第15話 極楽学園の開園
15-1.極楽学園
平和23年1月
サンが新しい家に引越すと、直ぐに児童養護施設「極楽学園」の園児の募集が始まった。
「極楽学園」は、ほぼ完成していた。極楽建設が不土野公民館の近くの山を伐採し、山を削り平地を作り出して、学園の敷地とした。
隣接して乳児、幼児、小学校、中学校の教育施設も併設した。
サンとゲンは相談して2階建ての「鐘の鳴る丘」のような形の共有施設の建物を「極楽学園」の最前列に建造した。
ここには園長室や会議室を設置した。
その建物の後ろに、地上5階建て、地下10階建ての建物を建造した。
地上部には、教室や園児の広場、教員室、看護師・保育士・児童指導員・看護師・個別対応職員、個別対応職員・栄養士・調理員などの控え室、食堂、調理室が設置された。
地下には、体育館、プール、子供たちの部屋(上級生は個室)
将来の拡張の為に、運動場と庭が広くとられていた。
ウサギや亀・ニワトリ等の生き物の小屋も作られた。当然、小学生の子供たちが生き物係だ。
それとオスとメスの2頭のヤギが、庭の草を食べていた。
保育園、小学校、中学校の認可もおりた。
小菊学園の黒木初枝が園長に就任した。
高校は、独自の教育をする為、あえて教育塾にした。名称は「極楽塾」とした。
国の教育に従う時間が惜しかった為である。
学園の卒業者には、通常の高校へ進学する道もあったが、基本的に「極楽学園」の卒園者は中学卒となることになった。
園児には、原則として両親のいない浮浪児を選んでいった。
入園者の面接では、上級生は、バードが総合的な知能テストを実施し、上位のものを選択した。なぜなら、量子コンピュータでの教育や優秀な教師の教育を受ける期間が短い為に、比較的高い知能で卒園後自分で学習できる者を選び出したのだ。
特に一期生は、1年程で卒園し、「極楽塾」にも入らず即極楽グループで働くため、知能指数を重視した。
下級生やそれ以下の幼児には知能テストは行わなかった。十分な教育の効果が見込まれたからだ。
全ての候補者にある質問が出された。
『今、あなたが一番欲しいものは何ですか』
『お父さんと、お母さんです』
と答えた子供は、全員合格させた。
目標の150名は、あっという間に突破した。
入園者には本人専用のAI・アウルを与えられた。保育園以下には、共通の保母のアウルが与えられた。
アウルは、園の子供たちを見守り、支え、相談に乗り、教育と学習の促進を行った。
難航したのは、教師だった。園生10名に教師1名としたので、約15名必要であった。
優秀な教師ほど、こんな山の中の、また山の中の田舎の学園なんかに来たがらなかった。
それでも、破格の高給に誘われてしだいに優秀な教師が決まっていった。
その中のいくつかは、家族連れで赴任する事になったし、その後に家族を呼んだ者もいた。
教師とその家族は、山向こうの不土野に住居を用意され、そこに住んだ。
このことが、後日、大きな事件を生みだす事になる。
教育プログラムは、教師によるものと、自主学習によるものの2種類を用意した。
優秀な教師と、極楽ソフトの教育ソフト開発チームとアウルで開発していったが、不断の改良を加えていった。
15-2.シールドマシンと極楽半導体
年が明けてすぐ、シールドマシンの会社を買収した。
シールドマシンの会社は、極楽建設の子会社になり、共同開発が始まった。
技術者や研究者を椎葉に呼びつけようとしたが、当初は辺鄙な土地での勤務を嫌がり、勤務に同意するものは少なかった。しかし、サンが、画期的なレーザ式シールドマシンの説明を行うと、彼らの知的好奇心を刺激し、ほとんどのものが、椎葉での勤務に同意した。
極楽建設の技術者と共同でシールドマシンの詳細な設計や製作を開始した。
極楽建設の設計陣は、以前と比較にならない技術レベルに達していた。
ゲンとマコトとシュンが、優秀な技術者をかき集め、最高の設備と設計ツールを導入してきた成果だった。
そして、技術者は、壮大な目標を設定され、自分専用のAI・アウルを与えられ恵まれた環境を生かし、自らの能力も高めていった。
1月、太陽半導体を完全子会社化し、極楽半導体に改称した。極楽グループの企業向けの半導体を主力に開発を開始した。
15-3.極楽ソフト
2月、極楽ソフトの本社を開発拠点であった宮崎市に移した。
100名体制で、世界ソフトの大規模開発体制に入った。
特に、力が入っていたのが、教育用ソフトの開発と人工知能(AI)アウルの機能向上だった。
宮崎市にある開発用コンピュータと椎葉村にある量子コンピュータとの接続は高速通信回線で行うので、距離は問題なかった。
量子コンピュータの前には、前置コンピュータが設置されていたので誰も開発に量子コンピュータが使用されている事に気がつかなかった。
開発言語は、サンが開発したG++だった。
G++は、以前にサンが開発していたF++で記述され開発された。
G++の主な特徴は、並列処理の記述が極めて簡単であり、強大なソフトを開発するのに有効な高度な抽象性を持っていた。そして、ソフトウェア開発支援システムで、あらかじめ作られた文章を張り合わせるようにプログラムを記述できたので、極めて高い生産性と論理チェック機能を有していた。さらに高度で高速な3次元空間グラフィック機能をサポートしていた。
開発されたプログラムモジュールは、強力なセキュリテイー機能が自動で付与された。
G++で開発されたAIによるソフトウェア開発支援システムは、非常に高速で、開発効率が高かった。
システムのプログラムは、小さな抽象的な機能について開発するようになっていた。誰も、巨大な全体機能については、知ることが出来なかった。
15-4.黒木村長
極楽学園の教師用の住宅を、新築することにした。
極楽建設が住宅の建築を担当した。
役場の認可は、なかなかおりなかった。ゲンが、何度も足を運んだが進展は無かった。
ある日、村長の黒木一郎にゲンが呼ばれた。
村長の横には、建築会社の作業着を来た男が座っていた。
村長が口を開いた。
「極楽建設さん。あんたら大規模なアパートの建設をやるということだが、自然破壊をせんように、十分に注意してください。人出が足りんと思うので、ここの建築会社を使うてください。」
ゲンは、『ははーん』と、ピンと来た。
『これが、進展のなかった原因か?』
「極楽建設さん。よろしくお願いいたします」
建築会社の男は、会釈をして名刺を渡して来た。
名刺には椎葉工務店の代表取締役の那須三郎と書いてあった。
「よろしくお願いします。極楽建設の源です」
ゲンも名刺を渡した。
「極楽建設さん。これで、万事うまくいきますが」
村長は、ニヤっと笑いながら言った。
「わかりました。椎葉工務店さん。ぜひ、お手伝いください」
ゲンは、この建築会社を使うことにした。
村長は、満足そうだった。後日、認可は直ぐに下りた。
最終的に下請けの建築会社への支払いは、法外な金額になった。
ただ、3階建ての予定を急遽設計変更して、4階建で申請し、4棟も作ってしまった。
ゲンの方でも帳尻を合わせた。
15-5.極楽学園の開園
3月末、ゲンがサンの所に来た。
「サン、俺がタマと一緒にデザインした極楽学園の旗が出来たぞ。ほら」
ゲンは、持って来た旗をサンの前に拡げた。
真ん中に、ほとんど円状のピンクの蓮のつぼみが描かれ、ごく短い緑色の茎が下に描かれていた。
「うん。なかなかいいな。これでいこう」
サンも同意した。
「先々は、極楽グループにも色を変えて使おう」
「おうそれは良いな」
ゲンは喜んで答えた。
「ところでサン、早く啓を戻してくれんと、どうにもならんが。電力会社の折衝や会社の買収を担当してもらわんと、忙しくて建設関係の仕事が進まん」
「そうだな、啓に連絡して予定より早く戻ってきてもらおう」
「それに、早くシールドマシンを開発せんと、土地がないが。椎葉には土地がないが」
「そうだな、シールドマシンの開発をさらに早めよう」
しばらく黙った後、サンが話し始めた。
「ゲン、極楽学園内で、来年あたり、リニアエッグの実験をやりたい。最上級生を2,3人担当させたい。ゲンも優秀なのを調べておいてくれ。頼む」
「おお、やっと始まるか。早く見てみたいもんだな」
4月1日、極楽学園が開園した。小菊学園の黒木初枝が園長だ。
0歳から14歳までの、園児150名でのスタートだった。
教師が40名、その他のスタッフが60名の充実した体制だった。
園児、教師、スタッフ、そしてサンとゲン、急遽かけつけた啓が講堂に集まっていた。
壇上の黒木園長が、話始めた。
「園児の皆さん、新しい学園、極楽学園にようこそ。ここが皆さんのお家です。そして学校です。皆さんは皆兄弟です。今日、150名の兄弟が生まれました。ほとんどの人が、お父さん・お母さんがいません。
私やスタッフの皆さん、そしてあちらの神武 燦(じんむ あきら)さんや、源 大(みなもと だい)さん、神武 幸さんを、お父さん・お母さん・お兄さん・お姉さんと思ってください。
何も心配することはありませんよ。
また優秀な先生方に教育していただきますし、本当に素晴らしい設備も揃っております。
皆さんをサポートするスタッフの方も優秀です。
皆さん、安心して極楽学園生として楽しく暮らしてくださいね。」
園長は、最後に咳き込み、話を終えた。
最初から、パソコンを使った学習を進めて行ったが、「世界ソフト」の教育ソフトは、まだ完全ではなかったが、学園生の教育に利用された。
ともかく、優秀な教育陣とコンピュータ学習で、通常の教育の2倍以上のスピードで学習が進んでいった。
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