第17話 学園の方針

17-1.黒木初枝園長の死


開園して直ぐに、黒木初枝園長が病気で倒れ、宮崎の病院に入院した。末期の肺がんだった。

黒木初枝園長は、年の初めに病院の診断で肺がんとわかっていたが、サンとゲン達には秘密にしていた。

黒木初枝園長は、極楽学園と学校の開設に奔走したため、病気が進行してしまったのだ。

黒木初枝園長は小菊学園や極楽学園の園長を務め、サンやゲン、シュン、マコト、ハジメ達に

人の道と、協力して事に当たる事を身をもって教えた。

そして偉大な極楽学園を、この世に残したのだ。


平和23年6月3日、黒木初枝園長の葬儀が、宮崎市の葬儀場で行われた。

故人の遺志で、遺族と親類縁者、知人のみの葬儀であったが、聞き付けた小菊学園の卒園者や関係者が大勢駈けつけた。

サンとゲン、幸、啓も、シュン、マコト、ハジメも末席に参列した。

ゲンは、滂沱の涙を流した。

式が終わると、ゲンは、サンに思いつめたように小さな声で言った。

「サン、一緒に極楽ソフトに行ってほしい。啓も一緒だ」

「わかった」



17-2.学園の方針


極楽ソフトの本社ビルは、葬儀場から車で20分程の場所にあった。

極楽ソフトは、開発規模は急激に増大し、100名程になっていたが、まだまだ小さな会社だった。

顧客は、全て極楽グループの企業だった。

3人は、会議室に入った。

ゲンの表情は、いつもより硬い表情だった。

「タマ」

ゲンがそう言うと、会議用テーブルの上にタマが浮かびあがってきた。

「今日は、ゲンさん。サン様、啓様。3名とも極楽ソフトにいらっしゃるのですね。」

「そうだ、この部屋のセキュリティーを完全にしろ。音声の防音・消音装置も完全にしろ。

 誰もこの部屋に入れるな」

「わかりました。全て完全に処置しました」

「この前の文書を開け」

空中に3Dの画面が現れ、文書の表紙が現れた。

『極楽学園の方針』とあった。

「サン、黒木園長が病気になられた時から、タマと一緒に何度も検討した。このままだと将来、極楽学園と極楽グループの団結が失われて行く可能性がある。お前の基本方針に精神的な団結を追加しなくては駄目だ。とにかく見てくれ」

ゲンが右手を左に振ると、次のページが現れた。

『・極楽学園と極楽グループの精神的支柱:サン=お父様

 ・極楽グループでのサンの呼称=創立者

 ・お父様に対する永遠の忠誠

 ・学園生の家族意識の徹底

・人類の未来構築の戦いの為の使命感』

啓が口を開いた。

「ゲンさん。素晴らしいアイデアですね。私も、危機感を持っていました。この通りだと思います」

「ゲン、俺の事を、お父様は、勘弁してほしいな」

サンは、照れくさそうに言った。

「いや、タマと何度も議論したが、これが一番いい」

「啓、お前はどう考える」

サンは、照れながら聞いた。

「兄さん、このまま拡大し、多くの人材が集まった時、グループがバラバラになる時が来そうです。待遇や規律だけでは保持できないでしょう。精神的な一体感と忠誠心、使命感がなければ、大きな目標は達成できなくなります」

「サン、これでいいな。これで行こう」

ゲンが念を押した。

「わかった。これで行こう」

サンは、まだ照れくさそうだった。

「啓、後のページを見て、もっと詳細に詰めてくれないか。俺は細かいことは苦手だからな」

ゲンは、うれしそうな顔で、啓にたのんだ。

「わかりました。さらに詳細に検討してみます」

ゲンの文書は、啓の手でやがて『第101号極楽学園方針』作戦文書となった。

極楽学園の各学年を早急に200名にすることが、決まった。

初等部(小学)1年から高等部(高校)3年までで、2400名になる。

乳児、幼稚園児を入れると3000名を超える体制になる計画だった。


極楽学園の最上級生(第1期生)の中学三年生の卒園までのわずか1年間の教育方針が問題になった。

サンは、ゲンやシュン達の学習結果をバードにチェックさせた。

そうすると、元々不良少年であった彼らは、OWL(アウル)のおかげで一般常識や仕事のやり方、学習の仕方を習得し、増進させて、当初に比べると遥かに高いレベルに到達していた。知的好奇心のレベルが極めて高くなっていた。

最上級生にも、ゲン達と同じ道を進ませることにした。

まず、極楽学園と極楽グループへの忠誠心を徹底的に植え付け、OWL(アウル)との共同での学習に専念させた。そして基本的な素養は卒園後も学習させることにした。

元々知能の高い最上級生の進歩は、目覚ましいものがあった。


17-3.次々と売電契約を締結


大川内の影響力と大澤課長の尽力で、啓が電力会社と売電契約を次々に締結した。

8月に、近畿電力と売電契約が締結でき、10月には中日本電力と売電契約が締結が出来た。

中日本電力には、蓄電済みの巨大な蓄電池(eegg)での経由で電力供給することになった。

交流での供給だと、巨大な周波数変換所が必要になってしまう。

その蓄電池(eegg)はまだ完成していなかった。年内完成目標に不眠不休の開発を行っていた。

中日本電力と売電契約の締結が終わると、大川内は啓に言った。

「啓ちゃん、早めに電力小売の免許を取ろう」

今では、ゲンも啓も、『ちゃん』呼ばわりだった。

「えっ。まだ各電力会社への販売契約も完全には終わってませんよ」

「契約は時間の問題じゃ。小売りをやらないと、大きな利益は得られんじゃろ」

「それはそうですね」

啓達も電力小売りの計画を立ててはいた。啓はもっと先の話だと思っていたが、大川内の先見の明に驚いた。

「それに、君たちから以前に聞いた衛星からの電力供給の話。それが出来れば直接消費者に電力を販売できるな」

「兄が研究し設計していますから、必ず実現できると信じています」

「そうじゃな。それが出来れば、天地がひっくり返るな。わっはっは」

大川内は愉快そうに笑った。

しかし、今は電力会社との契約にも苦闘していた。

消費者への販売方法など、まだ紙の上のプランだった。

啓は、遠い道のりを見つめるしかなかった。

大川内は、ことある毎にゲンを電力業界や政治、官庁の重要な人物に会わせた。

ゲンが政治分野の担当であったが、大川内は、まるでわが子に教え込むような態度だった。

ゲンも大川内を自分の本当の父親のように感じるようになっていった。



17-4.啓が証券会社を買収


10月、啓の主導で、前に就職していた証券会社を買収した。この会社は、やっと黒字を維持していた。

極楽証券のに社名が変わった。

餅月社長は涙を流して喜んだ。

「啓君、必ずこの会社を世界に通用する会社にしてくれ」

その希望は、短期間の内に実現することになる。

啓は、証券会社勤務時代に知り合った、プロの経理グループを高額で雇った。

彼らは、証券会社に乗り込み、徹底的に会社の経理状態と財務状態を洗い出した。

報告を受けた啓は、問題のある担当の幹部たちに責任を取らせ、部下を昇進させた。

その後プロの経理グループは、M&Aで買収した会社に次々に乗り込んで行くことになる。

彼らは、アウルのサポートを受けて徹底的に会計を調査し、問題点を洗い出し、責任を問うた。

そしてその会社は生まれ変わり、極楽イズムに溢れた戦闘的な会社になった。


啓は、大幅に組織改造を実施した。そして、サンのノウハウを反映した世界ソフトを基に、新型量子コンピュータの前に証券用AIを搭載した前置コンピュータを設置し、株取引やファンド、FXに適用し、圧倒的速さと分析力で各社の証券AIに勝利し会社の業績を上げていった。

もはや、金融関係はサンの手から離れた。

9月、極楽農園を設立した。ハジメが社長に就任した。



17-5.美智が1歳に


11月1日、美智は1歳になった。

サンと幸は、極楽学園にいた。

幸は、美智の手をしっかりと握っていた。

幸は、妊娠9カ月過ぎの大きなお腹をしていた。

サンと幸は、美智を連れて極楽学園の乳児ゾーンに来ていた。

10名程の乳児が遊んでいる。

美智は何度もここに来て遊んだ事があったので、嬉しそうな顔をしていた。

若い職員が二人に向かってきた。

「創立者、本当に良いのでしょうか」

「勿論です。よろしくお願いします」

幸は、美智を抱えたまま、涙を流していた。

「よろしく、お願いします」

幸は、美智を職員に手渡した。

「美智、お母さんはいつでもここに来るから、皆と仲良く暮らしてね」

幸は、座って目線を低くして美智に語りかけた。

幸の目からは止めどもなく涙が流れ落ちた。ハンカチで拭く幸の手元が震えていた。

美智は、怪訝そうに母親の顔を見つめていた。


12月1日、東日本電力とも売電契約を締結した。

残りは、北日本電力のみだった。


12月1日、幸が二人目の赤ん坊を産んだ。男の子だった。長男の誕生だった。

大治郎により名前を、静雄(しずお)と名付けられた。


7-6.極楽幹部会


12月3日極楽幹部会が開催された。極楽幹部会には、サン、ゲン、啓、シュン、マコト、ハジメが出席した。

極楽グループの最高意思決定機関だった。

特に12月は、来年の方針を決める重要な会議だった。

司会は、啓だった。

「平和23年12月極楽幹部会を開催します。まず、極楽グループの12月末時点の年間売上予想について報告します。極楽発電の売上は、西部日本電力から年間300億、その他の電力会社から100億円の売り上げとなります。

極楽証券が、100億の売上の見込みです。その他の会社合計が350億の売上、合計年間売上、850億で、粗利は、その70%の600億になる見込みです。これで、第153号作戦は達成となります。

12月単月の売上は、150億の見込みで、来年1月からは、月商300億円になります」

「まだまだな。今の売上を全て研究開発費につぎ込んでもまだ足りんぞ」

ゲンが発言した。

彼らには、外部から資金を導入してくるという発想は全くなかった。

サンが続けて発言した。

「平和24年の目標は、電力会社への売電を、4,500億円にし、証券関係で500億円稼ぐ。その他で3,000億円だ。総計8000億円だ。粗利は、70%の5,600億円だ。

まだ足りないが、当面はしかたがない」

一部から驚きの声が出た。今年の売上の約10倍の数字だ。

サンは続けた。

「来年の企業買収と企業設立について述べます。

極楽技研の創立。商事会社の買収。極楽半導体による中小半導体会社の買収。蓄電池メーカの買収。造船メーカの買収。製鉄メーカの買収」

一部からため息が出た。

「次に、開発関係について述べます。

レーザ式シールドマシンの開発を推進します。これは水平方式と垂直方式の両方を開発します。

それと、新しい蓄電池を製造します。名前は『eegg(イーグ)』です。卵型の形状になるので、電気のエッグという意味です。

eeggは、大型の蓄電池として電力会社への送電用として使用し、中型のeeggはグループ会社の電源用、小型のeeggは小企業や家庭用及び自動車搭載用に使用します。

さらに超小型のeeggも開発します。

現在eegg、開発の最終段階です。

大型eeggは、平和24年5月には中日本電力と東日本電力に設置予定です。

さらにリニア方式のリニアモーターも開発します。これも卵に似た形状なので『リニアエッグ』と呼びます。

超小型ロボットの開発も行います。通称、電子虫。これは空中を飛びます」


「只今の創立者のお話の来年度事業計画は、第180号作戦となります。只今より閲覧可能となります」

啓が発言した。この会議では、サンのことを創立者と呼ぶことになっていた。

しかし、あまりそう呼ぶものはいなかった。特に議論が発熱すると、皆はサンを呼び捨てにした。

啓が立ち上がった。

「まず、各事業の状況と計画を簡略に報告してください。まず、私が報告いたします。

極楽発電については創立者から話がありましたので省略いたします。

来年1月初めに商事会社を買収の予定です。ほぼ買収交渉は完了しています。売上目標は2,000億円です。

次に、ゲンさん、極楽建設についてお願いします」

「極楽建設は、先月シュンに社長を譲ったので、シュンから報告させます」

ゲンが言った。

ゲンは既に、極楽ロボットや極楽不動産の社長職からも降り、会長職になっていた。

もはや、全体の活動に目を通し、活動していた。

シュンが立ち上がった。

「いまレーザ式シールドマシンの開発中です。水平式は順調ですが、垂直式はいけません。金属素材等の強度に問題があります。サンいや創立者のサポートをお願いします。

あ、そうだ。本年は、極楽学園の建設と各会社の施設の建設を行いました。それと県の受注事業を少し行いました。」

シュンが報告した。シュンの頭の中はシールドマシンで一杯らしかった。

「レポートをください。少し調べてみます」

サンが答えた。

「マコトさん、極楽不動産と人材募集についてお願いします」

啓がマコトを促した。マコトが立上った。

「サン、いや創立者、私はグループ全体の人材募集も担当していますが、ここに来て人材募集もかなり順調に進みはじめました。給料が高いのが知れ渡ったのか、飛び切り優秀なのがたくさん応募してきます。今後、極楽建設、極楽発電、極楽ロボット、極楽ソフトに多数の研究者や技術者の人材を供給します。

極楽不動産は、極楽学園の土地と各企業の土地、そして研究施設用の土地購入に全力投球です。将来必要になる土地の購入を検討しています。椎葉村や宮崎市、西米良村の土地を購入予定です。資金が不足していますので、なかなか思い通りには進んでいません」

「ハジメさん、極楽ロボットと極楽農園についてお願いします」

啓がハジメを促した。ハジメが立ち上がった。

「極楽ロボットは、ほんとに立派な技術者が揃っていますが、何しろ小さな集団です。

研究施設は、椎葉村と宮崎市の中間の西米良村に開設しました。

今後は、生産工場も西米良村に開設したいと計画しています。

今後、リニアエッグや宇宙エッグ、自動農業工場、自動生産工場、自動マザーロボット工場、極小ロボットなどなど、やることにキリがありません。人材がまるで不足してます。とにかく研究者が足りない。現在猛烈に求人中です。マコトに頑張ってもらうしかありません。

一方で、極楽農業はまるで暇です。やることがありません。いま、ビニールハウスを建築して、早生の作物の栽培実験とか、人工海水による養魚のテスト、牛を放し飼いにしているような状況です。」

ハジメが報告した。

「極楽農園については、これから重要な企業になりますので、農業工場に極楽ロボットの技術成果を直ぐに反映するようにしてください」

サンが、コメントした。

啓が立ち上がった。

「次に、極楽ソフトについてですが、社長の私が報告します。極楽ソフトは、まだバージョン2の開発中ですので、売り上げに貢献していません。現在、100名の技術者がG++で開発中です。開発は、今のところ順調です。さらにグループ各社からの発注も増えてきています。今後は、極楽学園の卒園者の採用を行います」

「サン、来年は今年の何倍も忙しくなりそうだな。景気付けに年末に忘年会をやろうぜ」

ゲンが言った。

「そうだな。ゲン、場所と時間が決まったら、教えてくれ」

「わかった。直ぐに探して、皆に連絡する。ばーっと騒ごうぜ」



年末には、極楽技術研究所、通称『極楽技研』を設立した。

極楽グループのあらゆる技術的問題を支援する研究所だった。

ゲンが会長で、啓が社長。今はUターンしてきた技術者が数名の小さな会社だった。

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