第10話 新型量子コンピュータの計画

10.新型量子コンピュータの計画


翌日から、サンと幸は、山の上の研究施設の隣の新築の小さな家で暮し始めた。

椎葉の土地は安い。もはや、サンの家から2キロ四方が全てサンの土地になった。

大治郎の家まで、自分の庭であった。

でも、そのほとんどが山と山の上の凸凹した荒れ土地だった。誰も興味を示さない土地だった。

業者に発注して新型のモノレールを設置し直した。これで、モノレールの移動が高速になり、重い荷物の輸送も可能になった。

大治郎の家から上ってきたモノレールは、サンの家から右方向に曲がり、さらに500m先まで延長した。

そこには、温室を設置した。将来のサンと幸の家の予定地だった。

同時に、ゲンの家を、栄吉の家から1km程離れた土地に作り始めた。予算は、4億円だったが、土地の値段が極めて安い椎葉村では、異例の超高級な建物となった。

サンの家など、足元にも寄れなかった。

何としてもゲンの協力が必要だったのだ。

サンは太陽半導体株式会社に機材と特別な熱電気変換装置を追加注文した。

発電量を大幅に増やすためだった。

ほとんどの時間を、サンは、研究室に籠った。

以前から温めていた最新の量子ゲート方式の汎用型量子コンピュータの設計を始めていた。

1個の素子に128個の量子ビットを組み込み、それを256個連結し、32768個の量子ビットを有する量子コンピュータだ。

それを従来の汎用コンピュータのGPUのように利用してサンが開発した最新版の並行処理対応のF++でプログラミングできるようにした。

そのためには、新型の量子素子が必要だった。今の量子コンピュータで新型の量子素子の設計を行った。

それと量子素子を連結する素子も必要だった。設計が完了すると、以前から依頼していた太陽半導体に依頼する事にした。

初めて、太陽半導体の営業と技術者を自宅に呼んだ。

彼らは、関西から宮崎に飛行機で来て、レンタカーで、山の中の狭く曲がりくねり下が断崖絶壁の道を長時間かかって上がって来た。

そして、大治郎の家から、さらに急峻な山をモノレールで上がってきた。

彼らにとって何もかもが、驚くべきことであった。

サンが、以前の小屋を壊した後に作った研究用プレハブの前で待っていた。

サンに会うと、彼らはさらに驚くことになった。

そこにいたのは、まだ10代にしか見えない青年がたっていたからだ。

「太陽半導体の営業の、神林です」

「第1技術部の、小林です」

二人は、サンに名刺を差し出した。

サンも手作りの名刺を渡した。

「極楽企画の神武 燦(じんむ あきら)です。よろしくお願いします」

「はじめてお会いしました。こんなに若い方とは、想像もしていませんでした。

 まったく、びっくりしました。」

営業の神林が、驚いた表情で話した。商談がうまくいくか少し心配になっていた。

「私も、びっくりしました。今まで送っていただいた概要設計書は、あまりに完璧なので、よほど熟練した技術者と思っていました。」

技術の、小林も同調した。

サンは、二人をプレハブの中に招き、テーブルに座らせた。

テーブルの上には、分厚い設計書が置いてあった。

「早速、仕事の話に入らせていただきます。これが最新版の詳細設計書です。設計書の文書は後でメールでお送りします」

サンは、印刷した設計書を目の前に広げた。

「うーむ。これが、先日メールで御連絡いただいた、量子素子ですね。以前に作成したものより、遥かに複雑になっていますね」

「この素子を、300個作成してください。それと連結素子も300個。後ほど指定した所に納品をお願いします。」

「ロットしては、通常の製作に比べますと、非常に少ないですので、当然、1個当たりのコストは高くなります。総額としましては、2億円程になると思います。それでよろしいですか」

「それで結構です。正式な見積書を頂いたら、前金として半額を振込ます」

「そ、それはすいませんな。あまり取引が無い会社の場合、会社の経理が与信どうのこうのと、うるさいんですわ。前回も、ピシッと払うてもらいましたから、心配はしておりまえせんわ。あははは」

神林は、愛想笑いをしたが、心の中では『前金でやらないと、あぶない』と思っていた。

実際、サンは、複数の半導体会社に門前払いを受け、経営状態が思わしくない太陽半導体にやっと注文できていた。

「神武さん、以前に設計書を頂き、何度もメールをいただき、日本でも有数の熟練した半導体技術者と思っておりました。なぜ、お若いのにこのような設計ができるのですか。」

小林は、純粋な技術者としての興味から尋ねた。

「どうでしょうか。私は、ただインターネットで学び、必要な素子を設計してみただけです。」

謙遜して答えたが、そのこと自身が、半導体設計の常識を逸脱するものであった。

サンは、今の量子コンピュータで新型汎用型量子コンピュータの素子を設計しシュミレーションしていたことは言わなかった。

「神武さん、失礼ですが、会社は設立して何年程でしょうか。」

「極楽企画を設立して4,5年です。ところで、失礼ですが、インターネットで御社の経営状況をみますと、すこし問題があるように思いますが」

「そ、それは前期までの状況でして、研究開発に投資しすぎまして、若干問題が発生しました。今期は、全力投球で販売に努力していますので、大幅な改善を見込んでおります」

神林は、汗を浮かべて弁解した。

「そうですか、私として、数億まででしたら、御社に投資したいと思っています。会社の上司の方に、伝えていただけないでしょうか」

「そ、それは結構なお話ですな。早速上司に伝えておきます」

神林は、会社の状況を知っていたから、心底そう思った。


帰りの車の中で、小林が言った。

「神林さん。あの人は、きっと天才やと私は思います。あんな山の中で、一体何を作り、何をやろうとしているんでしょうかね。」

「何をしようとしているのか、全然わからん。でも、金を沢山もっていそうだから、うちの会社を買ってくれるかもしれんな」

神林は、冗談交じりに言った。

神林と小林が帰ると、今度はサンは、量子コンピュータの回路基板の設計書を大銀河コンピュータ(GGCC)にメールし、回路基板の製作を注文した。

その年の終わりまでに、サンと量子コンピュータは、FXと株で、さらに100億の資金を生み出した。

お金はいくらでも必要だった。

さらにサンは、太陽半導体株式会社に対して、特別な熱電気変換装置と超伝導ケーブルと、冷却装置を発注した。


サンは、量子コンピュータ用のマシン室の建物を実験室と自宅との間に建築することにした。

実験室のミニブラックホールを人の目から防ぐためでもあった。

大椎葉建設に依頼した。地下2階地上1階で、完全防水対策と厳重な侵入対策を行う事にした。

完成は、平和22年5月の予定であった。


平和21年11月1日、サンは極楽ソフトというソフトウェアを開発する会社を設立した。

設立の目的は、幸に作ってあげた人工知能(AI)のアウルをF++で汎用化し、機能強化し、多数の人に使えるようにする為だった。勿論、追加しなくてはならない機能は、山のようにあった。

資本金は、5,000万円、社長は幸が就任した。幸の主な仕事は、事務をこなし求人することだった。

社員は、たったの3名。宮崎県内で求人したが、超田舎の椎葉村に来るようなプログラマーはほとんどいなかった。

やっとのことで、椎葉村出身と高千穂町出身のプログラマーを3名確保したのだ。

彼らの最初の仕事は、毎日、F++を理解することだけだった。



平和21年11月15日、

サンは、小さな半導体会社の太陽半導体に出資し、51%の株を保有した。

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