第14話 ロボット会社と、西部日本電力へ送電

14-1.極楽ロボット


平和22年10月1日

極楽企画が、福岡の小さなロボット製造会社の福岡ロボット技研株式会社を買収した。

サンが陽子衝突実験で機材を購入した会社だった。

この会社は、ロボット技術開発、製造、販売を行うとともに超強度レーザ装置の研究も行っていた。

極楽ロボット株式会社と改称し、研究施設を西米良村に、本社を宮崎市にした。

社長は、またもやゲンがやることになった。

自動組立ロボットや農業工場用ロボット、各種の自動作業ロボット、自動工場、そして強力なレーザ出力装置の開発を行うことを目指し極楽ロボットの技術部門で開発を開始した。

極楽ロボットの研究施設の技術者の中に芦尾 道山がいた。

25歳の彼は博士号を20歳代で取り、先輩の三池 淡交と共にレーザ出力装置の開発に従事していた。

ゲンは、二人を呼んだ。

二人はほぼ同年代のゲンに内心驚き、畏まっていた。

ゲンは、にこやかに話しだした。

「ゲンです。三池さんと芦尾さんはレーザの出力装置を研究開発されて来られましたが、今後はシールドマシンに装備するさらにさらに強力な超強度レーザ出力装置の開発をお願いします。

基本的には、強固な岩盤を貫く必要があります。

中型用、大型用、超大型用に適用する装置を順序良く開発をお願いします。

費用のことは心配せず開発に頑張ってください。

よろしくお願いします」

「分かりました。全力で開発いたします」

二人は緊張して答えた。


研究施設の窓も無い長方形の部屋の中心に金属の机があり、その脇にレーザの装置が置いてあり、そこから何本ものケーブルが床の上を占有していた。

金属の机の上には、厚さ30cm程の岩から切り出されたものが縦に置いてあった。

二人は、頑丈な全身を包むごつい防御服を着ていた。顔の保護するヘルメット状の部分は丸く、全体はまるで宇宙服みたいに膨らんでいた。二人の動作は緩慢であった。

「じゃ、開始しますよ」

芦尾が電源スイッチを押した瞬間、岩の表面で激しい爆発がおきた。

岩の破片を含む爆風が四方に飛び散った。

二人は吹き飛び、背後のコンクリートの壁にぶつかり、地面に落ちた。

部屋は煙が充満して周りがほとんど見えなくなった。

自動的に排煙装置が起動し、煙を吸いだし始めた。

そのまま動かない状態が続いたが、芦尾はやがてむっくりと起き上がった

顔を保護するプラスチックは、大きくヒビ割れていた。

芦尾は三池の手を掴み起き上がらせた。

「三池さーん、今回も失敗でした、戻って設計レベルから見直してみます」

「芦尾君、必ずしも失敗ではないと思う。超高強度かつ超短パルスのレーザー光方式で、ちゃんと岩をくり抜けた」

三池が指で岩を示した。芦尾が視線を動かすと、岩にはくっきりと円形の穴が開いていた。

二人は駆け寄って行った。

「三池さん、やった、やった、やりました」

「良かった、良かった」

二人はごつい手袋の手で手を取り合い、喜んだ。

「三池さん、パルスの間隔をさらに短くしてみます」

「芦尾君、だが現場での実験を生身でやるのはもう限界だと思う。私の方で実験方法の改善を検討してみます」


一週間たった。実験室の中央に金属の机とその上に先日と同じような厚さ30㎝程で高さ60㎝程の岩と少し離れてシールドに保護されたレーザ出力装置が置いてあった。岩の後ろには分厚い鋼鉄の板が置いてある。

岩には十字の中央に少し小さなマークがある赤色のマークが左端から10cmの位置に描かれ、そこから垂直に40㎝程離れた最下部に同じ赤色のマークが描かれていた。

岩から50㎝程のところには改良されたレーザ出力装置が置かれ、装置からレーザの放射のノズルがでていた。

そこに一体のロボットが立っていた。

極楽ロボットで余っていたものを三池と芦尾が持ってきたのだ。

別の部屋にいる芦尾と三池が、大型のモニタの前の机に座っていた。

画面には、ロボットのカメラで見た室内が写しだされていた。

「三池さん、このロボットはガタが来てますから壊れるかもしれませんよ」

「壊れても大丈夫さ。今は誰も使ってないし、社長も予算はいくらでもあると豪語してたじゃないか」

「それはそうですが」

芦尾は少し心細そうに返事した。

「じゃー、初めましょう。芦尾さん遠隔操作をお願いします」

「それでは始めます。ロボ一号、ノズルを目標の開始点に移動させろ」

ロボットはノズルを操作し、岩の最上位の開始点にノズルを向けた。

距離は20cmほど離れている。

「レーザを発射します」

芦尾は手元の発射ボタンを押した。

ノズルの先からレーザ光が発射された。

岩の表面から破片が飛び散ったが前回ほどの爆発ではなく、岩がくっきりとくり抜かれた。

岩の後方の鋼鉄の板からも煙が出ていた。

「ロボ一号、ノズルを終了地点まで移動しろ」

レーザ光は、開始点から終了点まで明るい火花を散らしながら移動していった。

岩の上にはくっきりと照射の跡が残っている。

「三池さん、うまくいきました。きれいに岩を貫通しています」

「うまくいった。良かったなー」

その時、岩の左側が倒れていき床に落ちた。

右側の岩の切断面はほとんど凹凸が無かった。

二人は言葉を発せず、その切断面をじっと見つめていた。

「芦尾君、予定のサンプルでレーザの強度と超短パルスの間隔の関連データを採取しよう」

「分かりました。ロボ一号、サンプルの岩を保管位置に移動しろ。続いて次のサンプルを

机の上に設置しろ」

その後、遅くまで二人は実験を続けた。




14-3.神武美智の誕生、大治郎との約束


サンは、現在の家からさらに東の方向、ゲンの家と極楽学園の間に家を建て直した。

荷物は新しい家に運び込まれていたが、引越す直前の11月1日、幸が女の子を産んだ。

サンは、産婦人科の病院に入院中の幸に会いにいった。

幸の隣に、小さな子猿のような、かわいい赤ん坊が静かに寝っていた。

「幸、無事生まれて良かったな。赤ん坊の様子はどうだ」

サンは、小さな声で言った。

「サン、有難う。さっきまで元気な声で泣いていたわ」

「爺さんから、名前を付けてもらったよ」

サンは、封筒から色紙を取り出した。

そこには、『命名 神武 美智』と大胆な字で書いてあった。

「美智という名だ。良い名前だ」

「私も、そう思うわ」


11月2日、ついに西部日本電力への送電が始まった。


11月10日、幸と美智が退院すると、新居に引っ越した。大治郎も一緒についてきた。

ゲンの家の広さの半分以下だったが、前の家の何倍も大きく、家族4名が住むのには広すぎる位だった。住み込みのお手伝いさんを1名雇った。

夕方になり、料理が並んだ頃、一升瓶をぶら下げたゲンがやってきた。

ゲンは、サンの隣に、どかっと座った。

「大治郎爺さん、今日は焼酎じゃなくて日本酒を持って来たので、飲んでください。灘の老舗の秘蔵の酒じゃ。うまいと思いますよ。なにしろ、潰れそうな老舗の酒屋に合計で30億以上支援して、大川内の旦那の為に、茶碗を手に入れたんですからな。老舗の酒屋の主人が骨董品を1個くれたので、サンに見せたら曜変天目茶碗じゃった。

大川内の旦那にあげると、たちまち我々の味方になってもらいました。あれで、一時は、極楽企画も、すっからかんになってしもうた。その後も追加につぐ追加融資。わしは本気でサンを怒鳴りつけましたが」

ゲンが、豪快に笑った。

ゲンが、コップに秘蔵の酒を惜しみなく注いだ。

「大治郎爺さん、飲んでください」

大治郎は、少し飲んだ。一呼吸して、コップの中の酒を一気に飲み干した。

「うまい。なんちゅううまい酒じゃ。ゲン、もう一杯くれ」

ゲンは、大治郎の差し出したコップに、またなみなみと酒をついだ。

「大治郎爺さんも、サン達と一緒に住むことになったんですよね」

「そうじゃが、俺ももう年だから、皆と一緒に住むことにしたの」

「そりゃいい。毎日ひ孫の面倒でもみてください。わははは」

「いや。わしは毎日畑仕事を続けることにしている。ひ孫の面倒はたまにやる」

大治郎は、少し景色ばって言った。

「ところで、サン、新しい家は、どうじゃ」

ゲンが聞いた。

「まあ、前よりはかなり使いやすくなりそうだ。幸も少しは楽になると思う」

「それは、よかよか」

「ゲン、今年のFXと株の儲けが、300億円になったよ。実際には自動投資AIが毎日働いていたけど」

「へー。お前は、本当に金の製造マシンだな。いろいろと事業をやらなくても、十分に遊んで暮らしていけるのに。つくづくお前は普通の人間とは考え方が違うと思うな。」

「稼いだ金は、全て計画につぎ込む」

「そうだな、実を言うと、俺もその方が楽しいんじゃが」

横でひたすら酒を飲み続けていた大治郎が、真っ赤な顔で割り込んできた。

「サンとゲン、お前たち、1兆円稼いだら。俺の家を作ってくれ。でっかい家だぞ。約束だ」

「わかった。でっかい家を建てちゃる」

サンが答えた。

「俺も引き受けた」

ゲンも答えた。

そしてサンとゲンが大笑いした。



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