、WEBに人材募集や大人しくあまり内容の無い広告を載せることにした。
TVのローカル番組の提供会社の1つにもなった。
広告会社の担当者は、垣添のあまりの若さに面喰い、不審に思ったが、金払いの良さに組み易しと思った。
さらに、東京のタブライト誌や、二流、三流の雑誌や週刊誌にも広告を出した。
ゲンからは、『阿保になって、金を使え』と、厳命されていた。
効果はてきめんだった。
求人宣伝効果と通常の1.5倍から2倍の給料に惹かれ、日本中から優秀な人材が集まりだした。
あまりの応募数に対応する為、「極楽人材」という会社を作り、面接や試験をやらせることにした。マコトが社長になり、極楽グループの全社の求人を請け負った。
分野毎に、インターネットで試験をし、篩いをかけた。
AIで面談し人格と将来性を判断させ、最終的に優秀な者だけを面接した。
「とにかく、目がギラギラした奴をどんどん選べ」
ゲンは、マコトにはっぱをかけた。
特別に優秀な技術者や研究者の面接のときには、啓が出席した。
こうして、優秀な技術者や研究者、才に長けた目のギラギラした研究者や技術者や労働者が、日本全国と世界各国から集まり始めた。
28-3.記者会見
平和25年2月15日、西国原知事と、啓が、計画発表の場にいた。
知事が、発表文を見ながら、口を開いた。
「えー。皆さま、本日は、宮崎県にとって非常に重要な建設計画を発表いたします。
極楽企画様からは、啓社長殿に同席頂いております。
さてお手元に資料は配布されておると思いますが、本日、平和25年2月15日、宮崎県と極楽企画は高速道路、地下リニアモーターカーの建設に関し、契約を調印しました。
また、宮崎県と極楽土地は宮崎市一つ葉沖の人工島建設契約に調印しました。
まず、地下リニアモーターカーは、宮崎市と椎葉村との間の直線距離約65kmで、全て地下トンネルとなります。旅客用トンネルを地下50mに、貨物用トンネルを地下80mに、建設します。
地下リニアモーターカーは、超電導方式で、旅客用が時速600km、貨物用が時速1,000kmです。
貨物用は亜真空チューブで走行します。
乗客用リニアモーターカーは、宮崎市と椎葉村を約7分で結び、複線化します。
路線の関係市町村から、この路線に絡む土地関係の権利を全て無償とさせる旨の了承を取っています。
完成予定日は、乗客用リニアモーターカーが平和26年4月1日。物流用はそれより早い、平和26年2月15日です。
この、建設費用は、約1兆円、全額極楽企画が負担します」
記者の中から、「おー」という、驚きの声が上がった。
「次に、有料道路ですが、名称は『極楽高速道』とします。こちらも、宮崎市と椎葉村との間を結びます。
山間部が多いですので、全線ほぼ地下トンネルとなります。東九州自動車道の西都市付近から分岐させ、工事区間は約55kmです。
総延長55km、片道2車線です。最高時速180km。宮崎市と椎葉村を約20分でいけます」
またも、「おー」という、驚きの声が上がった。
「極楽高速道の建設費用は、約3,200億円、宮崎県と関係市町村が費用の25%、を極楽企画が75%を負担します。
有料道路の運営は、極楽企画に委託します。平和26年1月4日完成予定です。
人工島につきましては、第1期計画として、1,000戸の住宅地域およびリゾート地域を建設します。
以上です。後は資料を読んでください。質問はありますか」
地元の日向新報の記者が手を上げた。
「県は、いままで、いろんな公共施設を建設しては赤字に陥っていましたが、今度も赤字にならない保証はありますか。だいたい椎葉村に高速道路を作っても、イノシシか狸が通るだけじゃないですか」
そこかしこから笑い声がした。
西国原知事は、想定の範囲内の質問だったので、用意していたメモを読み上げた。
「椎葉村の現状を見れば、その通りでしょう。今後、椎葉村で『新都市整備計画』が発表されると聞いとります。計画人口では、椎葉村が10万人。周辺部からの昼間の流動人口が20万人と伺っています。
宮崎県全体への経済波及効果は膨大な物があります。もし仮に、赤字に陥った場合は、経営主体は極楽グループですので、県や市町村には、一切経済的損失の出ない契約になっております」
日本経済ジャーナルの記者が手を上げた。
「まったく、国の予算が入っていないようですが。知事は、国に協力を依頼したのですか。」
「総理大臣をはじめ、各官庁、各政党に何度も陳情し、相談いたしました。計画の趣旨には賛成いただけましたが、現在の我が国の困難な財政事情から、予算を頂くことはできませんでした」
「それこそ、無謀な計画の証拠じゃないですか。そもそも、極楽企画とはどういった会社ですか。我々の調査では、昨年の極楽グループ全体の売上は、八千億円程度ですよ。これで計画の遂行は可能なんですか。失敗したら、知事、責任を取られますか」
「責任は取ります」
またもや、「おー」という、驚きの声が上がった。
「私の政治生命をかけて、計画を実施します。極楽企画は、潤沢な資金を持っております。
外部からの借り入れは、ほとんど無しで、自前で資金調達すると説明を受けています。
私は、それに納得しちょります」
宮崎フェニックスTVの女性記者が挙手した。
「極楽企画の神武 啓社長にお聞きします。お歳は何歳ですか」
また、いつもの質問だった。
啓が、マイクに向かった。
「私は、21歳です」
またもや、「おー」という、驚きの声が上がった。普通ならまだ大学生だ。
「非常にお若いですが。本当に極楽企画と極楽グループを掌握されておられるのでしょうか」
辛辣な質問だった。
「私が、極楽グループの全てを掌握しているわけではありません。代表者は、あくまでも兄の神武 燦(じんむ あきら)です。
私は、自分の職務を精一杯担当しているだけです」
「わかりました。では次の質問です。
なぜ、極楽グループの最高責任者の神武 燦(じんむ あきら)会長は、この席に出席されていないのですか。
もう一点、乗客用リニアモーターカーが平和26年の開通で、1年後ですがあまりにも短期間です。本当にこれで完成できますでしょうか」
啓が、マイクに向かった。
「お答えいたします。神武 燦(じんむ あきら)会長は、研究者ですので、通常はこうした席には、出てまいりません。私が、全面的に責任をもって対応しております。
乗客用リニアモーターカーの開通時期ですが、1年後では、短期間ではないかというご意見ですが、私どもは、決して短期間だと思っておりません。
私どもグループでは、新型のレーザ式シールドマシンを既に開発しております。
この機械は、月進5,000mを達成しており、従来の機械に比べ10倍以上の性能を持っております。
リニアモーターカーと高速道路は、共に数十km程ですので、複数のシールドマシンを
使用すれば、1年以内に十分に掘削可能です」
日本経済ジャーナルの記者が手を上げた。
「建設費用は、リニア路線と高速道路の合計で約1兆3,200億円というのは、計画の規模からいってあまりにも少ないように思えます。その金額で果たして計画が実現できるのでしょうか。
それに、失礼ですが約1兆3,200億円という額は、御社の経営規模からいって負担する額としては過大ではありませんか。大丈夫なんですか」
辛辣な質問だったが、これも想定内の質問だった。
「お答えいたします。まず1兆3,200億円という額は、決して当社にとって過大な金額と思っておりません。
昨年は、売上合計、8,600億円、営業利益は7,000億です。本年は、売上が2兆4千億円を予定し、
来年は、売上は5兆円億弱を目指しています。
資金的には十分と考えています」
「おー」という、驚きの声が上がった。あまりにも強気な見通しだった。
「1兆3,200億円というのは、計画の規模からいって少ないというご意見ですが、高性能の自社開発のシールドマシンを使いますので、工事期間が非常に短期間となっています。十分にこの費用と期間で開発が可能です」
啓にフラッシュの光が連続して当り、その姿が光の中に浮かんだ。
サン、ゲン、啓たちが企業活動開始してから実質3年。名前も知られない極楽グループが、全国区になった瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます