第19話 一期生と卒園式そして農業工場
19-1.一期生の卒園式
平和24年3月15日、極楽学園の初めての卒園式が行われた。
壇上に、サン、幸、啓、ゲンが座っていた。
10名の卒園生が、立っていた。全員17歳だった。
全員入園の時に優秀な成績だった。極楽グループの貴重な戦力として短期間の教育に耐えるうる人材だった。
一人の少女が演台に進んで、一礼した。
「私は、一期生の、山田麗です。
今日、懐かしい学園を旅立ちます。
私たち一期生は、わずか1年という、短い期間でしたが、極楽学園の思い出は、一生忘れませ~ん。
わずか1年で、私たち一期生は、10年分の思い出を作りました。そして成長しました。
私たち一期生を慈しみ育てていただいた、お父様、お母様、本当に有難うございました」
山田麗は、目に涙を浮かべていた。
「そして、学園の理事の皆さま、先生方、スタッフの皆さま、本当に有難うございました。
私たちは、極楽世界を作る戦士です。めそめそなんかしておられません。
お父様の先兵となって、社会の中で戦って参ります。
お父様の為に、命をかけて戦って参ります。
そして後輩の皆さん、戦いの戦線に続々と参加してください。
私たち一期生は、極楽への道を静かに行き、路傍の石となります。
以上で、卒園生を代表して、決意発表を終わります」
会場から、万雷の拍手が轟き渡った。
後輩たちは、涙を浮かべ、ハンカチで目を拭いているものもいた。
スピーカから声がした。
「学園副園長、源先生からお話があります」
会場から、大きな拍手が轟き渡った。
ゲンが、演台に向った。
「エヘン」
ゲンが咳払いした。
「誉れある一期生の皆さん。卒園おめでとう。
君たちは、お父様に見守られ、本日、極楽学園を卒園していきます。
1年間という、短い期間ではありましたが、栄光ある極楽学園の一期生として、後に続く学園生の模範として、また礎として、卒園後も研鑽に努め、極楽世界の建設の為、極楽の戦士として悔いのない戦いを望みます。」
ゲンは、プロンプターを見ながら話していたので、流暢に話しを進めていった。
「お父様は、世界の歴史上で最も優れた方です。この世界に、永遠のエネルギーをもたらせました。お父様のご指導のもと、この世に極楽世界を作り上げる事が可能になったのです。
いえ、極楽世界はもう既に存在します。この極楽学園がそれです。
皆さんには、両親がいません。社会から虐げられ、差別され、十分な庇護も受けていませんでした。
それを救ってくださったのが、お父様です。
お父様は、君たちに、お母様を、学園の兄弟を、十分な食事を、着物を、住む所を、そして世界最高の教育環境を与えて下さりました。
私たちは、成長し、お父様の期待に十分そえるよう努力しなくてはなりません。
それでは、極楽世界とはいったい何でしょうか。
それは、全ての人々が、飢えることがなく、住居があり、教育を受け、十分な医療を受け、争いは無く、武器もなく、戦争も軍隊もない世界です。
それを作るのが、諸君です。極楽学園生です。
諸君が、巣立ち、極楽グループの一員として、世界を変えていくことにより、極楽世界は、実現します。
皆さんの奮闘を期待します。以上」
ゲンは、頭を深々と下げ、席に戻って行った。
スピーカから声がした。
「お父様からお話があります」
会場から、さらに大きな拍手が轟き渡った。
サンが、演台に向った。
「誉れある一期生の皆さん。卒園おめでとう。
極楽学園の生徒の皆さん。誉れある一期生の先輩を祝福してあげてください」
会場から、さらに大きな拍手が轟き渡った。
「君たち一期生は、いよいよ戦いの第一線に出ます。君たちはまだまだ研鑽を積んで行かなくてはなりませんが、戦場は待ってくれません。一期生の諸君は貴重な戦力です。
一期生をはじめとする全ての極楽学園生は、極楽世界を作る為、また極楽学園の兄弟を守る為、研鑽に研鑽に重ね、極楽の戦士に成長してください。」
会場から、『ハーイ』という声が轟いた。
「一期生の諸君も自覚している通り、優秀な先生たちの教育とOWL(アウル)の助けで、君たちの学習は、通常の2倍以上のスピードで進んでいます。
私たちはこれから、画期的な機械や製品、システムを開発し世の中に供給していきます。
君らが陸続と、世界を変える戦いの戦士となることを望みます。
君らには、両親がいません。しかし、私が貴方達の本当の父親です。
全ての苦しみ、悲しみ、喜びを、OWL(アウル)を通して、私に相談してください。
私は、断じて君らを見捨てる事はありません。安心して、自分の研鑽に励んでください。
さあ、今日から共々に、極楽世界建設の戦いを展開しましょう」
学園生の目から涙が、次々に流れ落ちた。
この時、サンは、22歳、ゲンは、25歳、啓は、20歳だった。
このように、サンとゲンと啓は、極楽学園の教育方向を確定した。
すなわち、極楽グループは、極楽世界を構築する組織であり、極楽学園は、そこに戦士を送り込むため教育機関となった。
19-2.水谷 仁が農業大学校へ
貴重な10名の卒園生の中から、水谷 仁が、「ひむか農業大学校」に進学した。
農業全般と水耕農業を学ぶ為だった。
水谷 仁は、極めて優秀な学業成績であったが、ひむか農業大学校を卒業することはなかった。
12月になると、ひむか農業大学校を退学し、出来たばかりの極楽農園の最初の社員になった。
水谷が戻ってきた日、質素な極楽農園の会議室でサンとゲンと社長のシュンが水谷を待っていた。
会議室に入ってきた水谷は、創業者達に迎えられて一瞬驚いた顔になった。
「水谷 仁です。ひむか農業大学校から戻りました」
「水谷君、ご苦労さんでした。農業をよく研究してきたと報告を受けています」
サンがにこやかに話しだした。
「まだまだ勉強中です。私は、これからどんな事をやっていくのでしょうか?」
「水谷君には全自動の農業工場を研究し、構築してもらいます。具体的には源極楽農園会長と大木俊極楽農園社長の指示とサポートを受けて完全自動化の農業工場を作ってください」
「水谷君、俺たちがサポートしますので、まずはサンいや創立者の農業工場の基本構想書を見て具体化してください」
ゲンが発言した。
「はい」
水谷が元気よく答えた。
サンが続けて話し出した。
「水谷君、完全自動化の農業工場には極めて重大な目標があります。まず初期段階で通常の収穫量の10倍の効率を目指します。
完全に閉じた空間の中で、LEDによる光源調整や水耕により、最適な肥料、優れた早生の種で多期作を行い、生産性をあげます。
種蒔きや収穫も人手を介さず自動で行います。
米作以外に小麦、野菜、その他飼料作物も栽培します。
軌道に乗ったら、さらに100倍の効率を目指します」
目標があまりにも大きかった。
「本当にそのようなものが出来るのでしょうか?」
水谷は困惑して聞いた。
「水谷君、完全自動化の農業工場を実現しないと人類の食料問題は解決しません!
今でも食料不足に苦しむ人々が沢山おり、飢餓で亡くなる人もいます。
何としてもこの問題を解決したいのです」
サンは食べ物の不足に苦しんでいた小学生の自分を思い出していた。
「創立者、私の自覚が足りなかったことをお詫びいたします。今日より研究に没頭して完全自動化の農業工場を実現させていただきます」
水谷は、心の底からの言葉を発した。
「水谷君、俺らも十分にサポートしますから安心して研究してください」
シュンも水谷の決意に喜んでいた。
農業工場は、極楽グループの総力を挙げて開発されることになった。
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