第18話 レーザシールドマシン

18-1.極楽会


平和24年1月4日午前9時、一期生の山田麗は、緊張してPCタブレットの前に座っていた。

「繁爺(しげじい)、この部屋をロックして」

カチッと部屋が閉まる音が聞こえた。

もう、誰も山田麗の部屋に入ることはできない。

3Dディスプレイには、3カ月毎に開催される極楽会の会議場が表示されていた。

極楽会は、サンやゲン達を除けば、12歳以上の極楽学園生と極楽学園卒園者で構成されていた。

山田麗の持つPCタブレットは、最新の物だった。縦が12cm程、横が6cm程、厚みは、1cm程の大きさにであった。

その大きさの中に、3Dカメラや3Dディスプレイが内蔵されていた。

机の上に置き、他に外部の人間がいないときは、机と連動し、そこから垂直に空中に3D映像が表示された。キーボードは机の上や、本やノートの上にマッピングされた。

外部に知られたくない時は、メガネ型ディスプレイやヘッドマウントディスプレイを使用する。

山田麗は、空中に浮かぶ透過のレバーを下にスライドした。透過度を小さくすると今まで透けていた背景が見えなくなり、表示が鮮明になった。

窓(Windows)から覗いた3次元の外の世界の様だった。

いやその3次元の世界は、こちら側にも貼り出していた。

映像には会議室の中が見えた。

画面の中の人の映像は、各地に存在する人たちがあたかも同じ場所にいるかのように3次元映像が合成されている。山田麗の姿もその中に認められた。

山田麗は、参加している自分自身を見て、少し変な気分だった。

向こう側にサンやゲン、啓、マコト達が座っている。

その他の参加者はこちら側からサン達を見ていた。

極楽会の総会への視聴すなわち参加は、極楽会員の義務であった。

この年、極楽会の構成人数はサン達を含めても、わずか五十名程であった。

今回、山田麗は、とりわけ緊張していた。もうすぐ極楽学園を卒園するのだ。

山田麗は、極楽学園に入園してまだ1年たっていなかった。一期生は中学3年にして4月には塾にも入らず直ちに極楽グループの会社に入社する。

一期生達には、優秀な教師がおのおの1名づつ割り当てられ、教育・育成カリキュラムに従って卒園後の活動方法、学習のサポート、生活の躾け、交渉術、教育AIでの学習のサポートを受けた。

教育AIでの学習では、大学1年までの学力を身に着けたが、卒園後さらに学習する必要があった。

彼らは十分に自覚し、卒園後の厳しい仕事の中でも、さらに教育AIでの学習を行う覚悟ができていた。


極楽会の総会の画面には、啓が写っていた。

「第3回、極楽会総会を開催いたします。参加者は、58名です。源副会長から今年度の方針についてお話があります」

ゲンが立ち上がった。

「極楽会の諸君、新年あけましておめでとう。極楽会は、極楽グループの中核であります。極楽グループの前進は、極楽会の諸君の奮闘にかかっています。

極楽グループは、昨年850億円の売上を達成しました。

昨年は、全ての大手の電力会社と契約を締結し、電力供給を開始しました。

我々の目標からすると、昨年の売上は蟻の卵程の大きさしかありません。この困難な時期に目標を達成するには、極楽会の諸君の比類なき闘争心が必要です。

今年度の目標は、売上8,000億円、昨年の10倍の戦いが必要です。

さらに今年は、蓄電池eegg(イーグ)、レーザシールドマシン、リニアエッグ、スペースエッグ、電子虫などを同時に開発し、完成させます。これは、我が軍の能力ギリギリの戦いです。

これらの基本設計は全てお父様が既に何年も前に完成されております。

しかし、これを現実のものにするには、諸君の命を懸けた奮闘と、極楽グループの全勢力をかけることなくては実現しません。

なんとしても、お父様のご期待に応えていきましょう。」

山田麗は、急激な戦いの進展に希望とトキメキと、少しの不安を抱きながら画面を見つめていた。



18-2.次々に会社を買収


極楽グループは、少しずつ世間の目に留まる存在になっていった。

特に椎葉村では、村の経済に大きな影響を与え始めていた。

村の税収は急激に増加し、極楽グループの社員・家族や極楽学園の教師・従業員の購買活動が、村の経済を活性化していた。

極楽不動産には、自分の土地や家の売り込みが集中していたが、とうとう自分で土地を買い占めて極楽不動産に話を持ち込む者まで現れるようになった。


1月中旬、啓が主導して小さな商社を買収し極楽商事と名前を変更した。社長には啓が就任した。

極楽商事は海外販売網があり、今後の売上増が期待された。

極楽商事の月商100億を追加し極楽グループは1月下旬で月商450億を超えた。


平和24年になると、優秀な技術者や研究者が集まり始めた。

極楽グループは、高給で働き甲斐があるという口コミが広がり始めたからだ。

極楽グループでは、ハングリーで優秀な者を中心に次々に採用していった。


ゲンは、『極楽ロボット』の社長を、年末にハジメに譲り、会長に就いていた。

ゲンがあまりに忙しくなった為と、ロボットは長期的にじっくりと推進する必要があった為だ。

『極楽ロボット』は、優秀な技術者と優秀な営業マンを入社させたが、売上の方は

当初は買収前とあまり変わらなかった。

ひたすら研究開発に没頭していたのだ。

ロボットがロボットを生産するマザーロボットの研究と開発、自動農業工場システムの開発、過酷な環境で組立作業を行うロボット、そして電子虫の開発と人工筋肉の研究、超強度のレーザーパルスの研究を全社で取り組んでいた。

その後は、有望なロボット関連企業を次々に買収する計画だった。

人材も急激に増加していたが、それでもまったく不足していた。

資金が、完全にショートしていたので、『極楽企画』が増資に応じていた。

『極楽建設』も年間売上を200億円の目標に順調に進行していた。しかしその半分が極楽グループの仕事だった。研究開発費が急激に増加していた。

『極楽ソフト』も、売上を全面的に極楽グループに依存していた。開発要員も150名を越えた。毎月10名ずつ、社員を増やしていた。

極楽グループは、少しずつ世間の目に留まる存在になっていった。

1月中旬、国と県から、「ひむかフェリー」の救済を依頼された。

「ひむかフェリー」は、主に、宮崎港と神戸港、大阪港の路線を運用していたが、利用客が激減し、40億円の債務超過に陥っていた。

「兄さん、県の方から、全ての債務を引き受け、1億円で買収して欲しいと言ってきています。いくつかの企業に話を持っていき、全て断られたようです。

県出身の衆議院議員と県の担当者が訪ねて来て、説明していましたが、本当に困っているようでした。しかしあまりにも赤字が累積しています。再建は困難だと思います」

啓は、報告し、反対意見を述べた。

「俺も反対だな。金をどぶに捨てるようなものだ。タダでも借金があるから駄目だ。

とにかくお客がいない。黒字にすることは、不可能だ。それに、金が余ってるわけじゃない」

ゲンも反対した。

サンは、静かに言った。

「このままならひむかフェリーは倒産だな。県も持っていくところが無くて、最後にうちに話を持ってきたのだろう。確かに、割高な買収だが、県と国に恩を売る必要もある。ここは値切らないようにしよう。債務を全て受け入れ、1億円で買収することにしよう。

そのかわり、港の整備や、今後の事務手続きに便宜を図ってもらおう。これからは、陸と海の運輸が重要になるよ」

これで「ひむかフェリー」の買収が決まった。

この買収は、国と県と関係者から、喜びに溢れて歓迎された。

当然、極楽グループの条件はそのまま受け入れられた。

こうして、「ひむかフェリー」は、「極楽海運」となった。

やがて「極楽海運」の蓄電池を搭載した船籍は、世界の海を航行する事になる。





18-3.レーザ式シールドマシンが完成


1月下旬になるとあれほど、難航していた垂直型レーザ式シールドマシンが何とか動くようになった。

地下40mの深さを、ついに垂直に掘り抜いたのだ。

岩石や砂利の場合は超強度レーザで、完全な粘土質の場合は機械式ドリルを付けて掘削した。

水が漏れ出た場合は、シールドマシンが瞬間接着剤や防水シート、瞬間凝固剤、水中コンクリートで壁面を補強した。

ゲンとシュンは、その円柱状の底で、上を見上げていた。

照明で輝く円柱状の側壁は、そそり立つように地上に向かって伸びていた。

「ゲンさん、ついにやりましたが」

シュンは、感極まって、泣いていた。

シュンは、実験開始以来、寝食を忘れて、開発にのめり込んでいた。

「男が、そんくらいで泣くもんじゃない」

ゲンは、シュンの肩を握って励ました。ゲンの目からも涙がこぼれていた。

その後の作業ではクレーンは直ぐに、パーツ化されたコンクリート製の壁や部屋を下に向かって下ろし組み立てていった。

そしてついに極楽学園の学習・居住棟が出来あがった。高さ30m、地下40mの円筒形の建物だった。


続いて、垂直型レーザ式シールドマシンを使って極楽技研の別棟(実験棟)を作り始めた。

設計図はとっくに出来上がっていた。地下50m、地上部10m。まだまだマシンは完璧では無かったが、中心から半径30mの6本の頑丈な金属棒が延び、それらの先端は隣の金属棒と同じ材質の金属棒で接続されていた。???以下整合性???

6角形の鉛筆の背中のような形をしていた。

先端の6か所からは、3m程の金属が垂直に下に伸びていた。

その先には、小さいが強力な掘削機が付いており、全体として時計回りに移動しながら地面を削っていった。

1m程垂直に掘り進むと、背後のパーツ制作場であらかじめ製作されて作業現場に運んでこられた建物の側壁パーツが、垂直型レーザ式シールドマシンによりその側面にブロックを積むように自動で組み立てられた。

側壁パーツは、30cm程の厚みを持ち、実際の建物そのものではないが、側面からの水漏れや、岩石の滑落を防止する働きを持っていた。

次に、極楽ロボットの芦尾道山達が開発したレーザ出力装置が強力なレーザビームを発信し、岩石を破壊した。

発射されたレーザビームが、反対側のレーザ検出器に当たると、破壊が完了したと見做された。

垂直型レーザ式シールドマシンのレーザビームは、時計回りに移動しながら次々に岩石を破壊した。

垂直型レーザ式シールドマシンは、強力な超伝導の電気モータで回転力を与えられた。

岩石を破壊し終わると、自動搬送装置が岩石や砂利を穴の外部に運び出した。

同時に穴が壊れないように穴の側面に、保護用のゴムとコンクリート片を組み立てて保護した。

垂直型レーザ式シールドマシンは、1時間に1mのスピードで掘り進んだ。

24時間フル稼働で、地下50mを2日半で掘り抜いた。

垂直型レーザ式シールドマシンは、分解されクレーン車で釣り上げれた後、建物の基本パーツが下され組み立てられた。

各パーツには、あらかじめレーザーの位置決め装置が組み込まれており、1mmの誤差もなく高速で組立られていった。

電気やガス、通信ケーブルは、自動連結器で接続さえ、空調や水道、下水は、自動組立ロボットが組み立てていった。

もっとも、この時期の自動組立ロボットは、非常に原始的なものであり、人間の介在が必要だった。

地下50mと地上部10mの建物の基本構造は、2週間で建設された。

内部の設備もあらかじめ作られたパーツ構造をしていたので、内装や外装も極めてスムーズに進んだ。

全ての作業は、24時間4交代制(作業時間は6時間)で行った。

こうして、3月中旬には無事実験棟が完成した。

半径30m、地下50mと地上部10mの建物であった。リニアエレベータを設置し、多数の繭型のエレベータ・カプセルを同時に動かすため、人用が2基、荷物用が1基だけしか設置されなかった。

その為、エレベータが床面積に占める比率が一般のビルに比べるとはるかに小さくなった。実質的な床面積は、東京の港区の巨大ビルの有効床面積に匹敵した。

極楽建設は、ついに強力な垂直型レーザ式シールドマシンを獲得し、高速のビル建設のノウハウを築き上げていった。


垂直型レーザ式シールドマシンが完成すると直ぐに小さな極楽学園の横に、巨大な地下の学園用ビルの建設が年内の完成をめざし開始された。

半径50m、深さ100mの巨大な地下ビルが1棟建てられる。地下ビルの地上部分には屋上に野外運動場や教師やスタッフ用の施設が作られる。

さらにその隣には、半径50m、深さ300mの巨大な地下ビルが1棟が2年後に建てられる予定だった。

2つの地下ビルの間の地上部分には、学園のシンボルのかわいい校舎が建てられた。主に学園長室などの公的な用途に使われる。

地下ビルは、学園生の住居や教室、運動場、劇場、遊び場、図書館、自由使用エリアなどが作られた。





2月初め、啓からサンとゲンに3D電話が掛かってきた。

「兄さん、ゲンさん、1月の売上が、500億になり、昨年1年間の売上に肉薄する額になっています。電力の売上だけでも400億弱です。このまま行けば夏までに単月売上が昨年の売上合計を上回ります」

「予定通りだが、皆の活躍の結果だな」

サンが冷静に話した。

「だけど、サン、啓。予定通りでも凄いな、もっと拍車をかけて頑張ろうぜ」

ゲンは意気込んで話した。

まさに極楽クループはビッグバンのような爆発的発展が始まっていた。

しかしこの発展は、まだまだ序の口であった。


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